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食わず嫌いのエンターテインメント

 こんにちは。パオロ・マッツァリーノです。魚のみりん干しって、なんか甘ったるくて好きになれず、ずっと敬遠してました。ところが先日、辛口の日本酒を飲みながらみりん干しを食べる機会がありまして、そしたら、甘さと辛さがあわさってちょうどいい。ああ、こういう食べかたがあったのか。はじめてみりん干しを旨いと思えました。
 私はエンターテインメントに関しては、なるべく偏見や先入観を持たないようにしています。はなっから、つまんないと決めつけて、せっかくのいい作品を見逃してたらもったいないから。よい評判を耳にして、それが自分の好みに合いそうな予感が少しでもしたら、とりあえず見て(聴いて・読んで)みます。つまんなかったらやめればいいだけのことですし。
 そうはいっても、私にだって、苦手な分野はいくつかあります。たとえば、オリンピック。韓流ドラマ。そして、アニメ。この三つは、よほどのことがないかぎりは、見ません。
 よほどのことが起きました。先日まで東京MXで再放送していたアニメ『魔法少女まどかマギカ』を全話見ちゃいました。テレビアニメを全話通して見たのは、『エヴァンゲリオン』以来、かな?
 去年、文化庁のなんとか賞を獲ったり、SF畑の人たちがこぞって絶賛してたのを耳にして、なんでこんな、こども向けアニメみたいのが? と興味を持ってたんです。
 最初は後悔しました。デフォルメイラストみたいな絵柄も苦手だし、アニメ独特の会話のノリも苦手。うわーやっぱりダメだとあきらめかけたのですが、戦闘シーンだけ突如シュールな絵になって、こういうところが評価されたのか? と気を取り直して、とりあえず見続けたところ、3話目で甘い皮が剥がされて、秀逸なホラーとしての本性をあらわしたことで先の展開が楽しみになり、10話で物語の謎がすべて明かされると、なるほどこれは正真正銘SFだ、と納得できました。
 それにしてもレビュアー泣かせの作品ですね。なにをいってもネタバレになりそうだし、みなさんが内容に関して口を濁したわけがわかりました。これ、予備知識がなにもない状態で見るのが、たぶんもっとも楽しめるはずだから。
 こども向けだった甘ったるい魔法少女アニメに辛口の味付けをほどこして、大人の鑑賞に耐える新たなメニューとして提供したことに感心すると同時に、まだまだエンターテインメントには可能性が残されているんだなあと再確認できたのが収穫でした。ていうかこれ、小学生の女の子がまちがって見ちゃったら、トラウマになるかもよ?

 ところで、ミステリーだらけだった今期のテレビドラマでは『リーガルハイ』が図抜けてました。いつもはいいひと役ばかりの堺雅人さんがホントにイヤなヤツに思えるあたり、やっぱり役者です。次点が『ATARU』。『鍵のかかった部屋』は最初おもしろくて期待したものの、非現実的な密室トリックの数々に興味をなくして途中で脱落。密室トリックって、理論的には可能でも、実際そんなことしないだろ、ってシラケてしまうんです。殺人現場にピッチングマシン持ってくか?
 でもじつは私が選ぶ今期のナンバーワンミステリーは、『タイムスクープハンター』シーズン4の第5回、「辻斬りを阻止せよ」でした。
 江戸の町角で治安を守っていた辻番という人たちは、武士ではなく、カネで雇われた町人だったんです。いまでいう警備員、ガードマン。彼らが辻斬りの犯人を追い詰める話なんですが、途中まさかのどんでん返しがあって、見てた人みんな、えっ、と驚いたんじゃないかと思うんですよ。タイムスクープハンターは、実際の記録をもとに再構成してるようですが、本当にこんな事件があったんですかねえ。
[ 2012/06/27 14:02 ] おすすめ | TB(-) | CM(-)

