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SFだけどSFじゃない『君の名は。』

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。WOWOWで放送された『君の名は。』を観ました。映画は最初の20分で興味が持てないとスパッとやめてしまう私が最後までつきあえたので、まあエンターテインメントとして、つまらなくはないです。でも、私はこの作品を好きになれません。素直に感動できません。
 あ、以下ネタバレ前提で話しますので、ご了承ください。これネタバレせずに批評することが不可能な映画ですよね。ネタバレなしの縛りがあると青春ラブコメの部分にしか触れられないし、私が公開時のCMなどから受けた印象もまさにそうでした。
 前半はいいんです。設定のはしばしにほころびが目立つとはいえ、速いテンポでさくさく話が進むので、青臭さもさほど気になりません。が、だんだん心配になってきます。この時間でこのペース配分だと、このあとどう展開するつもりだ? と思ってたら、観たかたはもちろんご存じでしょうけど、え、こんな話だったの? と予想を悪い方向に裏切られました。
 この作品をSFといってる人がいましたけど、ちがいます。サイエンスフィクションの要素は一個もないです。SFはSFでも、スピリチュアルファンタジーですね。
 要するにこの映画は、大災害による大量死という悲劇を、スピリチュアルの力でなかったことにして、死者をよみがえらせるという、とんでもなく脳天気な話なんです。サイエンスフィクションは、もしかしたらありえるかもしれない話なんだけど、『君の名は。』は絶対ありえない話です。
 この映画を手放しで称賛できる人はおそらく、スピリチュアル的なものに対してなんの疑問も抱かず受け入れられるタイプの人なのでしょう。
 死んだ人がよみがえればハッピーじゃないか? ふざけたことをいわないでください。そんなの気持ち悪いだけ。なぜ気持ち悪いのか。殺人だろうが事故だろうが病気だろうが、死んだ理由に関係なく、一度死んだという事実は決して消えないからです。たとえフィクションであっても。死んだ人がなんの説明もなく生き返ったら――むかし見た『サウスパーク』ってアメリカのアニメでは、ケニーというキャラが毎回死んで、次の回ではなんの説明もなくよみがえってる設定でしたけど、それはナンセンスギャグであって、ハッピーではありません。
 それこそ神話の時代から、死者をよみがえらせる話はたくさんありますが、ハッピーな話ってあります? たいていは、なんらかの不幸な結果を伴うか、ナンセンスかのどちらかではないですか。
 それはやはり、人間の死は不可逆なものだという大前提があるからです。いかなる力をもってしても失われたいのちは戻らない。だからこそ、「いのちは大切だ」という道徳律が説得力を持つわけです。
 いま起こりつつある災害をスピリチュアルの力で防いだ、というのならそれはハッピーエンドといえないこともない……けど、それも新興宗教が作りそうなプロモーション映画みたいか。
 『君の名は。』の世界では、すでに一度、ヒロインや町の人は死んでしまってるんです。大量死という事実がすでに起きたことが消せない歴史となってる世界での話なんです。それがなかったとしたら、この物語自体がはじまる理由も消失します。二人は出会いません。パラレルワールド? だとしても、大量死があった世界となかった世界のふたつにわかれただけで、一方の世界では大量死の事実は残ります。
 たとえばですよ、広島の原爆被害をスピリチュアルの力でなかったことにして、みんな死なずに済みました、って映画があったら、どう思います? ハッピーですか? 感動します? 私には悪趣味としか思えません。現実に命を落とした人たちへの侮辱です。
 スピリチュアルの全能感っぽい思い上がった考えかた、霊の力ですべては可能だみたいなのって、インチキ宗教に利用されがちだから、私は嫌いなんです。
 人は死ぬという事実を受け入れ、死者を弔い、人間は全能ではなく宗教にも限界があると戒めつつ、残された人が現実世界で歩き続ける勇気を与えようとするのが本物の宗教家、宗教者です。
 ひょっとしたら新海監督は、東日本大震災などの被害を見て、これをなかったことにできたならという発想からプロットを考えたのでしょうか。確認はしてないのであくまで私の想像ですよ。もしそうだったとしても、スピリチュアルで死をなかったことにするなんてありえない話は現実逃避でしかないのです。それは癒やしにも救いにもなりません。
 そういうわけでやっぱり私は、『君の名は。』が好きになれません。最初にもいったように、エンターテインメントとしてつまらなくはないです。水滴の一粒までおろそかにしない凝った画風にも感心しました。だけど、このストーリーには納得できません。サイエンスフィクションであってほしかったなあ。
[ 2017/11/08 22:19 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)
プロフィール

Author:パオロ・マッツァリーノ
イタリア生まれの日本文化史研究家、戯作者。公式プロフィールにはイタリアン大学日本文化研究科卒とあるが、大学自体の存在が未確認。父は九州男児で国際スパイ(もしくは某ハンバーガーチェーンの店舗清掃員)、母はナポリの花売り娘、弟はフィレンツェ在住の家具職人のはずだが、本人はイタリア語で話しかけられるとなぜか聞こえないふりをするらしい。ジャズと立ち食いそばが好き。

パオロの著作
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世間を渡る読書術

会社苦いかしょっぱいか

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