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山田太一の『岸辺のアルバム』は、やはりドラマ史上に残る名作でした

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。先月ひと月だけ、U-NEXTを観てました。調べもののためだったのですが、それとはべつに、どんな作品があるかと探していたら、『岸辺のアルバム』が配信されてることに驚きました。
 1977年に放送され、テレビドラマ史上に残る名作として語り継がれている作品です。私がもっとも敬愛する脚本家、山田太一さんの作品だけにぜひ観たいと思ってたけど、観る機会がまったくなかったんです。放送局はTBSですが、地上波・BSともに私の知るかぎりではここ20年くらいのあいだに再放送されたことはないはずです。
 山田太一作品で名作とされる『男たちの旅路』はNHKBSで何度か再放送されてます。ただしこちらも放送されるのは第1部から第3部まで。なぜか第4部だけは放送も配信もされません。第4部には、障害者の生活と苦悩をテーマにした『車輪の一歩』という傑作があって、これだけはだいぶ前にBSで再放送されて私も観たのですが、近年はこれすら放送されなくなりました。障害者に関する描写がいまのコンプライアンスにひっかかるのか、たびたび刑事事件を起こした清水健太郎さんが出演してるからなのか……。

 そんなことより、『岸辺のアルバム』です。私、2、3年前にもU-NEXTに加入したことがあって、U-NEXTポイントを使うとNHKオンデマンドで配信されてる山田脚本、笠智衆主演の3部作『ながらえば』『冬構え』『今朝の秋』が観られることに感激したのですが、そのときは『岸辺のアルバム』はまだ配信されてなかったんです。
 笠智衆3部作も老人の悲哀をユーモアをまじえて描いた珠玉の作品です。でも『岸辺のアルバム』を観られたのは、それを上回る感激でした。
 いまだにその余韻に浸っていたところだったので、金曜日のニュースで山田太一さんが亡くなったと知ったときには、絶句してしまいました。

 しばらく前からかなり重い病気にかかってるらしいというウワサは流れてました。
 数年前、NHKBSの『アナザーストーリーズ』で多摩川水害を取りあげた回がありました。台風の豪雨によって堤防が決壊し、川沿いに建っていた民家が十数軒流されてしまうという、ショッキングな災害だったんです。このニュース映像はその後も繰り返し放送されてるので、50代以上の人ならみんな知ってるというくらいに有名な災害で、『岸辺のアルバム』はそれをモチーフにした作品なんです。
 『アナザーストーリーズ』では実際に流された家に住んでいた、当時中学生だった男性も証言してました。彼の家族のところに山田太一さんが取材に来たそうで、そのときに話したエピソードが実際にドラマでも使われたと話してたように記憶してます。
 その取材については、プロデューサーだった堀川とんこうさんが番組内で証言してました。山田太一さんご本人が話してくれれば貴重なインタビューになったはずですが、そのときには、すでにテレビ出演ができない病状だったのでしょう。

 最終回でマイホームが流されるというのは事実にもとづいてますが、それ以外のドラマ内容はすべて創作で、実際に家が流された家族とはなんの関係もありません。
 ドラマでは家族それぞれが抱える問題と秘密を丁寧に描いていき、終盤ではそれらが一気に発覚したことで家族に亀裂が生じ、最終的には家そのものが崩壊する象徴的な結末へ向かいます。
 70年代には一般的になっていた、いわゆる核家族。父(杉浦直樹)母(八千草薫)と大学生の娘(中田喜子)、受験生の息子(国広富之)の4人で暮らす、外から見る分には幸せな家族ですが、それぞれが重大な問題を抱えていて、そこに当時の世相、時代背景が巧みに盛り込まれてます。
 その世相の切り取りかたが、じつにうまい。人間と社会は不可分の関係にあり、誰もが社会からなんらかの影響を受けて生きてます。だから人間と社会をセットで描いてこそ、傑作ドラマになるのだと私は思ってます。社会性を無視して人間だけを描くこともできますが、それだと甘ったるい人情ものやロマンスで終わってしまいます。
 山田太一って人は、人間も社会も描ける点でずば抜けた才能を持った脚本家です。いま現役の脚本家でそれができるのは坂元裕二さんと野木亜紀子さんくらいじゃないでしょうか。

