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気持ち悪いあいさつ

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。
 新潮45の連載で書いた「絆とふれあい」の回に入りきらなかったネタ。
 日本全国の小中学校では、毎朝、登校してくる生徒を校門の前で先生がお出迎えしてあいさつをするという、ヘンな風習があるのですが、なんでそこまでして、オトナがこどもに媚びを売らなきゃいけないんですか。
 それがこどもたちへの愛情のアピールだとでも思ってるのでしょうか。先生たちは、いつでもキミたちをやさしく見守っているよ! あいさつは、先生とキミたちとの絆だよ!
 こどもたちは内心、こう思ってます。「うぜえ」。

 いつからこんな気持ち悪い風習が広まったのか調べたところ、どうやら1987年の日教組教研集会での報告がきっかけだったと判明しました。
 大阪の荒れた中学で、PTAが校門前に毎朝立ってあいさつ運動を7年間続けたところ、学校が再生した、という例が報告されると、「そうか! 毎朝校門であいさつをすれば、校内暴力がおさえられるんだ!」全国の学校関係者がその報告にとびつき、またたくまに朝のあいさつ運動が全国に波及したのでした。
 ……なんといいますか、ものごとの因果関係ってのをまるで理解していない。水は言葉がわかるだとか、江戸しぐさだとかを真に受ける教育関係者が多いのもムリはないのかな。
 中学の生徒は3年ですべて入れ替わります。7年も経てば校風も、社会情勢だって変わります。ツッパリブームも時間が経てば終わるんです。過去の例を見ても、こどもたちが荒れる時期とおとなしくなる時期は交互に来ています。荒れる生徒が減ったのは時代の流れによるものであって、あいさつとは無関係です。
 あいさつは人間関係の基本だという主張には賛同します。大切な社会習慣としてこどもに教えるのもかまいません。だったらなおのこと、校門でのあいさつはやめるべきです。社長が毎朝新入社員をお出迎えしてあいさつしてる会社などないんだから、先生が生徒をお出迎えするあいさつは、実社会にない誤った習慣を教えてることになります。ウソのマナーを教えてはいけません。
 あいさつになんらかのご利益があるかのように教えるのもいけませんね。それはインチキ宗教と同じ手口です。このツボや石を買うと病気が治る、宝くじが当たる、みたいな。
 あいさつは人間関係を円滑にする手助けをするもの。それ以上でも以下でもない。あいさつに効果やご利益があるかのように布教するのはやめてください。
 悪人だってあいさつくらいしますよ。ヤクザは元気よくあいさつするけど人を殺してるでしょ。元気よくあいさつする運動部が、過去にどれだけ暴力沙汰で活動停止処分を受けてますか。たぶん誘拐犯も、最初はこんにちはー、と笑顔でこどもに近寄っていくんじゃないですか。いきなりナイフをちらつかせたら、当然こどもは逃げますから。あいさつをする人がいい人、しないのが悪い人なんて区別はできません。
 あいさつに犯罪を減らす効果があると主張するかたは、小笠原の海に行って毎日あいさつして、中国の密漁船を追っ払ってくださいよ。効果が出るまで7年かかる? がんばってください。

 校門前での朝のあいさつ運動がはじまってからも、文科省の統計によると校内暴力はじわじわ増えてます。こないだの土曜日にNHKの番組見てたら、最近、小学校でこどもたちの暴力が問題になっているそうです。
 で、その原因が「ストレス」だってさ。なんでもかんでもストレスのせいにするのも安易ですけど、まあ、そりゃストレスは溜まるでしょうね。私が見ててもわかります。いまのこどもたちは、学校帰りに道草食って息抜きする自由すら認められてないんです。登下校のあいだも、おそろいの蛍光グリーンの帽子かぶったおせっかいジジイやババアがずっとついてきて見張られる。校門ではおはよう、おはよう、と九官鳥みたいにあいさつを押しつけてくる先生たち。
 私がこどもなら、絶対イヤですね。暴れる子はまだ救いがあります。それが人間として正常な反応です。
 むしろ心配なのは、オトナたちの歪んだ愛情の押し売りにガマンして、反抗しないおとなしい子たちです。オトナが望む「いい子」を演じているこどもには、相当のストレスでしょう。
 こどもはあんたらが考えるほど弱くないし、見守られたいとも思ってない。よけいなおせっかいはやめて、もっと放っておいたらどうですか。
 こどもが頼ってきたときだけ話を聞いてやればいいし、こどもが悪いことをしたときだけ叱ればいい。そういうあたりまえのことをせずに、あいさつ運動だのパトロールだのといったわけのわからない活動を派手にやって穴埋めしたつもりになり、効果もないのに自己満足に浸るのは、いかさまですよ。
 なにをエラそうにぬかしやがって、と批判したいかたは、まず、拙著『怒る!日本文化論』を読んでください。私が理屈をこねるだけでなく、実践もしてることがおわかりになるはずです。
[ 2014/11/06 14:33 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)
プロフィール

Author:パオロ・マッツァリーノ
イタリア生まれの日本文化史研究家、戯作者。公式プロフィールにはイタリアン大学日本文化研究科卒とあるが、大学自体の存在が未確認。父は九州男児で国際スパイ(もしくは某ハンバーガーチェーンの店舗清掃員)、母はナポリの花売り娘、弟はフィレンツェ在住の家具職人のはずだが、本人はイタリア語で話しかけられるとなぜか聞こえないふりをするらしい。ジャズと立ち食いそばが好き。

パオロの著作
会社苦いかしょっぱいか

みんなの道徳解体新書

日本人のための怒りかた講座

エラい人にはウソがある

昔はよかった病

日本文化史

偽善のすすめ

13歳からの反社会学(文庫)

ザ・世のなか力

怒る!日本文化論

日本列島プチ改造論(文庫)

パオロ・マッツァリーノの日本史漫談

コドモダマシ(文庫)

13歳からの反社会学

続・反社会学講座(文庫)

日本列島プチ改造論

コドモダマシ

反社会学講座(文庫)

つっこみ力

反社会学の不埒な研究報告