悩めるお母さんのための読書案内が更新されました

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。私の本をコンプしてもなにも起こりませんが、していただけたらうれしいです。
 Web春秋連載の『悩めるお母さんのための読書案内』が更新されました。第12回ということは、一年たったんですね。早いもんです。一周年記念とかも、とくにありません。
 今回の本は『痴呆老人の歴史』。ボケや痴呆が認知症という言葉に差し替えられたいまとなっては、ちょいとばかり刺激的なタイトルです。
 これとあわせて読んでいただきたい本として丹羽文雄の短編小説「厭がらせの年齢」をあげておきましたけど、有吉佐和子の長編小説『恍惚の人』もおすすめです。こちらのほうが断然有名。有名というより、ボケ老人介護をテーマとした小説の代表作にして決定版ですかね。
 でも、むかしの日本映画ファンであり森繁ファンでもある私としては、やはり映画の『恍惚の人』をぜひ、ご覧になっていただきたい。
 痴呆老人を演じた森繁久彌が、はまりすぎて、もう突き抜けちゃってるんですわ。せつないような途方に暮れたような表情で、雨のなか、花を見つめていたりするたたずまいなんて、絶品。
 笑いごとではないんだけど、笑ってしまう。悲劇なんだけど壮絶すぎて笑うしかないってのが、痴呆老人と暮らす家族の心境でしょう。
 夫婦共働きなので、ときどき昼間おじいちゃんの面倒をみてもらう条件で、貧乏な大学生カップルを庭の離れに下宿させるんです。家族の中に他人を入れて介護を手伝ってもらうという、けっこう先進的な発想があったことに感心します。介護を家族だけでやろうとすると、精神的にまいってしまうことが多いといいますから。
 この学生カップルが、悲愴感や義務感とは無縁で、興味深いおもしろキャラとつきあうかのような、あっけらかんとした調子でおじいちゃんと向き合ってます。二人のキャラが全共闘崩れみたいに設定されてるのは、1973年という時代でしょう。「マルクスはボケ老人について、なんかいってたかなぁ」のセリフがおかしくて印象に残ってたんですが、今回はじめて原作を読んでみたら、ないんです。映画オリジナルでした。原作ではこのふたりの扱い自体も、最後のほうに出てくるちょい役程度だったのが、意外な発見でした。
 この映画、DVDレンタルとかないのかな? うちの近所のレンタル屋のぞいたら、置いてなかったですね。前からしつこくいってるんですけど、日本映画の傑作をもっと気軽にいつでも観られるようにしないと、せっかくの文化遺産が埋もれてしまいますよ。
[ 2012/06/22 21:34 ] おしらせ | TB(-) | CM(-)

週刊誌の正義

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。数か月前に別府温泉のことをグーグルで調べて以来、どのサイトを見ても、杉乃井ホテルの広告ばかりが表示されるようになりました。そのうち行くかもしれません。
 別府といえば大分県、大分のみなさんの関心事といえば、AKBのさしこさんですか。そうでもないですか。私もAKB自体にそんな関心はないし、ましてや、さしこさんでしょ(もし熱烈なファンのかたがいたら、ごめんなさい)。どうでもいいっちゃいいんだけど、芸能ニュースは嫌いじゃないもので、喫茶店においてあった週刊文春をめくり、元カレの暴露記事とやらに目を通してみました。
 読んでみたんですが……なんというか、小説の新人賞に応募してきた出来の悪い作文にしか思えないんですけどね。二人の関係性がやたら記号的で、人間味に欠けてるし。それをごまかすために、部屋割りとかシャンプーの商品名とか物質的細部のディテールに凝ってリアルさを出そうとしてるのも、創作初心者にありがちなテクニック。オタクが材料をかき集めて創作しました、というニオイがしてならないんですけど、これがいまの若者のリアルなのだ、といわれたら、40代のおっちゃんとしては、はあ、そうですか、としかいえません。
 記事によれば別れて3年くらいたつんですよね。こんなに饒舌で自己顕示欲の強い男が、いままで3年間も黙ってたことも信じられません。もしこの話が本当なら、周囲の友人とかに、オレ、AKBとむかしつきあってたんだぜ、と日頃から吹聴しまくってたと思うんです。二十歳くらいの男なら、絶対そういう武勇伝を自慢せずにいられないでしょ。
 都内の学生さんってことなので、だったらそろそろ、あいつじゃねえか、って面が割れそうなものですが、それがないとしたら、やっぱりこのネタ、かなり盛ってあるんじゃないの?