 八千草薫が演じた母親は、妻子のある男と不倫関係になります。でもそこに至るまでの過程がしっかりと描かれているので不快な印象は受けません。
 ドラマでは中盤に、母親の39歳の誕生日を祝うエピソードがあります。長女が20歳なので、母親は18、19歳で結婚して専業主婦になったわけですが、この時代にはそういう女性もけっこういたのです。
 夫は仕事漬けで家のことは妻に任せきり。20年間、子育てと家事に専念する機械のように生きてきたところに、「あなたは素敵だ」とイケメン(竹脇無我)からいい寄られ、ひとりの女性として扱ってもらえたら、よろめいてしまいますわな。

 夫が勤めるのが繊維機械の会社という設定もじつにうまい。繊維産業は戦後の日本経済を牽引した産業のひとつでした。だから若くしてマイホームを購入できるくらいの給料をもらえてたのですが、このころになると安い海外製品に押されて斜陽産業になってました。会社の業績不振をカバーするために武器を作ったり、あげくの果てには、工場労働者の名目で東南アジアから連れてきた女性たちを性風俗産業に売る裏社会の手助けまでするようになります。

 長女は交際していたアメリカ人に裏切られ、その友人にレイプされ妊娠してしまいます。親に隠れて堕胎手術をするために、弟の担任教師だった男性に相談するのですが、その教師役が津川雅彦。晩年の恰幅のいい老人イメージしか知らない若いかたは、凄くスリムな津川さんにビックリすると思います。古い映画などを観ればわかりますが、若いころの津川さんは痩せてたんですよね。

 がんばって働いたお父さんが郊外にマイホームを建てて一国一城の主になるというのは、当時からサラリーマンの夢でした。避難命令が出ていったんは学校に避難するものの、父親が家に戻って、オレはここに残る、この家を守るんだと沈みゆく船の船長みたいなことをいい出すのも説得力があります。
 家族みんなの思い出が詰まった家にさよならをいい、目の前で流されていくのを一家でぼう然と見守るシーンは衝撃的です。

 これだけの怒濤の展開が続くドラマなのに、不思議と全体のテンポはゆったりしてるんです。主題歌のジャニス・イアン「ウィル・ユー・ダンス」のゆったりした曲調がドラマの雰囲気にぴったりで、誰が選んだか知らないけど、この曲を主題歌に選んだ人のセンスも素晴らしい。
 全15話と長いからなのか、それともこれも時代性の反映なのでしょうか。むかしの人はしゃかりきに働き、生き急いでたイメージがありますが、いまから思うと、携帯電話もパソコンもなかった時代のほうが案外、ゆったりと生きてたのかもしれないなあ、なんて考えてしまいました。
[ 2023/12/03 20:35 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)

誠実さゆえにむなしさが残る『進撃の巨人』

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。先月から始まった秋ドラマは、目玉となるような大作はないけど、地味ながらキャスティングがうまくハマってる良作が多いので楽しみです。

 ですが今日は、アニメにあまり関心のない私が珍しく長年観続けた『進撃の巨人』がついに完結したので、最後の感想を書きとめておきたいと思います。
 私はアニメに偏見も思い入れもないので特別扱いはしません。一般的な劇映画やドラマと同じようにストーリーや人物像を中心に評価します。アニメの作画技術の良し悪しのような点は評価していないとおことわりした上で、アニメ『進撃の巨人』の最終的な総合評価をするならば、星5つ。満点です。
 評価を上げるポイントは多々あれど、ここだけは納得できないといった、大きなマイナス要素はありません。減点する理由がない以上は、満点の評価をつけてもべつに甘くはないでしょう。

 以下、詳しく説明したいのですが、どうしても終盤の内容を話すことになるので、ネタバレが避けられません。てか、ほぼネタバレ全開なので、ネタバレがイヤな人は作品を観てから以下の文章をお読みください。








