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『プラトニック』にハマってます

 こんにちは、オリンピックとワールドカップにはまったく興味がないパオロ・マッツァリーノです。興味がないので、応援も批判もしません。負けたからといって誰かを責めることもないし、勝ったからといってべつにうれしいとも思わない。どこの国が優勝しようがどうでもいい。
 私の中でいま一番盛り上がってるテレビ番組は、NHKBSでやってる連ドラ『プラトニック』です。
 心臓移植以外に治る見込みのない心臓病を患う娘を持つ母親(中山美穂)に、ネットで知り合った見知らぬ青年(堂本剛)が「ボクの心臓を娘さんにあげます」と申し出る。青年は脳腫瘍で余命わずかと宣告されていたのだ。それが違法な臓器売買に該当するとわかると、青年は娘の母親に結婚を申し出る。親子間の移植なら形式上は許されるはずだと……
 って、ストーリーだけ聞くと、なんかあざといでしょ。難病ものプラス恋愛もので号泣必至の方程式。おいおいNHKまでそんな視聴率稼ぎに走るようになったのか。
 ちかごろの日本映画ってさ、難病ものがやたら多くない? いいひとが難病になって死ぬ、かわいそう、泣ける。悪い人が難病になっていいひとになって死ぬ、やっぱかわいそう、泣ける……こんなんばっかり。そりゃかわいそうなのはわかってるさ。でもそれをウリにした話はもううんざりだ。だれだっていつかは死ぬんだ!
 ……って、脚本の野島伸司さんも思ったんじゃないですかね。だから、お手軽に涙と感動を求めて寄ってくるような連中にちょっと嫌な気分を味わわせてやろう、と意地の悪いことを考えたんじゃないかと勘ぐってしまうこの『プラトニック』というドラマ。かなりどす黒い毒が仕込まれているインモラルな話なんですが、巧妙にできてるので、毒に気づかずに批判したりほめてる人も、けっこういるようです。
 中山さんが演じる母親は、一見、難病の娘に自分の人生を捧げる聖母か菩薩のような女だけど、2話、3話と進むにつれて、じつは娘の治療のためなら女であることを利用して男を誘惑することも厭わない、逸脱したモラルの持ち主であることが明らかになっていきます。
 そういう内面のおぞましさや二面性に、人間的でおもしろいと興味を持てる人なら、このドラマにハマります。安易な感動を期待してた人は、共感しづらいことにとまどい、2話か3話で見るのをやめたかも。
 さらに鈍感な連中は、このドラマを見て不快感をおぼえても、それが自分のなかのモラルを揺さぶられたからだと気づかない。そこで不快感の原因を、設定にムリがある、こんなのありえない、などと、リアリティのなさのせいにして叩いてる的外れなレビューが、ネットの芸能ニュースなどにもありました。
 じゃあ、水戸黄門みたいなリアリティのかけらもない話が絶大な支持を集めたのはなぜなんです? それは、勧善懲悪を求める視聴者のモラルに合致してたからです。よのなかの多くの人々はドラマ・映画・小説に、リアリティではなく、自分が共感できるモラルを強く求めます。モラルに合致していれば、リアリティなんてどうでもいいんです。
 自分のなかのモラルを最大限肯定された状態を、人は「感動」と呼ぶんです。だから感動は人を成長させません。人は、自分と異なる倫理観、価値観が存在することを知ったときにしか、成長できないんです。
 現時点では、『プラトニック』の結末がどうなるのかは、予測できません。案外、普通っぽいところに着地してしまう可能性もないとはいえません。
 たとえそうであっても、視聴者に媚びを売り、視聴率が下がると視聴者が喜びそうな方向へストーリーを修正していくような民放地上波のドラマとは、こころざしがちがうことだけは、たしかです。
 おすすめしといてなんだけど、これ途中から見たらおもしろさ半減だから、興味を持ったかたは、再放送やDVD化を待つか、配信などで最初から見てください。
[ 2014/06/21 17:01 ] おすすめ | TB(-) | CM(-)
プロフィール

Author:パオロ・マッツァリーノ
イタリア生まれの日本文化史研究家、戯作者。公式プロフィールにはイタリアン大学日本文化研究科卒とあるが、大学自体の存在が未確認。父は九州男児で国際スパイ(もしくは某ハンバーガーチェーンの店舗清掃員)、母はナポリの花売り娘、弟はフィレンツェ在住の家具職人のはずだが、本人はイタリア語で話しかけられるとなぜか聞こえないふりをするらしい。ジャズと立ち食いそばが好き。

パオロの著作
会社苦いかしょっぱいか

みんなの道徳解体新書

日本人のための怒りかた講座

エラい人にはウソがある

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13歳からの反社会学(文庫)

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