 もうひとつ、同じ号に載ってる記事で、日テレの馬場アナウンサーの横領疑惑って話も、まったく意味不明です。
 プライベートで行った旅行代金15万円の領収書を、ある実業家の男性に20万円で売ったというんです。それが立派な横領で、日テレはその件のもみ消しに奔走していると記事には書いてあるのですが、すいません、私、法科大学院とか出てないもので、どこをどう解釈したら、それが法律的に横領になるのか理解できません。法的に問題がないことをもみ消す必要があるとも思えません。
 実業家がその領収書を使って自社の経費を水増し申告したら、脱税にはなりますよね。その領収書を会社の経理に渡して、会社の経費を自分の懐に入れれば横領になるのかな? それにしたって額面15万の領収書では15万分しか落ちないのに、20万円で買ったら5万円損じゃないですか。どんだけ算数の苦手な実業家なんですか。
 要するに、金持ちのスケベオヤジが、下心丸出しでプライベートの旅行代を払ってやったってだけのことなんじゃないの。私は金持ちでもスケベでもないので、そんなことしたことありませんけど。あ、いまの発言を訂正します。金持ちではないけど、スケベの可能性はあります。

 ま、週刊誌の正義ってヤツは、この程度のものなんですね。
[ 2012/06/19 17:52 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)

スカイマーク批判の違和感

 こんにちは。ワイドショーが好きなパオロ・マッツァリーノです。最近あこがれているのは、泥沼離婚とビビビ婚です。
 というわけで、テレビのワイドショーは毎日ではないけど、ちょいちょい見ています。それはひとつには、違和感を感じたいからなんです。芸能ネタにせよ、社会ネタにせよ、ワイドショーの取りあげかたやコメンテーターの意見は、私にとっては、えっ、なんで? と思うものが多いんです。それによって、世間と自分のズレを意識できるのが、おもしろい。

 最近感じた違和感といえば、スカイマークの機内サービス騒動ですね。スカイマークの客室乗務員は余計なサービスを一切しないと会社が正式に宣言してるんです。客が荷物を頭上の荷物入れに乗っけるのも、乗務員は手伝わないと明記されてるなどと、ワイドショーでも軒並み取りあげてました。
 そのサービスに違和感をおぼえたのか? いいえ、ちがいます。私が違和感をおぼえたのは、それについてコメンテーターがつぶやいた言葉のほうです。「お年寄りとかだったらどうするんですか」
 どうするかって? 愚問ですね。近くの人が手伝ってやればいいんですよ。
 だって、あなたが山手線や新幹線に乗っていて、となりの席で年寄りが荷物を棚に載っけようと四苦八苦していたらどうしますか。自分では手を貸さず、車掌を呼ぶのですか? 私だったら、荷物を載っけてあげますよ。べつに自分が特別親切な善人だとアピールしたいわけではありません。おそらくほとんどのかたは、手伝ってあげるんじゃないですか。
 なのになぜ、飛行機に乗ったときだけ、急に親切心をなくして冷たい人間になるのでしょう。日本では、飛行機内では、他人に親切にしてはいけない、座席にふんぞりかえってなきゃいけないという決まりでもあるの?