 よろしいですか? では続けます。
 完結編で最高の名場面を選べといわれたら、私は前編でハンジが凄絶な最期を遂げるシーンを推します。仲間たちが脱出する時間を稼ぐために、単身、超大型巨人の群れに突っ込んで進行を押しとどめようとするのですが、いま最高にカッコつけたい気分なんだよ、などと軽口を叩きながら死地へと向かう姿がいかにもハンジらしいし、ついに力尽きて、火だるまになりながら落下していく姿は涙なしには観られませんでした。
 このくだりは単に自己犠牲のヒロイズムを描いてるだけではなく、調査兵団の成長もわかる重要なシーンです。当初は一体の巨人を倒すだけでも四苦八苦してた調査兵団が、たったひとりで超大型巨人の群れと渡り合えるまでに進化してるわけで、このシーンによって、圧倒的なまでの戦力差がある最終決戦にまだ一縷の希望が残されていると示せるのが、うまい筋立てだなと思います。

 とはいえ長年観てきた者としては、主要メンバーのひとりであるハンジですら前編で斃れたのはちょっとショックで、後編はどんな死屍累々たる展開になるだろうかと暗澹たる気分で半年間、後編を待ちましたよ。
 ところが意外なことに、エレン討伐チームの面々はこれ以降、誰も死なないんですね。最後の戦いのあと、地面にへたり込んだリヴァイが、死んだ仲間たちの幻影のようなものを見ていたので、彼はてっきり死んだものと思ってました。でもエピローグに車椅子姿のリヴァイが登場することで、あ、生きてたんだ、と。

 私がこの作品に満点をつけたのは、戦後を描くエピローグの部分を高く評価したからです。
 もし、戦いが終わり悪が滅びて平和が訪れました、みたいな、陳腐な昔話のような終わりかただったら、私は大きく減点してたでしょう。
 余談ですけど、私は『エヴァンゲリオン』の最後の劇場版の終わりかたには全然納得してません。0点です。これもネタバレになっちゃうから詳しくいわないけど、あれって結局、すべてを最初からなかったことにすればみんなハッピーになれるよ、っていうエンディングでしょ。
 それじゃ夢オチと一緒じゃないですか。すべては夢でした。あるいは歴史修正主義みたいな感じもします。戦争はなかった。虐殺はなかった。と都合よく過去の事実を改変すればそれで済むという考えかた。

 なかったことにはできないんですよ。たとえば、あなたがたわむれに残虐な方法で大量殺人をして、そのあとで特殊能力を使って人を殺さなかった世界に戻せばそれであなたの罪は消えるのですか。消えませんよ。時間を巻き戻そうが、殺人のなかった並行世界に移動しようが、あなたが殺人を犯した事実は消えません。
 この世界で起きた問題は、この世界の人間がこの世界で解決しなければなりません。それ以外はすべてまやかしです。現実であってもフィクションのなかであっても、そこは一緒です。

 『進撃の巨人』のエピローグでは、この物語の世界で起きた災厄の後始末をその世界の人々が責任を持ってやろうとしています。
 人類の大半が死ぬというとてつもない災厄を経験したというのに、まだ人類は懲りません。憎しみと不信の火種はくすぶり続け、早くも世界中に再軍備の動きが出てきます。そんななか、アルミンを代表とする元調査兵団、元巨人化能力者たちは国際間の和平交渉に臨みます。
 彼らは、武力を駆使していた自分たちにその資格があるのかと疑問を抱きながらも、巨人化能力も立体機動装置も武器も持たない丸腰の人間として、外交という非暴力の手段で世界平和のために尽力すべく動き始めます。
 こんな戦後の活動まで描いたアクションSFファンタジーが他にあったかな? アニメに限らず、少なくとも私はちょっと思い出せません。
 先ほど言及したリヴァイも、エピローグでは車椅子姿で難民キャンプみたいなところでこどもたちにお菓子を配る手伝いをしています。戦うことだけに生きて最強の戦士となった彼が、片眼と片脚を失ったあとも自分にできる小さな仕事で復興に尽くそうとしてる姿には、胸が熱くなります。

