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バットとはさみ

 こんにちは、すき家ではもっぱらネギ玉牛丼を頼むパオロ・マッツァリーノです。あれって、タマゴの黄身と白身をわけて黄身だけ乗せて食べるのが基本みたいなんだけど、白身捨てちゃうのもったいなくない? 私はいつも黄身と白身を混ぜて全部かけちゃうんですけど、邪道ですか?

 最近おもしろかった映画2本。最近といっても2本ともWOWOWで見たので、劇場公開されたのは1年以上前だと思います。
 1本目はバットマン映画の『ダークナイトライジング』。映画通を気取る連中は、この作品をけちょんけちょんにけなして、前作『ダークナイト』をほめちぎるんですよ。
 たしかに前作は、ジョーカーという良心のかけらもない絶対悪にヒーローはどう立ち向かうべきかという、哲学的なテーマに挑戦していて、非常によくできた映画でした。それは認めます。認めるけど、ジョーカーが実質上の主役であり、最初から最後まで不愉快なあの作品を全然好きになれなかったんです。
 そこいくと『ダークナイトライジング』は、正統なヒーローものの範疇に収まってます(だから通は小バカにするんだろうけど)。ヒーローはなんのために戦うのか、というテーマに対し、監督と脚本家の出した答えは、こどもたちに未来への希望を持たせるため。
 ぼろぼろになるまで戦った末に、「ヒーローはどこにでもいる。少年の肩に上着を掛け、世界の終わりではないと励ますような男だ」といい置いて、核爆弾とともに飛び去っていくバットマンの姿に、涙が止まらなかったですよ。ヒーローもので泣くなんてあまりないことですが。
 録画してあったんで、結局、もう一回頭から観ちゃいました。冷静に見直すと、傷や矛盾の多い映画です。そもそもベイン軍団が街を壊す動機が意味不明。でもそれいうなら、前作のジョーカーだって確たる動機なんかないわけで、ベインもジョーカーも「リア充死ね」という動機で悪をやってるとしか思えません。そういうのが時代性なのかなあ。
 それでも私は、前作よりも『ライジング』のほうを断然支持します。せっかく新生バットチームが誕生したのにこれでシリーズ完結というのが残念ですが、ヘタに引っ張るほうがヤボですか。

 もう1本のおすすめは、バットマン映画とはジャンルも制作予算も知名度もまったく異なる地味でマジメな日本映画『はさみ』。
 理容・美容専門学校を舞台にした、教師と生徒たちの群像劇。後世に残る名作傑作かと問われたら否定することになってしまいますが、「いい映画」です。
 ごく普通の若者たちが、悩み迷い傷つき喜び悲しみ成長するのですが、残酷な現実の壁に行く手を阻まれます。ある者は成績優秀であるにもかかわらず、親が学費を払えなくなり退学を余儀なくされます。またある者は、せっかくやる気になったのに交通事故でケガをして国家試験を受けられなくなってしまう。
 それに対して安易な解決策や奇跡的なハッピーエンドを用意しないところが、この映画の良心です。とはいえ、絶望悲観映画ということでもありません。苦みは残るけど、観終えたあとの感じは悪くないんです。
 なにより、生徒役の若手俳優たちが、全然知らない人ばかりなんだけどみんな上手い。太った女の子なんて、お笑い芸人だそうです。あと、教師役の池脇千鶴さんが30すぎていたという事実を知ってびっくり。あのリハウスガールがねえ……。私も歳とるわけだ。
[ 2013/06/10 19:16 ] おすすめ | TB(-) | CM(-)
プロフィール

Author:パオロ・マッツァリーノ
イタリア生まれの日本文化史研究家、戯作者。公式プロフィールにはイタリアン大学日本文化研究科卒とあるが、大学自体の存在が未確認。父は九州男児で国際スパイ(もしくは某ハンバーガーチェーンの店舗清掃員)、母はナポリの花売り娘、弟はフィレンツェ在住の家具職人のはずだが、本人はイタリア語で話しかけられるとなぜか聞こえないふりをするらしい。ジャズと立ち食いそばが好き。

パオロの著作
みんなの道徳解体新書

日本人のための怒りかた講座

エラい人にはウソがある

昔はよかった病

日本文化史

偽善のすすめ

13歳からの反社会学(文庫)

ザ・世のなか力

怒る!日本文化論

日本列島プチ改造論(文庫)

パオロ・マッツァリーノの日本史漫談

コドモダマシ(文庫)

13歳からの反社会学

続・反社会学講座(文庫)

日本列島プチ改造論

コドモダマシ

反社会学講座(文庫)

つっこみ力

反社会学の不埒な研究報告