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『「昔はよかった」病』好評発売中、そして私が惹かれる純文学

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。
 それにしても、「暑い」以外の言葉が思い浮かびません。真っ昼間、おもてを歩くだけで身の危険を感じるレベルです。東京は日が落ちても朝までずっと30度なんですから。夕涼みができたむかしはよかった?

 金曜日、秋葉原に行ったついでにヨドバシの上の有隣堂をのぞいたら、『「昔はよかった」病』が新書ランキングの3位になってました。ありがとうございます。他の書店さんでもそこそこ売れてるとのことで、本当にありがたいかぎりです。
 私の本は読んで面白がってくれる人と怒る人にわかれます。自分では誰にでも読めるようなエンターテインメントとして書いてるつもりですけど、万人受けしないところは純文学っぽいのかもしれません。
 又吉さんの本が純文学かどうかって議論があったようですね。私は読んでないのであの本については判断できませんが、私なりの基準ですと、世間の倫理・道徳観に沿っているのがエンターテインメント。世間の倫理を無視、あるいは逆なでしてるのが純文学。エンタメ読んで「感動する」のは、世間の倫理観に合っているからです。純文学は人間の皮をめくってイヤな面を平気で見せたりするんで感動しません。不愉快になる人もいます。

 私が好きな作品ですと、辻原登さんの短編集『枯葉の中の青い炎』に収録されている「ちょっと歪んだわたしのブローチ」。
 突然ダンナが奥さんに、しばらくのあいだ家を出て若い愛人と暮らすことにしたと宣言します。普通だったら、はぁ? 何いってんの馬鹿じゃないの死ぬの? ってなるところですが、この奥さんは文句もいわずそれを認めて平然とダンナを送り出すんです。
 この端緒だけでもう、倫理観の強い常識人はついていけないかもしれません。
 奥さんは、ダンナと愛人が暮らすマンションを突き止め、その向かいの建物に部屋を借りて毎日通い、ふたりの部屋をこっそり観察しはじめます。この展開も予想がつきそうでいて、エンタメの定石を微妙にはずしてくるので、読んでて落ち着かない感覚になるんです。
 オチもなんだかゾッとするんで、怖い話っぽいけどホラーでもない。かといってミステリを期待すると、オチに到るまでの論理的説明がすぱっとカットされてるので裏切られる。もしこれがミステリの賞の応募作だったら酷評されかねません。でもエンタメでなく純文学だから許されるし、なぜかとても惹かれる一編なんです。
[ 2015/07/26 20:42 ] おすすめ | TB(-) | CM(-)
プロフィール

Author:パオロ・マッツァリーノ
イタリア生まれの日本文化史研究家、戯作者。公式プロフィールにはイタリアン大学日本文化研究科卒とあるが、大学自体の存在が未確認。父は九州男児で国際スパイ(もしくは某ハンバーガーチェーンの店舗清掃員)、母はナポリの花売り娘、弟はフィレンツェ在住の家具職人のはずだが、本人はイタリア語で話しかけられるとなぜか聞こえないふりをするらしい。ジャズと立ち食いそばが好き。

パオロの著作
会社苦いかしょっぱいか

みんなの道徳解体新書

日本人のための怒りかた講座

エラい人にはウソがある

昔はよかった病

日本文化史

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13歳からの反社会学(文庫)

ザ・世のなか力

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日本列島プチ改造論(文庫)

パオロ・マッツァリーノの日本史漫談

コドモダマシ(文庫)

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続・反社会学講座(文庫)

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コドモダマシ

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つっこみ力

反社会学の不埒な研究報告