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素直に笑えない話

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。
 先日、『なぜ人類のIQは上がり続けているのか?』(ジェームズ.R.フリン著)という本を読みました。薄いし文章もわりと平易なのですが、内容はけっこう専門的です。結論よりも検証過程を詳しく記すことに重きを置いてるので、読みものとして一般のかたにおすすめできる感じの本ではないです。どちらかというと専門の研究者が読んだほうが参考になるのかもしれません。
 私はかなり飛ばし読みしちゃいましたけど、有益な情報をいくつか拾えました。そのなかのひとつ、抽象的な仮定を伴う思考はけっこう高度なものであり、教育を受けることでできるようになるという指摘。ろくに教育を受けてなかったむかしの人には、そういう思考は難しかったらしい。
 1920年代のロシアで一般市民に行われた聞き取り調査の例。
「ドイツにラクダはいない。B市はドイツの都市である。では、B市にラクダはいるか、いないか?」
 この問いに、いまなら多くのみなさんが「いない」と答えるでしょう。でもこれをごく初歩的な論理問題として考えられるのは、教育を受けているからなんですよね。
 教育を受けてないむかしのロシア人が、どう答えたかというと、
「ドイツの村は見たことがないからわからない。大きな街ならラクダくらいいるだろうさ」
 これ、本人がわかった上でジョークとしていってるのならいいんですが、たぶんそうじゃない。本気で思ってます。抽象的・論理的な思考方法を学んでない人は、具体的にしか問題を考えられないんです。
 巻末の解説で斎藤環さんはべつの例をあげてます。まだ人種差別意識が強かった1955年のアメリカで、白人の学者が70歳の父親にたずねました。「もし、朝起きて自分が黒人になってたらどう思う?」
 すると父親、「バカも休み休みいえ。そんなヤツがいままでいたか?」

 そうだけど。そうだけどさ……ま、笑い話ですよ。いや、笑えないのかな。われわれに、むかしの人を笑えるほどの知性があると、自信を持っていえますか?
 われわれ現代人は、教育を受けることで抽象的な想像力を持てるようになったはず。論理的に考える力を持てるようになったはず。
 なったはず、ですよね。その能力をみんなが使い、自分と異なる意見を持つ他人の立場を想像して多様性を認めれば、差別や偏見のない公平な社会を実現できるはずなんですが、なかなかそうならない。
 てことはつまり、想像力や論理思考力をあえて使わないようにしてる人がたくさんいるわけです。
[ 2015/10/29 09:14 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)

老後破産と「昔はよかった」病

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。
 週刊新潮10月1日号の老後破産についての記事を読みました。冒頭で私の『「昔はよかった」病』を引き合いに出してます。(この記事は「矢来町ぐるり」という新潮社のサイトにも転載されてるのでネットでも読めます。)
 『「昔はよかった」病』で私は、むかしはよかったという老人の嘆きが歴史的事実とはかなり異なる記憶の捏造であることを検証し、むかしもいまも変わらない、どちらかというとむかしのほうがヒドかったと結論を出しました。
 ところが多くの日本人はこの事実を信じたがらない。どうやら新潮の記事の筆者もその口らしく、パオロはああいってるけど、ちかごろ話題になっている老後破産の現実はどうだ。「誰がどう見ても、「昔はよかった」と言うほかない」とおっしゃる。
 で、その反証例としてあげてるのが、タレントの天地真理さんと漫画家の柳沢きみおさんなのですが、記事を読んだかぎりでは、このふたりが貧窮してるのは浪費癖という個人の性格が大きな原因です。老後破産とは無関係の特殊な例を代表例にされてもねえ。だったら、ギャンブルで破産した老人もみんな老後破産に含めて論じていいの?

 私の本の名前を出してくれたことはありがたいのですが、残念ながらこの記事の筆者も、やっぱり全然わかってません。

 老人福祉制度に関しても、いまは歴史上もっとも恵まれている時代です。なのに、なぜその恩恵にあずかれない老人が増えたかといえば、その理由は誰がどう見ても、長生きする人が増えすぎてしまったからです。
 武見太郎は早くも1967年のレポートで、将来高齢化が進んで社会保障が破綻するだろうと警告しています。戦前は老人が肺炎になれば98%死んでたが、いまは98%治るし、ガンが増えたと騒がれはじめたのも長生きになった証拠である、と医学的見地から予測しているのが興味深い。

 週刊新潮の記事では、昭和の高度成長期には終身雇用で家族を養えマイホームも持てたという意見を載せてますが、これもよくあるステレオタイプ。昭和でも、終身雇用が保障されてたのは公務員と一部の大企業の社員だけでした。会社そのものが倒産することも珍しくない中小企業で終身雇用を約束されてもカラ手形。