 以前にも書きましたけど、原作者の諫山さんは戦闘はかっこよく描くけど、戦争は美化しないんです。戦争をかっこよく描くなら、戦いが終わったところまでとミカサのその後を見せるだけでいいはずですし、むしろアタマの悪い人たちはそういう痛快で感動的なエンディングを望むでしょう。
 でもこの作品では、死闘を終えた戦士たちが戦後に和平や復興の活動に従事しているところをあえて描きます。戦争は最終的な解決手段ではないという想いを伝えようとしているようで、そこに私は作者の理性と誠実さを感じました。

 ただ、誠実であろうとするがゆえに、ここで話を終わらせることができなかったんでしょうね。エンドロールではおそらくアルミンたちが生きた時代の数百年後、戦争によってまた都市が廃墟に戻ってしまうのです。
 友を殺す苦渋の選択をしてまで戦争を終わらせた彼らの努力が無に帰してしまうのを目にするのは、何ともむなしいかぎりです。
 ファイナルシーズンが始まったとき、急に戦争の話になってよくわからないという意見がネット上にけっこうあってビックリしました。
 民族差別、愛国少年少女、使い捨てにされる兵士たちなど、これらすべてが現実の世界史をモチーフにした戯画であることは、わかりすぎるくらいに明白なのに、それがわからないって、日本の歴史教育は大丈夫かと心配になったくらい。
 そしてこのラストもまた、まさにいま現実の世界で起きつつあることの戯画になってます。第二次世界大戦では全世界で5000万人以上ともいわれる死者を出したことで、さすがに懲りた人々が世界中で反戦平和を支持するようになりました。でも、のどもと過ぎればなんとやら、いままた力による支配を支持する安易な風潮が高まりつつあります。
 いつまでたっても人類は歴史に学ばないというむなしい現実と、平和の実現に尽力する人々の理想の姿、その両方をエピローグで描いているこの作品の誠実さは、満点の評価に値すると私は確信しています。
[ 2023/11/21 17:25 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)

夏ドラマには驚かされっぱなしでした

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。最近、ドラマなどの展開や犯人を予想する考察がブームみたいですが、あんまりやりすぎると驚きが薄れて、楽しくなくなりますよ。
 私はミステリ小説を読むときや、ドラマ・映画を観るときには、ヘタに裏を読もうなどとせず、作者が用意した誘導の流れにあえて乗るようにしています。そのほうが、意外な真相を知ったときに素直に驚けるので、楽しさが増すんです。考察は、最後まで観終わってからすればいいじゃないですか。

 この夏のテレビドラマには驚かされっぱなしでした。まあなんといっても『VIVANT』ですよね。主人公の正体が明かされるところでは、のけぞりましたもん。あれは脚本家にダマされたというより、堺雅人さんにダマされたっ! て感じで。
 でもよく考えると、初回から真相のヒントはすべて提示されていたわけで、とてもフェアなダマしかたです。
 内藤陳さんのオススメに影響されて、謀略ものとかスパイものみたいないわゆる冒険小説にけっこうハマってた時期がありました。『VIVANT』のおもしろさは、あのころ読んでた、熱い男たちがクサいセリフをかましながら敵味方入り乱れて繰り広げる活劇を描く冒険小説の楽しさそのものなんですよ。

 『最高の教師』は初回で、これはいろいろ仕掛けてくるなと嬉しい予感しかしなかったので、さあ、考察しない私を驚かせてごらん、とノーガードで観てました。でもさすがに、主役級の芦田愛菜さんが途中退場するとは、予想だにしなかったです。
 熱いメッセージを投げかけてくる良心的な学園ドラマをそのまま出して受け入れられたのは昭和まで。いまどきの視聴者はドン引きしちゃうので、2周目の人生で犯人捜しみたいなぶっとんだ設定でくるんで提供しなきゃいけません。
 もしも今後、金八先生の続編が作られるとしたら、若き日の金八先生が現代にタイムトラベルして老いた金八とダブル金八で教育問題に立ち向かうなんて設定になるのかな。

