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妖怪自己責任

 有権者のみなさま、こんにちは。新党アルデンテ代表のパオロ・マッツァリーノでございます。党員は私一人なので、わが党は分裂いたしません。
 さて、いまや日本国民を二分する議論となっていることといったら、そう。レバ刺し禁止問題です(消費税じゃねえのかよ)
 禁止直前には焼き肉屋に行列してまで食べる人がいたというくらいですから、好きな人は好きなんでしょうねえ。個人的には、レバニラ炒めは好物ですが、それ以外のレバー料理にまったく思い入れがないもので、レバ刺しを一生食べられなくても全然平気なんですが、レバ刺し復活を望む声を無視するわけにはまいりません。なんたってわが党のキャッチフレーズは「ポピュリズムが第一。」ですから。

 ありがちな意見としまして、「食べて病気になってもかまいませんという誓約書を書かせ、客の自己責任で食べさせればいいんじゃないか」という人がいます。
 たしかにそれは一理あるんですが、自己責任という言葉が出るたびに、私はいつも警戒してしまいます。自己責任というのは、実態のない妖怪だと思ってますので。
 自己責任でレバ刺し食べたいとおっしゃるかたは、どこまでを自己責任とお考えなのでしょう。そこをはっきりしておいていただきたい。私の想像では、食中毒になっても店に損害賠償責任は問えない、刑事罰の対象にもしない、というだけの意味で〝自己責任〟という言葉を使っているのでは? だとしたら、考えが甘すぎます。
 レバ刺し食べて即死するのなら話は単純です。が、現実には食中毒で即死することはありません。感染から発症まで一週間くらいかかることもあるそうだし、発症して苦しみ出したとして、「これはきっとレバ刺しのせいだ。自己責任だから拙者は医者の世話にはならぬ」とガマンする武士道精神みなぎる人がいったいどれくらいいるものやら。そこまで貫徹してはじめて、自己責任といえるのですが、ありえないでしょ。自分はガマンできても、家族やこどもが苦しんでいるのを見殺しにはできません。

 その場合の問題は治療費です。レバ刺しで食中毒になったら自己責任というのなら、その治療費は全額自己負担にするのがスジです。国民健康保険などの公的医療保険を使って、本人3割負担で済まそうなんて甘い考えはダメですよ。それだと治療費の7割を他の人の保険料や税金で負担することになりますから、自己責任ではなくなってしまいます。自己責任というのなら、レバ刺し食って食中毒になった場合の治療費、入院費は全額自己負担とする、という一文も誓約書に入れてもらわねばウソになります。
 そういう人が増えたら、保険会社がレバ刺し保険ってのを作ってくれるかもしれません。きっと、ちょっと渋めの俳優がテレビCMをやります。
「レバ刺し……。食べたいけど、もしものことを考えたら、心配ですよね。そこで、この保険。月々980円で、保証は一生涯。あなたのレバ刺し食中毒治療をサポートします。まずは、お電話を」
 CMタレント、だれがいいですかね。渡部篤郎さんとか、いい線じゃない? 勝手に決めんな?

 と、盛り上がってみましたが、残念ながらこれは現実的ではありません。私が自己責任を妖怪だといったのは、理念としては存在できても、現実には存在できないからです。
 この方法を実際にやってみても、うまくいきません。ほとんどの人が不正に治療を受けるだろうことは、目に見えてます。レバ刺しを食べたことを隠して医者にかかるでしょう。医者も苦しんでる患者に、「ねえねえ、レバ刺し食べたんじゃない? 食べてないの? ホントに?」としつこく問い詰めるわけにもいきません。
 結局は、自己責任を唱える人たちも、いざとなったらだれかに助けてもらうことになるんです。レバ刺し問題にかぎらず、自己責任でなにかをしてもよいことにしよう、ってのは理想論にすぎません。自己責任で、というフレーズを気安く使ってると、いつか、妖怪自己責任に取り憑かれますよ。
[ 2012/07/03 19:23 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)
プロフィール

Author:パオロ・マッツァリーノ
イタリア生まれの日本文化史研究家、戯作者。公式プロフィールにはイタリアン大学日本文化研究科卒とあるが、大学自体の存在が未確認。父は九州男児で国際スパイ(もしくは某ハンバーガーチェーンの店舗清掃員)、母はナポリの花売り娘、弟はフィレンツェ在住の家具職人のはずだが、本人はイタリア語で話しかけられるとなぜか聞こえないふりをするらしい。ジャズと立ち食いそばが好き。

パオロの著作
みんなの道徳解体新書

日本人のための怒りかた講座

エラい人にはウソがある

昔はよかった病

日本文化史

偽善のすすめ

13歳からの反社会学(文庫)

ザ・世のなか力

怒る!日本文化論

日本列島プチ改造論(文庫)

パオロ・マッツァリーノの日本史漫談

コドモダマシ(文庫)

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続・反社会学講座(文庫)

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つっこみ力

反社会学の不埒な研究報告