反社会学講座ブログ

パオロ・マッツァリーノ公式ブログ
反社会学講座ブログ TOP > 2016年01月

井上公造さんの矛盾したセンテンス

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。
 ベッキーさんと川谷さんの件についていろいろ申しておりますが、べつに味方してるのではありません。芸能ニュースにはヘンテコな論理がたくさん出てくるので、メディアリテラシーを考えるのにもってこいの教材として日頃から注目しているのです。
 さて、また新たなLINE画面が公開されて話題になってます。ただしあまりにウケ狙いな言葉や、アイコンが古い四角だったりしたことで、捏造ではないかと疑う声も高まっています。しかし他人を叩いてご機嫌なモラルテロリストたちは、まったく耳を貸さないご様子。
 四角いアイコンに関しては、彼の将来を憂う音楽関係者が古いスマホを持ち出したから、などとムリヤリな説明がネットに流布してますが、本人の同意なく所有物を持ち出したら窃盗犯です。憂うべきはそちらでしょう。
 ベーコンが『ノヴムオルガヌム』で指摘したように、虚妄や迷信を信じやすいタイプの人たちは、いったんこうだと思いこむと、反証例がどんなにたくさんあっても無視してしまうもの。これは、私の『「昔はよかった」病』をけなしてる人たちにもあてはまりますけども。

 さて、流出画像について芸能リポーターの井上公造さんが755におかしな書き込みをしていましたので、感情論や倫理的判断を抜きにして、論理的に検証してみましょう。

「ベッキーのLINE流出の件、本物だと言い切れる理由はなぜですか?」
 という質問に対し、井上さんはこう回答します。
「取材で、裏付けを取ったからです。偽物なら、ベッキー側は訴えるべきです!」

 どこがおかしいか、おわかりでしょうか。
 取材で裏付けを取って本物だと確信しているなら、こんな発言をするはずがありません。もし井上さんがホントに裏を取ったという自信があるのなら、偽物である可能性は消えたはずですよね。だとしたら、こう答えるはずです。
「取材で、裏付けを取ったからです。本物だからベッキー側が訴えることはありえません!」
 なのにそう断言できてないということはすなわち、裏付けが非常に弱いことを示しています。

 さらなら疑問は、だれに取材したのかという点。あの画像が本物であるということを、いったいだれがどうやって証明できたというのですか?
 あのやりとりは二人だけでされていたわけで、第三者は会話に介入していません。となると、会話の中身が本物であると証言できるのは当事者である二人しかいないのです。
 文春に持ち込まれた時点ですでに画像や文章が捏造・改竄されている可能性も否めません。捏造・改竄されていたとしても、それがわかるのは当事者の二人だけ。それ以外の人が真偽を判定するのは不可能です。だから関係者にどんなに取材しても裏は取れないのです。
 LINEの運営会社なら通話記録みたいなものから証明できるかもしれませんけど、そんな大事な情報を芸能レポーターにリークするはずがありません。
 残るは、井上さんが当事者である二人に直接取材して本物だという言質を取った可能性ですが、それはもっとありえない。その場合は完全に本物だとわかっているのだから、「偽物なら訴えるべきです」なんて書きこむわけがありません。
 よって、実際には井上さんは裏を取れていないのです。

 ついでにもうひとつ。
「本人が否定しないから本物」
 と主張する人たちがいますが、これも正しいとはいえません。だったら、
「本人が否定すればニセモノ」
 となるのですか? そうとはかぎりませんよね。否定したらしたで今度は「ウソつき!」と叩かれるだけ。
 つまり、否定しようがしまいが、本物であると信じる(信じたい)人たちの気持ちは変わりません。ですからこの場合、「否定も肯定もしない」のがもっとも無難な選択肢です。
[ 2016/01/23 22:02 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)