 最初の印象が地味で、正直、期待してなかった『彼女たちの犯罪』ですが尻上がりにおもしろくなりました。女性刑事は小学生の子と二人暮らしで、最初親子だと思ってたら、途中からこどもがお姉ちゃんと呼ぶようになったので、あれ、年の離れた姉弟だったか、と思い直したら――まさかの仕掛けに驚きました。ミステリ小説の叙述トリックを見事に映像化してたのがスゴい。それだけでなく、劇中に散りばめられた数々の違和感をすべて回収し、納得のいく終わりかたをしてた点も高く評価します。

 NHKで放送された『しずかちゃんとパパ』は本来ならベストになってもおかしくない作品なのですが、私は以前BSで放送されたときに評価してるので、今回は除外しました。

 並み居る秀作群を抑えて私が今期のベストに選んだのは、『何曜日に生まれたの』です。
 おじさんである脚本の野島さんがムリして若者言葉を取り入れようとしてるのは、ご愛嬌。野島さんが描く、どこか奇妙な人間関係と世界観に惹かれました。
 脚本の意図なのか演出のせいなのか、会話のセリフの間というかノリというか、これもまた演劇的なようなマンガ的なような、ちょっとズレた感じが個性的。
 この奇妙なおもしろさがなかなか説明しづらいので、テレビ局側も困ったようで、ラブストーリーかミステリーか人間ドラマか社会派か先が読めない、と投げやりな宣伝をしてました。もちろんなかには、なんじゃこりゃ、わけわからんと脱落した人もいたでしょうね。
 高校時代の謎めいた事故をきっかけに、同級生たちからヒドい言葉を投げかけられて傷ついた主人公はずっと引きこもっていたのですが、10年ぶりに同級生たちと再会します。当初、敵意と悪意のベールに覆われていると思われた暗い世界が、誤解が解けていくにつれ、やさしい世界に変わっていくんです。
 彼らの誤解を解く手助けをする、ある意味探偵役でもあるラノベ作家もまた、重大な問題を抱えて生きてきた人で、彼に救われた主人公が、今度は彼を救おうと奮闘するのが後半の話の軸になっていきます。
 ストレスの9割は人間関係だが、人間関係の1割は素敵だというセリフがまさにこのドラマのテーマです。
 これね、お説教や楽観論ではなく、半世紀ほど生きてきた私も日々実感してることです。9割はおおげさかもしれないけど、おそらく野島さんの実感でもあるのだろうなと思います。
 以前私は、ひきこもりの人たちは人間を正しく見すぎているのだと評しました。たしかに他人と関わるとイヤなことばかり起きるような気がします。他人を信じて裏切られることも多いです。人間を正しく見ているほど、純粋であればあるほど、対人関係で悩み臆病になるのは当然といってもいい。悩まない人は、べつに悪い意味ではなく鈍感なんですよ。
 それでもたまにはいいこともあるし、たまにはいい人もいます。だから他人と関わることをあきらめないでほしい。そのことについては、また後日書きたいと思います。
[ 2023/10/12 20:15 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)

テレビ番組評:ストライキのドキュメンタリーと旧統一教会の手口解説

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。去年まではわりと池袋に近いところに10年近く住んでたので、池袋にはちょいちょい行ってました。東京の他の大きな街にはない穴場的な雰囲気が気にいってたんです。でも西武・東武デパートで買い物をしたことはほぼなかったです。
 その池袋西武で先月――いや、もう先々月になりますか、デパートとしては61年ぶりのストライキが行われました。
 西武の池袋店は黒字経営だそうですが、グループ全体ではかなり苦しいようで、経営側がデパートという業態に見切りをつけて売却したのです。買収した会社がデパートの3フロアをヨドバシカメラにする計画に反対する西武の従業員がストに踏み切ったのでした。
 西武グループがこじゃれた広告やCMを流しまくって消費文化を牽引していた絶頂期を知ってる世代の私としては、感慨深いものがあります。

 デパートに限らず、いまや日本ではストライキ自体が非常に珍しいものになりました。70年代には日本全国で年間5000件以上のストがあったのに、2022年には30件くらいしかなかったとのこと。
 私は50代ですけど、たしかにストライキって、こどもの頃にニュースで見た記憶しかないんですよね。日本で社会人になった90年代以降に、なんらかのストライキの影響を受けたおぼえがありません。
 先日もハリウッドでは脚本家や俳優組合がストをやってたように、欧米では空港や学校などがストで閉鎖されることがしばしば起こります。
 何かに抗議する権利を行使するのを当然だと考える欧米人と対照的に、現代の日本人は事なかれ主義と泣き寝入り文化が染みついてしまってるので、ストは世間を騒がせる迷惑行為、もしくは左翼の陰謀みたいな受け止めかたしかできないんです。