 もうひとつ、機内での乗務員の私語に関して苦情は受け付けないという宣言にも、コメンテーターのみなさんはご不満な様子でしたが、これにも違和感おぼえまくりです。
 私語がうるさかったら、その場で直接、その乗務員に、静かにしてください、といえばいいじゃない。なんでいわないの? 私だったらいいますよ。
 機内での苦情は受け付けないと宣言してるから、いってもムダなのだ? ああ、大きな誤解をしてらっしゃるようですね。私のは苦情でなく「交渉」といいます。乗務員と客という立場は関係ありません。おしゃべりをしてる人と、静かにしてほしい人との、個人間の交渉は、会社の宣言なんかと関係なく自由にできます。それは自由主義国家の市民が持つ権利ですから。
 会社が乗務員に、機内で私語をしなさい、と命じてるわけではないのです。私語をするかどうかは、あくまで各乗務員の判断に任せているというだけのことです。だから私語をやめてくれるよう、本人と交渉する余地があるんです。
 そもそもおしゃべりをしてるということは、重要な作業中ではないという明らかな証拠ですから、それを注意しても、安全な運行を妨害する行為にはなりません。仮にそうみなされたとしても、私語を注意した客ひとりを強制的にひきずり降ろすために空港へ引き返したりなんかしませんよ。そんなことしたら格安航空会社にとっては莫大な損失になりますから。
 私がもっとも違和感をおぼえるのは、乗務員の私語がうるさくてもその場ではなにもいわずにガマンして、飛行機を降りたあとで航空会社に電話して苦情をいう人です。それで後日、乗務員が上司に叱られたら満足なんですか? くだらない復讐ですね。
 ふれあいとか絆とかいう甘ったるい言葉がちまたにあふれているわりには、他人とじかに話をしたり交渉をしたりするのを極力避けようとするのは、なぜ?
[ 2012/06/14 17:41 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)

都市伝説の男

 都市伝説、キター! こんにちは、長澤パオみでーす。カラダにピース!
 あらためましてこんにちは、パオロ・マッツァリーノです。最近、新たな都市伝説を発見しましたので、いち早くブログ読者のみなさんにご報告します。

「女性が電車の中で化粧をしているのは日本だけだ。西洋の女性はそんなことしない。なぜなら、人前で化粧するのは売春婦が客引きするサインだから。西洋に行って人前で化粧してたら、レイプされても文句はいえない」

 これ、日本人なら耳にたこができるくらい何度も聞いたり、活字で目にしたりしてるんじゃないかと思うんですよ。
 日本の若い女性が海外のホテルのロビーで化粧をしていたら、知らない男につきまとわれてハウマッチといわれたとか、まことしやかなエピソードもあるのですが、どうも私にはそれがみんな作り話っぽく聞こえてたんですよ。そういうわけで以前から、人前での化粧は日本だけ説&売春婦説に疑いの目を向けてました。

 こういうときこそ、世界の声がすぐ聞けるインターネットは便利です。グーグルで"applying makeup in public"と検索してみてください。英米だけでもとてつもない件数がヒットします。他の言語でも検索したら、もっと増えるはず。
http://www.dailymail.co.uk/femail/article-2108147/Two-thirds-British-women-apply-make-morning-commute.html
 イギリスで調査したところ、およそ3分の2の女性が、通勤電車の中で化粧をすると回答した、とあります。イギリス女性の3分の2は、レイプの危険もかえりみず、通勤中に化粧をしているのでしょうか。
 ただしこの調査は、調査方法などの詳細が明らかにされておらず、かなり怪しいです。忙しい貴女にこれがおすすめ、なんて化粧品の広告とタイアップしてますし。3分の2の女性が日常的に電車で化粧をしているとは、さすがに信じがたい。化粧したことがある、くらいの回答だろうと考えられます。

http://www.temptalia.com/do-you-apply-makeup-in-public
 こちらのアメリカの調査には実数が明記されてます。あなたは人前で化粧をしますか? の質問に3810の回答があって、その結果は、
  化粧直しくらいなら、たまにする 59%
  したことない 29%
  してる 11%
 うん、こちらのほうが実態に近いのではないかという気がします。

