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温泉枯渇ミステリー

 こんにちは。ミステリー大好き、パオロ・マッツァリーノです。
 今期のテレビドラマはミステリーが多いですね。ミステリーは無難っちゃあ無難です。謎を提示して興味を惹きつけ、解き明かしてすっきりさせるというパターンが嫌いな人は、あんまりいません。
 というわけで本日は、当ブログも統計ミステリーをお送りします。題して「塩谷瞬ってだれなんだ」あっ、まちがえました。泣いておわびします。正しくは、「温泉枯渇ミステリー」。
 日本では早くも昭和30年代から、温泉枯渇が全国的な問題となっていました。読売新聞昭和34年7月20日夕刊の、各地で温泉枯渇の兆候が現れたという記事を皮切りに、昭和40年代、50年代にも、朝日読売両紙に同様の報告があります。
 温泉行政を管轄している環境庁の昭和52年度の調査では、日本全国21959の源泉のうち、3776、じつに17%の源泉はすでに枯渇していたという、衝撃のデータが明らかにされているのです(『温泉科学』1978年12月号)
 用語の説明が必要ですね。お湯が自然に地下から噴き出しているところ、あるいは穴を掘ってお湯を汲みだしている井戸を「源泉」といいます。温泉宿がそれぞれ源泉を持ってるところもあれば、いくつかの源泉を温泉地全体が共同で使ってるところもあります。
 枯渇の原因は自然の要因(火山活動や地下水脈の変化など)や人為的要因(おもにお湯の汲み出しすぎ)など多岐にわたるため、なぜ枯れたのか、因果関係を特定するのは非常にむずかしい。
 ひとつ確実にいえるのは、源泉が枯渇するのは決して珍しい現象ではないということです。いまでも日本中のあちこちで源泉が枯れていて、その総数は、統計から推測すると少なくとも毎年、数百にのぼります。現在、環境省が公表している温泉統計では枯渇源泉数を省いた数しか明らかにされてませんので、推測でしかありませんが。
 そんなに源泉枯渇が続いているのなら、日本の温泉はもうそろそろなくなっちゃうのでは――温泉好きの日本人なら危機感をおぼえますよね。ところが統計はその予想を覆します。温泉地数も源泉数も、戦後から現在に到るまで増加傾向を続けているのです。
 昭和52年と平成22年を比較しても、温泉地数は1990から3185に増加、枯渇分を除いた利用中の源泉数は、18183から27671と、こちらも大幅に増加しています。(環境省「温泉利用状況経年変化表」)源泉数は近年やや減少に転じましたが、それでもなお、バブル崩壊のころよりも多いんです。
 ミステリーです。源泉枯渇は続いているはずなのに、この隆盛ぶり。
 この謎は簡単に解けました。要するに、枯渇分を上回る数の源泉を、毎年新たに掘ってるんです。源泉の掘削には都道府県知事の許可が必要ですが、環境省の統計によれば、新規掘削の申請が不許可になることはほとんどありません。掘削が許可されたものだけでも全国で年平均約430本(平成13~22年度の平均)。すべて稼働はしないにしても、毎年かなり増えてるはず。そのくせ源泉総数の増加は平均すると年に110本程度にとどまってます。てことは計算上、枯渇・消滅した源泉はかなりあることになります。

 「温泉枯渇」という言葉を使うから、いかにも温泉地全体のお湯が枯渇して消滅してしまうかのような誤解を与えてしまうんです。源泉一本の秘湯の宿はべつとして、通常、温泉にはいくつか源泉がありますから、ひとつふたつ枯渇しても、温泉地全体が廃業に追い込まれることは、まずありえないんです。
 源泉のひとつが突然枯れたのに、となりの源泉からは以前と同じようにお湯が出ているなんて例も珍しくありません。東日本大震災のあと、新潟の弥彦温泉でそういう現象が起きました。それがニュースで報じられると、温泉地全体のお湯が出なくなったという風評被害に悩まされたそうです。実際には源泉のひとつが枯れただけで、他の源泉には影響はないとのこと。

 さて。私がなぜ突然こんな話をしたのか、それもミステリーですか。では理由をお話しいたしましょう。私がお伝えしたいのは、源泉枯渇はむかしから日本全国で普通に起こっている現象であるという事実。そして、枯渇する一方で、新たな源泉をばんばん掘ってるという事実です。
 ところが、地熱発電の建設計画や調査の話が持ち上がった途端、突如として温泉関係者たちは、温泉が枯渇するおそれがあるから掘るな! と反対するんです。
 これを受けてマスコミが、地熱発電は地元との共存が課題だと報じますと、まるで地熱発電と温泉業は敵対関係にあるかのような印象を一般の人に与えてしまうのです。
 実際には地熱発電のせいで温泉地全体が枯渇した例などないし、日本の地熱発電所はどこも地元と共存できてるじゃないですか。
 問題がまったくないとはいいません。でも研究と改善を重ね、長年にわたって地元と共存してることは評価されるべきでしょう。温泉ぶっ潰してまで発電所をゴリ押しで作ったなんて例はないんですよ。問題がないわけじゃないからこそ、共存可能かどうか調査のための試掘をさせてくれと頼んでるのに、それすらさせてもらえません。
 もし地熱発電が地元に致命的な損害を与えていたら、新聞雑誌が黙っているはずがありません。なのに、その手の報道は1件もないんです。発電所が汲み上げたお湯を地元の温泉に分配しているのを、廃水を温泉に使っていると週刊ポストが誤報した例ならありますが。
 だれかが圧力で報道を止めてるのだ? 陰謀説ですか。ありえませんね。そんな強大な権力がバックにあるなら、とっくのむかしに日本中が地熱発電だらけになってなきゃおかしいでしょ?
[ 2012/05/07 22:27 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)
プロフィール

Author:パオロ・マッツァリーノ
イタリア生まれの日本文化史研究家、戯作者。公式プロフィールにはイタリアン大学日本文化研究科卒とあるが、大学自体の存在が未確認。父は九州男児で国際スパイ(もしくは某ハンバーガーチェーンの店舗清掃員)、母はナポリの花売り娘、弟はフィレンツェ在住の家具職人のはずだが、本人はイタリア語で話しかけられるとなぜか聞こえないふりをするらしい。ジャズと立ち食いそばが好き。

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