 そういう珍しさもあってか、テレビ各局がニュースで西武のストを報じてましたけど、外側から見えるストライキという現象をなぞってるだけなので、なにも伝わってくるものがありませんでした。たぶんみなさんもそうだったのでは。
 そんななか、9月15日にテレビ東京で放送された『ガイアの夜明け』。西武の組合に密着取材して、ストをやるかどうかの話しあいの段階から、投票を経て決行に至るまでの様子を撮影した貴重な記録です。
 ニュースだと外側から見た現象でしかなかったのが、人間中心のドキュメンタリー的な撮りかたをすると、中にいる人たちがどんな思いでストを決行するに至ったのかなど、生身の人間のさまざまな想いが伝わってきます。
 61年ぶりってことは、ストをやる側にも過去にストを経験した人が誰もいないわけですよ。労組の委員長も私とだいたい同い年くらい。西武一筋に勤めてきた人なので当然ストの経験なんかありません。みんなが手探りでストライキの実現まで漕ぎつけていく様子がわかり、いまの時代にストライキをやるとこんな感じになるのかと、とても興味深く観ました。
 こういうのはテレビという大きな組織でないとできない取材です。ユーチューバーが個人でストライキの模様を取材させてくれと申し入れてもムリでしょ。テレビっていう看板があるからできることもあるのだから、テレビはそのアドバンテージを最大限活用して価値のある番組を作っていくべきです。

 9月23日放送のNHK『危険なささやき』は、旧統一教会が新たな信者を勧誘・洗脳していく手口をドラマ仕立てで再現し、それがどんな心理テクニックにもとづいているのかを専門家が解説するという、なかなか攻めた番組でした。
 放送前に旧統一協会側から放送中止を求める抗議があったそうですが、某教団などとボカすことなく、旧統一教会と実名を出して放送を断行したNHKの姿勢をほめたいと思います。
 てか、放送するなという抗議はおかしいよね。だって旧統一教会は、自分たちの勧誘や宗教行為などに問題はないとかねがね主張してきたわけで、もし本当に自分らが正しいと思ってるのなら、むしろ手口を放送してもらえば自分たちの正しさの宣伝になると考えるはずです。放送するなと抗議したってことは、自分たちが悪いことをしてたと認めたも同然です。
 自分たちの正しさを一方的に主張して、批判を許さない旧統一教会の基本姿勢はやっぱり何も変わってないようです。変わりますとかいってたけど、変わるつもりはないのでしょう。もう、一刻も早く旧統一教会に解散命令を出すべきです。

 さて、傑作が目白押しだった夏ドラマですが、スタートが遅かった『何曜日に生まれたの』がまだ放送中なので、完結してから評価します。
[ 2023/10/02 11:53 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)

関東大震災が商店街ブームのきっかけになった

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。関東大震災が商店街ブームのきっかけになったという話は、あまり知られてないと思います。
 日本最初の商店街を名乗ってるところは全国各地にあるのですが、伝聞による自己申告ばかりで、証拠となる資料がないんです。
 町のなかに商店が建ち並ぶ一角があるのは全国共通の風景なので珍しくはありません。そういうのは江戸時代から存在し、見世などと呼ばれるか、あるいはとくに名前もないまま営業を続けてきたのです。
 商店街という言葉自体は大正期の文献にちらほら見られるのですが、具体的に○○商店街と名乗って営業していた例というのが、大正中期まではまったく見当たらないんです。さらにややこしいのは、○○銀座と名乗るところはそれ以前からあったといわれてまして、商店街と混同して伝わってる可能性もあります。