 さまざまな検索結果からわかるのは、海外でも電車内や人前で化粧する女性はけっこう存在するという事実です。あれは日本だけの現象であって、海外では見たことない、という日本人の説は、あきらかにまちがいです。
 海外でも、人前での化粧はマナー違反だと憤る人と、いいじゃないかとする容認派の議論は、かなり盛んに行われています。
http://www.the-beheld.com/2011/06/applying-makeup-in-public-preserving.html
 このコラムなんか、けっこうおもしろい。ニューヨーク在住の女性(コラムの筆者)が、友人の女性と地下鉄内のマナー違反について話してるところからはじまります。ケータイ使用、足を投げ出して座る、なんてのは日本と同じ。本を読んでると、なに読んでるの? と聞いてくるウザいヤツがいるってのは、日本ではあまりないですかね。
 そして筆者は、パウダーはたいて化粧直しするくらいならともかく、フルに化粧をする女は許せない! と怒るのですが、それを聞いた友人は真顔になります。アタシもしてるんだけど?
「化粧品の粉が散らばるから、吸い込んだら不衛生でしょ」
「あんた、パウダーはたくくらいなら許すっていったじゃん」
「マスカラ塗ってて目を突っついたりしたら危ないし」
「自分で自分の目を突くなら自業自得。あんたの目を突くわけじゃない」
 そしてコメント欄では、読者を巻き込んで批判派・容認派の間でさまざまな議論が交わされます。
 議論をまとめると、批判派が多数で、容認派は少ないです。容認派の主張の代表例は、忙しい朝には電車に乗ってる時間は貴重だから有意義に使うべき。電車に乗り合わせた人は自分とは無関係の他人だから、すっぴんや化粧途中のヘンな顔を見られても平気だ。職場の人にすっぴんを見せるわけにはいかない、というもの。
 それに対し批判派の反論は、電車に乗り合わせた他人だって、自分と無関係ではない、見苦しい化粧姿を見せるのはマナー違反だと、いたって常識的な意見。まあ海外でも常識が主流だとわかって、ちょっと安心しました。
 不思議なのは、こんなに大勢で議論してるのに、人前での化粧は売春婦の客引きだから、という意見はひとつもないことです。(なお途中、娼婦という単語が一度出てきますけど、これはコラムに使われた古い絵画についてのコメントなので、念のため。)