 昭和の老人はみんな恵まれていたなんておとぎ話を本気で信じてるのですか? 昭和の新聞雑誌記事にも老人残酷物語はたくさんあります。いつの時代のアンケートでも、高齢者は老後の生活不安を訴えてますし、70年代には日本の老人の自殺率が世界一高いことが問題になり、貧困や疎外感、うつ病などと関連づけて報じられてます。

 高度成長期の企業は、給料の高い老いぼれ社員を早めに定年でお払い箱にして、安い賃金で使える若い労働力を雇いました。昭和40年代までは55歳定年の会社が過半数を占めてました。老いぼれを追っ払ったおかげで就職できたラッキーな若者たちが、いま老人になって老後破産におびえてます。
 バブル期には、地上げで安アパートが次々に取り壊されて、貧しい老人たちが行くあてもなく困っていると報道されました。当時の企業で地上げや土地転がしの実行部隊だったサラリーマンが、いま老人になって老後破産におびえてます。

 これも以前から主張し続けているのですが、いま起きている社会問題のほとんどは、規模や形式は多少違えど、むかしにも起きているんです。
 貧しい老人はむかしもいたし、いまもいる。むかしは老人が少なかったから貧しい老人の姿が目立たなかっただけ。あいつらは甲斐性がないからああなったのだ、怠け者なんだよ、とばっさり切り捨てていた人が、いま老人になって老後破産におびえてます。
 老後破産は他の老人問題同様、いつの時代にもつねに存在したけど、老人が増え、寿命が延びたいまになって、ようやく目立つようになったと見るべきです。

 べつに私は、因果応報だとかいう、坊さんみたいな説法をするつもりはありませんよ。
 社会においては、われわれはだれもが被害者でもあり、加害者でもあります。それは善悪の問題ではありません。いい心がけでいればいいことがあり、悪い心がけにはバチがあたるなんて宗教観は真っ向から否定します。
 だれもが被害者にも加害者にもなる可能性があるし、気持ちだけではどうにもなりません。だからこそ、システムとしての社会保障という制度が必要になるんです。
 人間ってヤツは、加害者の立場にいるときは問題に気づかないものなんですよ。被害者の立場になってはじめて問題に気づくのですが、そうなったらなったで今度は、自分だけがわりを食っていると被害妄想にとりつかれちゃう。
 いまの老人のなかで、自分の世代だけが損をしていると考えてる人がいるとしたら、それもまた「昔はよかった」病なのです。
[ 2015/10/16 09:46 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)

パオ散歩 池袋編

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。今朝、物干し竿を触ったら、今シーズン初の静電気がバチッときました。もうすっかり、秋なんですね。
 そうだ、小さい秋を探しに行こう。むかし懐かしい風情がある、都電荒川線に乗ってみることにしました。いやあ、いいもんですねぇ……なんか、スピード遅ぇな、これ。もっととばせねえのかよ。停留所多いんだよ。走ったと思ったらすぐ止まるじゃねえか。
 イライラするので、東池袋で降りて池袋の繁華街へと向かいました。やっぱ都会はいいものですね。山とか海とか自然はめんどくさい。季節感なんかなくてもいいや。
 池袋にはときどき来ます。都会なのに穴場的な雰囲気があるのがいいんです。でも、なんか将来的に豊島区は人がいなくなって消滅するらしいですよ。こんなに人があふれてるのに? どこの馬鹿がそんなこといってんですかね。
 豊島区が消滅しちゃったら、キッチンABCでメシ食えなくなっちゃうじゃん。池袋界隈ではおなじみの、庶民的な洋食屋です。浅草の有名な洋食屋とかって、べらぼうに値段が高いでしょ。浅草ってそんな金持ちばっかり住んでるのかな。そこいくとキッチンABCはお手頃価格でボリュームがあって、だいたいなに食ってもうまいです。どの料理にも、ちょっと店独自の味付けがあって、他の洋食屋とは違うんだぜ、って主張が感じられます。東口店の店内BGMは、なぜかいつもちょっとむかしの歌謡曲。
 東口地下街にあるカルディコーヒーファームにもよく寄ります。でも買うのは食材やお菓子ばかりで、コーヒー豆は買ったことない。最近、家でコーヒー淹れるのめんどくさくなっちゃったんですよ。ネスカフェエクセラでいいやって感じ。
 カルディの食材でおすすめは、生ハム切り落とし。あんまりしょっぱくないのがいい。それと、わさびドレッシング。飽きの来ない味。そして、たまに食べたくなるのが、パンダの絵が描いてあるパックの杏仁豆腐。