共感モンスターとモラルテロ

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。東京は2年ぶりくらい? の大雪でした。
 ところで、いったいいつから、芸能人や芸術家を道徳のロールモデルとみなすようになったのでしょうか。
 もともと芸能人や芸術家なんてのは、どこか普通じゃない人、モラルを逸脱した人という認識だったはずなんですけどね。常識を超越したころから芸やアートが生まれるんじゃないか、だから芸能人や芸術家が多少不道徳なことをしても、まあそういうもんだよね、と大目に見られていたわけで。
 売れない役者やミュージシャンを支えてきた女が、売れた途端に捨てられるなんてのは、何百年前から繰り返されてきた古典芸能みたいな話で、いまさらドラマの脚本にしてもボツにされる陳腐なストーリー……だと思うのは私が古い人間だからなんですか。いまの人たちにとっては新鮮なのかな。純愛を信じているの? 捨てられることを覚悟せずに芸能人とつきあった女がバカなんですよ、みたいなまっとうな意見をいったら逆に怒られそうな雰囲気。
 CMタレントの不倫が発覚したことで学習塾がCMを差し替えたというのも、わけがわからない。こどもに悪影響があると心配してるの? バカバカしい。不倫と学力にはなんの関係もないじゃんねえ。それくらいの論理的思考ができない子は、難関校には受かりません。
 それに、なんで不倫や浮気をしたことで芸能人が記者会見で謝罪しなきゃいけないのですか。不倫なんてのは当事者間で話しあってケリをつければいいだけのことで、他人がとやかく口出しすることではありません。芸能プロダクションの株主で、株価が下がるのをおそれてるのならともかく。
 私は先日ツイッターで、感動や共感でものごとの正しさを判断する人を批判しました。これがまさにその実例です。自分が共感できないモラルに出くわすと、それについて考えてみようともせず、いきなり頭ごなしに全否定する。理性ゼロ、感性100パーセントの共感モンスター。自分の感性は絶対正しいと信じて共感できない他人を攻撃するのだから、これはもはや道徳テロリズムです。モラルテロです。

 で、そういうモラルテロに走りがちな「自称善人」どもに冷や水をぶっかけるのがマスコミの役割なのに、ちかごろはマスコミも大衆に迎合しちゃってるんだからだらしない。
 1970年代にある歌手が愛人を殺害してつかまりました。レコード会社の判断で、レコードが店頭から回収されたのですが、当時の週刊誌報道を読むと、歌で殺しのテクニックを教えてるわけでもないのに、なぜレコードを回収する必要があるのだ、みたいな理性的な主張があるんです。そういう骨のあるメディアやジャーナリストはどこへ行っちゃったんですか。

 今回の件では、どちらかというと個人の通信情報が流出・公開されたことのほうが重大な社会問題です。おそらくタレコミを頼りにしてるマスコミ側としては、情報源の秘匿という大義名分と関わるからあまり問題にしたくないんだろうけど、その目的が政治家の汚職や企業犯罪の暴露だったら、多くの人たちの利害や生活に関わる社会問題だから許される余地はあります。だけどたかが芸能人の不倫でしょ。そんなことで個人の通信情報の流出や公開が許されるようになったら、盗聴とかも容認されてしまいかねません。そういう社会のモラルは壊してもいいのですか。
 刑事事件だと違法なやりかたで入手された証拠は証拠にならないけど、民事だとどうなんだろう? 仮にあのLINE画面が捏造でないとしたら、違法なやりかたで入手されたことはまちがいないわけで、もしも離婚訴訟が起きた場合に証拠能力があるのでしょうか? 裁判になったら情報提供者があきらかにされるのでしょうか。なんだか、わくわくしますね。

 とまあ、こういういろんなことに考えをめぐらせようともせず、「不倫はいけません」みたいな型どおりの道徳ばかりをあげつらう人たち。なにも考えようとせず、感じたままに共感できない他人をぶっ叩く。謝罪しろ反省しろと他人を責める自分を正義と疑わない連中こそが、真のゲス野郎です。でもそういう連中は死ぬまで謝罪も反省もしないんですよね、ゲスだから。
[ 2016/01/18 17:13 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)
プロフィール

Author:パオロ・マッツァリーノ
イタリア生まれの日本文化史研究家、戯作者。公式プロフィールにはイタリアン大学日本文化研究科卒とあるが、大学自体の存在が未確認。父は九州男児で国際スパイ(もしくは某ハンバーガーチェーンの店舗清掃員)、母はナポリの花売り娘、弟はフィレンツェ在住の家具職人のはずだが、本人はイタリア語で話しかけられるとなぜか聞こえないふりをするらしい。ジャズと立ち食いそばが好き。

パオロの著作
会社苦いかしょっぱいか

みんなの道徳解体新書

日本人のための怒りかた講座

エラい人にはウソがある

昔はよかった病

日本文化史

偽善のすすめ

13歳からの反社会学(文庫)

ザ・世のなか力

怒る!日本文化論

日本列島プチ改造論(文庫)

パオロ・マッツァリーノの日本史漫談

コドモダマシ(文庫)

13歳からの反社会学

続・反社会学講座(文庫)

日本列島プチ改造論

コドモダマシ

反社会学講座(文庫)

つっこみ力

反社会学の不埒な研究報告