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日本語の問題 その2

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。
 高畑裕太さんが不起訴になり、担当した弁護士が経緯を説明する文書をマスコミに公表しました。あれ読んだかた、ヘンだと思いませんでした? そう、たしかにあの文書、かなりヘンな日本語を駆使してるんです。一部引用します。

しかしながら、知り得た事実関係に照らせば、高畑裕太さんの方では合意があるものと思っていた可能性が高く、少なくとも、逮捕時報道にあるような、電話で「部屋に歯ブラシを持ってきて」と呼びつけていきなり引きずり込んだ、などという事実はなかったと考えております。



 モヤモヤしますよね。「事実はなかった」とはいってないんです。あくまでも、「事実はなかったと考えております」であるところに注意してください。
 じゃあ、「考えた」のは誰なのか。ところがこの文章、主語がありません。だから被害者女性をいきなり引きずり込んだという事実はなかったと考えているのが誰なのか、はっきりしないんです。
 この前の文章には「私どもは」という主語があるので、これが次の文にもかかっていると仮定すると「私どもは……考えております」となります。
 すると今度は、「私ども」とは誰と誰を指すのか、という疑問が生じます。
 高畑さん本人は含まれるのか。それとも弁護士のチームだけを指すのか。わからないんです。そこが重要なのに、主語を省略しがちな日本語の特性を利用してあいまいにボカしてます。
 なのでこの文章からは、高畑さん本人も「事実はなかった」と考えているのか、弁護士だけがそう考えているのか、判断できません。

 「知り得た事実関係に照らせば、高畑裕太さんの方では合意があるものと思っていた可能性が高く」ってところもヘンですね。
 もしも高畑さん本人が「合意があるものと思っていた」と弁護士にいったなら、本人がそういった、と弁護士は表記するはずです。
 ところが、「知り得た事実関係に照らせば……可能性が高い」などと、なんともまわりくどい日本語を駆使してごまかしてます。
 てことは、この弁護士は、高畑さん本人の口から「合意があるものと思っていた」という証言を得ていないんです。やはり「私ども」には高畑さん本人は含まれず、弁護士が考えているだけなんです。

 高畑さん本人がどう考えているのか、この文書からはまったく読み取れません。高畑さん本人の証言もあいまいな上に、「他の関係者の話を聞くことはできませんでした」とありますから、被害者の話はまったく聞いてないんです。
 つまりこの文書は、弁護士が頭のなかで描いたシナリオを説明してるだけなんです。最悪の可能性としては、高畑さん本人は罪を認めているのに、周囲の人間が何もいわせず事を勝手に進めてしまったことも考えられます。

 「○○と考えている」と発言したなら、なぜそう考えるのかを説明しなければいけません。それが論理的な説明、論理的な文章です。考えているだけなら発言者の意見にすぎず、説明にはなりません。
 前回のブログで私は、「おとっさん」は「おとっつぁん」と発音したのが正しいと考えていると書きました。そのあと、なぜそう考えたのかを説明しています。
 自分はこう考える、なぜならば……というのが常識的な論理的説明のやりかたです。
 弁護士の文書は、なぜそう考えるのか、その理由をろくに説明もせずあいまいな言葉でごまかしているくせに、「違法性の顕著な悪質な事件ではなかったし、仮に、起訴されて裁判になっていれば、無罪主張をしたと思われた事件であります」と結論だけは断定しています。
 結果的に、なんの根拠も示さずに、被害者に非があるかのように決めつけてます。おそらく、この文書を読んでそう解釈した人もいることでしょう。
 この弁護士の文書を読んで不快に感じるのは、不誠実な論理で組み立てられているからです。

 以前から私は警告してきました。ちかごろ日本のみなさんは、会見のお辞儀や態度や言葉づかいなど、表面的なところだけで誠実かどうかを決めてるけど、そんなことばかりに注目してると、ごまかしかたのうまいヤツだけがのさばるようになりますよ、と。
 誠実さの本質は、論理にあります。大事なのは、論理が誠実かどうかなんです。
[ 2016/09/11 23:20 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)
プロフィール

Author:パオロ・マッツァリーノ
イタリア生まれの日本文化史研究家、戯作者。公式プロフィールにはイタリアン大学日本文化研究科卒とあるが、大学自体の存在が未確認。父は九州男児で国際スパイ(もしくは某ハンバーガーチェーンの店舗清掃員)、母はナポリの花売り娘、弟はフィレンツェ在住の家具職人のはずだが、本人はイタリア語で話しかけられるとなぜか聞こえないふりをするらしい。ジャズと立ち食いそばが好き。

パオロの著作
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