 なので問題は、「○○商店街」という名称を正式に最初に使ったのはどこか、という点に絞られます。そしてその根拠となる資料が残されているかどうか。
 私が調べたかぎりでは、「商店街」を正式名称として採用した初の事例は、丸ビル商店街です。その開業は新聞記事として残っています。
 丸ビルって、あの東京駅前にあるやつ? と驚いたかたも多いでしょう。そうです。現在のビルは全面改築された2代目です。初代丸ビルが完成したのは1923(大正12)年2月ですが、その1階部分が丸ビル商店街という商業施設だったのです。
 当時ヨーロッパには、屋根付きの街路を挟んで商店が立ち並ぶアーケードと呼ばれる街区がありました。丸ビル開業に際して、1階にさまざまな店を出店させ、西洋のアーケードを模したものを作ろうと計画されたんです。でもアーケードという呼び名は日本人には馴染みがないので、「丸ビル商店街」という名前にしたのです。
 『丸の内百年のあゆみ 三菱地所社史 上巻』によると、開館前に商店街への出店希望を募ったところ応募が殺到、倍率は8倍になったとのこと。
 日本初の珍しい施設ということで、オープン時には各紙が記事で報じていて、開業すると大評判。丸ビル商店街の名は一気に広まります。
 新たな商業施設がマスコミで報じられると大衆が殺到して人気スポットになるってのは、いまもむかしも変わらないんですね。
 なお、丸ビルからほど近い帝国ホテルのライト館にも同時期に商店街があったと伝えられてますが、こちらの開業は1923年9月なので、帝国ホテルが丸ビルのマネをしたのでしょう。

 そして開業から半年ほど経った9月に関東大震災が起きました。
 当時の最先端の建築技術を駆使して建てられた丸ビルは、軽い損傷のみで地震を乗り切ったのです。しかし周囲のビルや近隣の家屋には、一瞬で崩壊したものも多く、死者やケガ人が多数出る惨事となりました。丸ビルで働いていた社員たちは家に帰らず、周辺の被災者の救護にあたったのだそうです。

 震災による壊滅的被害からの再スタートに際して、東京駅周辺の商店主たちは、震災被害を受けなかった丸ビルと丸ビル商店街にあやかろうとしたようです。次々に「日比谷公園バラック東町商店街」「呉服町商店街」などと名乗る商店街が生まれたのです。
 それをきっかけとして、東京中に○○商店街という名称を採用するところが増えていきました。いえ、増えたどころの話じゃなく、大ブームとなったようです。
 その模様がうかがえるのが、1935年に実施された日本初の「全国商店街調査」。日本初の、ってことは、やはり以前はほとんど存在しなかったから調査もされなかったと考えられます。
 この調査によると、丸ビル商店街開業からおよそ10年で、日本全国の主要都市すべてに○○商店街が多数誕生していたことがわかります。関東大震災の被害からの復興が、日本全国に予期せぬ商店街ブームを引き起こしたのでした。
[ 2023/09/01 19:18 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)
プロフィール

Author:パオロ・マッツァリーノ
イタリア生まれの日本文化史研究家、戯作者。公式プロフィールにはイタリアン大学日本文化研究科卒とあるが、大学自体の存在が未確認。父は九州男児で国際スパイ(もしくは某ハンバーガーチェーンの店舗清掃員)、母はナポリの花売り娘、弟はフィレンツェ在住の家具職人のはずだが、本人はイタリア語で話しかけられるとなぜか聞こえないふりをするらしい。ジャズと立ち食いそばが好き。

パオロの著作
つっこみ力

読むワイドショー

思考の憑きもの

サラリーマン生態100年史

偽善のトリセツ

歴史の「普通」ってなんですか?

世間を渡る読書術

会社苦いかしょっぱいか

みんなの道徳解体新書

日本人のための怒りかた講座

エラい人にはウソがある

昔はよかった病

日本文化史

偽善のすすめ

13歳からの反社会学(文庫)

ザ・世のなか力

怒る!日本文化論

日本列島プチ改造論(文庫)

パオロ・マッツァリーノの日本史漫談

コドモダマシ(文庫)

13歳からの反社会学

続・反社会学講座(文庫)

日本列島プチ改造論

コドモダマシ

反社会学講座(文庫)

つっこみ力

反社会学の不埒な研究報告