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原発と読売

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。今年は剛力彩芽に負けないくらい毒吐いちゃうぞ!(注・ネットで毒吐いてるのは剛力さんになりすましたニセモノです。)
 こないだは体罰を美化する社会病質者どもを取りあげました。今回のターゲットは、政権が変わって息を吹き返しつつある原発を礼賛する、自称現実主義者たちのヨタ話です。

 社会現象の要因は複雑ですから、科学実験をやって原因と結果を結びつけるというわけにはいきません。でも社会現象を伝えるジャーナリズムには、「裏をとる」という作業を通して、記事の信憑性を高める努力が不可欠です。
 私は読売新聞を購読しているのですが、昨年来、裏をとらずに決めつけ記事を書く安直な姿勢が目立ってきて、うんざりです。その怠慢が如実に結果となってあらわれたのが、例のiPS細胞に関する誤報だったわけですが、私にはあれの幕引きが済んだとは思えません。事実よりも社のトップが決めた思想を広める記事を優先する基本姿勢は変わってないのだから、まだまだやらかすことでしょう。
 その姿勢が顕著に見られるのが、根拠に乏しい原発礼賛論の連発です。社説とかだけでなく、ことあるごとに、関係ない記事にまで原発ヨイショを差し挟んでくるのがいやらしい。読売の記者にも、原発に否定的な人はいるはずですが、原発ヨイショ記事を書くよう命じられているのかな? そう思わせるのが、大学入試センター試験の会場を取材した記事。「原子力の研究をしたい」なんて受験生のコメントを、わざわざ選んで載せてました。50万人の受験者の中からよくそんなやつを探し出せたものです。しこみ・ヤラセとはいわないけれど、露骨に作為的です。

 元旦の紙面では「新春対談2013」と銘打って、編集委員の橋本とかいうおエラいさんと作家の曽野綾子さんが対談しています。お二人の妄想が炸裂するすっとこどっこいぶりには正月早々、脱力しました。逆パワースポットです。
 ここでも原発について語られているのですが、これを読むと、日本の高齢者の原発に対する理解が、いかに誤解と偏見だらけであるかがわかります。反原発のデモに対しては、
橋本「文明に対する問いをデモで解決できるのか、根本的な疑問を覚えます」
 デモで問題を解決できるなどと考えてやってる人なんていませんよ。デモというのは、問題を広く世に知らしめるための示威行動、解決へのステップにすぎないと承知の上でみんな声を上げてるはずですが、そこから根本的に説明しないといけませんか。慶大を出て新聞社の編集委員をしてるかたに? 橋本さんのころの慶大はゆとり教育だったのですね。
 曽野さんは原発には否定的な意見をお持ちのようなのですが、反対意見を述べようとはしません。それどころか橋本さんに話を合わせようと気をつかい、妄言を口走ります。
曽野「原発をやめて電気が今、足りなくなると、一番先に病人や子どもが死んでいきますから、それをしちゃいけない」
 大変だ! すでに日本のほとんどの原発は停止しちゃってますけど、その間、どれだけ大量の病人とこどもがお亡くなりになったのでしょうか……そんなことが起きてたら人権問題どころの騒ぎでないはずですが、私は寡聞にして存じません。
橋本「人間が生み出した文明はそれ自体極めて中立的なものです。使い方によって、人間に牙をむいてくることがあるのです」
 原発という文明の利器が人間に牙をむいたから、もうやめようじゃないかって話になったんです。なのに中立などと、のんきな原則論を語りますか。そりゃあ、アクセルとブレーキの使いかたさえ正しければ、理論的には車の暴走事故は決して起きません。でも実際、起きてます。銃という文明の利器は中立です。使いかたさえまちがわなければ銃は安全なはず――なのに、アメリカの現実はどうですか。
 悪意がなくても、人間はヘマをするんです。原発の場合、たった一度のヘマが取り返しのつかない事態を招くリスクがあるんです。
 原発を礼賛したお二人は、このあと自然崇拝論で意気投合します。いまのこどもたちは、舗装された道の下に土があることを知らないといい放つ橋本さんに、曽野さんは渾身のギャグをお見舞いします。
曽野「地球ができた時から、道は舗装されていると思ってるんです」
 しかしこのギャグ、橋本さんにはハマらなかったようで、そんなわけねえだろ! というつっこみもなく、完全スルーした橋本さんは、さらにボケをかぶせます。
橋本「田舎で生まれ育った子は陰湿ないじめはしません。自然の中に生きているからです」
曽野「自然は偉大ですからね」
 これはなんでしょう、どこかの自然崇拝カルト宗教の布教活動なのでしょうか? 文明こそ諸悪の根源なり! 都会人の心は汚れている! ネットには悪魔が住んでいる!
 陰湿じゃないいじめとは、どんなものなのか。田舎のこどもは、気にくわない同級生を森に連れ込んで、明るく元気にぶちのめすのでしょうか。エコでロハスないじめ。
 そもそも橋本さんは、田舎の子は陰湿ないじめをしないという説の裏をとったのですか。私だけでなく、全国の教育関係者が知りたいでしょうから、根拠となる取材ノートか統計データを公開していただきたいものです。
 ここまで自然崇拝と文明批判をしたのなら、太陽光・風力・地熱などの再生可能エネルギーこそが答えだ! となりそうなものですが、原発という文明を支持する結論で終わるのは、おおいに矛盾してますね。