 そしてついに、都市伝説の尻尾をつかみました。
http://www.lonelyplanet.com/thorntree/thread.jspa?threadID=1972125
 ロンリープラネットという、旅行ガイドブックなどを発行している会社のサイト内の質問掲示板で、カナダ在住の人がこんな質問をしています。
「ヨーロッパでは地域によっては、人前で化粧をすると売春婦とまちがわれるのですか?」
 機械翻訳に頼っているかたは、これを読む際には注意してください。皮肉がこもったコメントばかりが並ぶので、言葉の表面だけをすくい取ると、誤読するおそれがあります。
 といいますのは、ネットではありがちですが、この質問を、ヨーロッパ人への侮辱・挑発ととらえた人たちがいて、彼らは皮肉を交えた攻撃的な調子で質問者を責め立ててるんです。
 フランス人のコメント「私はヨーロッパ各地で、人前で化粧する女をたくさん見てきたが、彼女たちを売春婦と思うなんてありえない。いかにもという服装で、街角や赤線地帯に立っていることが、客引きのサインだろう。きみの質問はトップテン級のバカげた質問だ」
 それに対して質問者はこう弁解します。「私はカナダに住んでますが、多くの日本人が、人前で化粧するのは売春婦だという説を信じていると聞いたので、本当なのかなあと思ったんです」
 なんと! この都市伝説の発信源は、やはり日本人だったのです。外国人がだれも知らないウソ常識を、日本人が広めていたとは。するとべつの回答者が「多くの日本人は、オランダ人は風車が立ち並ぶ中を木靴を履いて歩き、チューリップ畑で大麻を吸ってると思ってる」とステレオタイプを皮肉ります。
 ベルギー人のコメント「ブリュッセルに来れば、きみのいう売春婦とやらを毎朝たくさん見られるよ。ここでは通勤時間の渋滞のなか、車の運転をしながら化粧をしてコーヒーまで飲んでる女がいっぱいいるんだ」欧米では、電車内の化粧と並んで、クルマで通勤する女性が運転中に化粧をしてる例がかなり報告されてます。
 べつのコメント「きみの質問は、ヨーロッパの人がカナダの人に、トロントの街ではしょっちゅうシロクマに襲われる人がいるってホントかい? と聞くのと同じくらいバカげてる」
 あんまり叩かれて質問者がへこみ出し、やりすぎだとの声も出たので、みんなさすがに皮肉をやめて取りなします(ホントは日本人のせいなのにね)。べつにきみを個人的に攻撃してるわけじゃない、バカな質問に呆れたんでちょっと悪ノリしただけだ。ただ、その質問への答は、ノーだ。
 オーストラリア人のコメント「人前で化粧したら売春婦にまちがわれたなんて話は聞いたこともないけど、むかし、古い映画の中で売春婦が街角で化粧してるシーンを見た記憶がある」ウワサを広めた日本人も、その映画を見てたのでしょうか。

 今回判明した事実をまとめておきましょう。
・人前や電車で化粧をする女は日本だけでなく、世界中にいる。
・海外でも大多数の人は、それをマナー違反だとみなしている。
・ただし、その理由は見苦しいから、という常識的なものであり、
・西洋では人前で化粧をするのは売春婦の客引きサインというのは、日本だけで通用する都市伝説にすぎない。
・西洋人のなかには、その都市伝説を聞くと侮辱されたと感じる人もいる。

 ですから日本のみなさん、および、マナー講師のみなさんに警告します。みなさんのマナーの常識をいますぐ改めてください。
 日本の若い女性が海外に行き、人前で化粧すると、まずまちがいなく軽蔑されます。しかし、売春婦と間違われたり、レイプされることはありません。尻軽女と思わせるのは、人前での化粧でなく、派手で露出の多い服装のほうでしょう。
 むしろ危険なのは、日本の中高年やマナー講師のみなさんです。ヨーロッパに行って、「人前で化粧するのは売春婦」などというデタラメを得意げに口にすると、ヨーロッパの人たちは侮辱か挑発とみなすおそれがあります。袋だたきにされたり、レイプされたりしても知りませんよ。
[ 2012/06/03 20:52 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)
プロフィール

Author:パオロ・マッツァリーノ
イタリア生まれの日本文化史研究家、戯作者。公式プロフィールにはイタリアン大学日本文化研究科卒とあるが、大学自体の存在が未確認。父は九州男児で国際スパイ(もしくは某ハンバーガーチェーンの店舗清掃員)、母はナポリの花売り娘、弟はフィレンツェ在住の家具職人のはずだが、本人はイタリア語で話しかけられるとなぜか聞こえないふりをするらしい。ジャズと立ち食いそばが好き。

パオロの著作
みんなの道徳解体新書

日本人のための怒りかた講座

エラい人にはウソがある

昔はよかった病

日本文化史

偽善のすすめ

13歳からの反社会学(文庫)

ザ・世のなか力

怒る!日本文化論

日本列島プチ改造論(文庫)

パオロ・マッツァリーノの日本史漫談

コドモダマシ(文庫)

13歳からの反社会学

続・反社会学講座(文庫)

日本列島プチ改造論

コドモダマシ

反社会学講座(文庫)

つっこみ力

反社会学の不埒な研究報告