 とまあ、私の池袋での行動範囲はほぼ東口限定なんで、西口にはなにがあるのかさっぱりわからないのですが、今日は珍しく西口の東武までちょいと足をのばします。といいますのは、東武のなかの旭屋書店さんが私の新刊『エラい人にはウソがある』をレジ横に平積みしてくれているとの情報をさくら舎のかたから聞いたもので。
 それにしても池袋駅のデパート、西武、東武は巨大すぎて、わけがわかりません。方向オンチの私は店内で遭難しそうになるのをやっとの思いで旭屋までたどりつきました。
 ありがたいですね、本を平積みにしてくれて、パネルみたいのまでつけてくれてます。たぶん、さくら舎の営業のかたが作ってくれたのだと思いますが。
 『「昔はよかった」病』は新潮新書の売上にけっこう貢献したはずだけど、新潮社は全然宣伝してくれないんですよね。新潮社の常務を批判するようなヤツの本は売りたくないってことなのかな。

 グチはそのへんにしまして、ついでなので東武のなかを歩いてたら『相棒』のイベントをやってました。イベントというかグッズ販売だけですけど。べつに欲しいものはなかったです。どうなんでしょうか、今シーズンの『相棒』。あまり期待しないで見ることにします。
[ 2015/10/10 22:12 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)

日本の学校のデタラメな危機管理から見えるもの

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。
 動物が殺された死骸が近所で見つかったからといって、「万が一のことを考えて」こどもたちに集団登下校をさせる日本の学校。
 その一方で、年間6000件以上の事故が起きたことが報告されているのに人間ピラミッドは平気で続ける日本の学校。
 なんなんでしょうね、このデタラメすぎる危機管理意識は。不審者がうろついているかもしれない通学路よりも、マヌケな指導をする先生がいる学校のほうが、こどもたちにとっては数千倍、数万倍危険です。

「他のスポーツでの事故に比べると、人間ピラミッドの事故件数は同じくらいだ。だから危険とはいえない」とする擁護論がありましたけど、それはデータの読みかたが浅すぎます。
 他のスポーツは通年行われているのに対し、人間ピラミッドは運動会前のごく短期間しか行われてません。その短期間に大量のケガ人が出てるのですから、他のスポーツに比べてはるかに危険度が高いってことを、まさに統計データが証明しているのです。

 自分にこどもがいない私のような人間は、学校でいまなにが起きているのかをまったく知りません。学校はブラックボックスです。人間ピラミッドなんて行事が何年か前から流行っているなんてことも、ニュースではじめて知ったくらいです。
 そんな私が人間ピラミッドの映像をはじめて見たときの率直な感想をいいます。「気持ち悪い」。
 にもかかわらず、人間ピラミッドなんてばかばかしい見世物を続けたがるのは、よのなかには、あんなのを感動とカン違いしてしまう人がたくさんいるからなんでしょうね。
 みんなで一致団結して何事かを成し遂げる崇高な儀式は感動的だ! そんな崇高な目標達成のためにはケガなど多少の犠牲はつきものだ! その程度のことにケチをつけて、感動に水を差すようなマネをするな!
 ま、擁護派の考えはこんなところでしょう。
 こどもたちが自発的にやったことなら、そう取れないこともないけれど、違いますよね。すべて先生の命令で強制的にやらされてるだけですよね。もし、イヤだからやらないというこどもがいたら、先生はきっとこう脅します。おまえひとりがやめたら、全体が成り立たないんだぞ。おまえひとりの身勝手で、みんなが迷惑するんだぞ!
 そんな人間ピラミッドによって養われるのは団結心や絆ではありません。人間ピラミッドは、支配者に服従する奴隷根性を養うだけ。ひょっとして、学級崩壊への処方箋として、従順なこどもを増やす目的で人間ピラミッドが広まったとか? それとも日本の先生がたは、日本を北朝鮮みたいな国家にすることを目指してるの?
[ 2015/10/05 11:02 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)
プロフィール

Author:パオロ・マッツァリーノ
イタリア生まれの日本文化史研究家、戯作者。公式プロフィールにはイタリアン大学日本文化研究科卒とあるが、大学自体の存在が未確認。父は九州男児で国際スパイ(もしくは某ハンバーガーチェーンの店舗清掃員)、母はナポリの花売り娘、弟はフィレンツェ在住の家具職人のはずだが、本人はイタリア語で話しかけられるとなぜか聞こえないふりをするらしい。ジャズと立ち食いそばが好き。

パオロの著作
会社苦いかしょっぱいか

みんなの道徳解体新書

日本人のための怒りかた講座

エラい人にはウソがある

昔はよかった病

日本文化史

偽善のすすめ

13歳からの反社会学(文庫)

ザ・世のなか力

怒る!日本文化論

日本列島プチ改造論(文庫)

パオロ・マッツァリーノの日本史漫談

コドモダマシ(文庫)

13歳からの反社会学

続・反社会学講座(文庫)

日本列島プチ改造論

コドモダマシ

反社会学講座(文庫)

つっこみ力

反社会学の不埒な研究報告