 さて、こんな軽口を叩いてるとそろそろしゃしゃり出てくるのが、「原発をやめたら電力不足や料金高騰で日本経済は崩壊するんだぞ」と、さも現実主義者であるかのような顔で不安を煽る連中。
 放射能の害を過剰に煽って風評被害を広めたりするのも、よくないことです。それはやめるべきです。だったら同様に、原発を停止することで経済が崩壊するというヨタ話を、事実であるかのようにおおげさに吹聴して人々をおびえさせるのも、いいかげんやめてもらえませんかね。
 じつは、原発を停止したら日本経済が崩壊するという説には、なんの根拠もありません。経済学的なシミュレーションも検証もなされていません。彼らのいいぶんはすべて、風が吹けば桶屋が儲かる的な粗雑な論理でしかないのです。
 ここ20年、日本は低成長と不景気に悩まされてきましたが、その間も原発は盛んに動いてた事実をどう説明するのですか、推進派のみなさん? 原発が停止してから不景気になったわけではないんですよ。その事実こそが、原発の有無と景気に因果関係がないことの証拠です。
 不況の原因はデフレかどうかというのがずっと議論の中心だったわけですが、デフレ説に反対する経済学者にも、不況は原発のせいだなんてマヌケなことをいう人はいなかったはず。
 原発を止めたら電気代が上がり、日本の製造業は海外に移転して産業空洞化を招くという煽りもウソです。だって原発が動いていたころから、日本企業は安い労働力を求め、工場をじゃんじゃん海外に移転してたんですから。
 逆にいうと、原発を再稼働しても労働コストでかなうわけがないのだから、産業空洞化の流れは決して止まらないってことです。すべての原発を再稼働する代わりに、日本企業の海外生産を一切禁止するという法律を作ればべつですが、経済界のみなさんは誰も賛成しないでしょう。
 しかも、原発を止めると電気代が上がるという前提自体にトリックがあるというのは、もはや有名な話です。昨年9月に政府が発表した専門家の試算によると、原発をゼロにすると2030年に電気代がいまの2倍になるとされました。これでビビッた人も多いのですが、この試算には、原発を25%使い続けても、電気代はいまの1.7~1.8倍になるというオチがついてたのです。
 要するに、原発の有無に関係なく、電気代は1.7~2倍になりますよ、大差ないですよ、と専門家たちはいってるのですが、一部のマスコミは、この話の前半部だけを報道して経済危機や家計への影響を煽りました。そのため、原発を止めると電気代が倍になるけど、原発を使えば電気代はいまのまま、と誤解してる人が、いまだにけっこういるんです。
 私もこのトリック、あとからテレビ報道で知って驚きました。おや、読売新聞を読んでたのに自分も誤解していたということは、読売さんも煽り報道を……いやいや、裏もとらずに疑ってはいけませんね。学校でNIEの授業をやる先生がた、各紙がこれをどう報じていたか比較するなんてのも、おもしろいかもしれませんよ。
[ 2013/01/22 18:24 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)
プロフィール

Author:パオロ・マッツァリーノ
イタリア生まれの日本文化史研究家、戯作者。公式プロフィールにはイタリアン大学日本文化研究科卒とあるが、大学自体の存在が未確認。父は九州男児で国際スパイ(もしくは某ハンバーガーチェーンの店舗清掃員)、母はナポリの花売り娘、弟はフィレンツェ在住の家具職人のはずだが、本人はイタリア語で話しかけられるとなぜか聞こえないふりをするらしい。ジャズと立ち食いそばが好き。

パオロの著作
会社苦いかしょっぱいか

みんなの道徳解体新書

日本人のための怒りかた講座

エラい人にはウソがある

昔はよかった病

日本文化史

偽善のすすめ

13歳からの反社会学(文庫)

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怒る!日本文化論

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