FC2ブログ

反社会学講座ブログ

パオロ・マッツァリーノ公式ブログ
反社会学講座ブログ TOP >

豊作だった夏ドラマ評

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。夏ドラマは久々に豊作だったんじゃないでしょうか。期待外れだったのは『Heaven?』くらいなもので。だけどあれは石原さとみさんのせいではないです。脚本も演出も、原作マンガの独特な笑いの間(ま)を読み違えてたのが敗因。だからギャグがことごとく空回りしてまして、いたたまれずに私は2話でやめました。
 『ボイス』がよかったのは初回だけで、完全に尻つぼみ。『あな番』もそうだったみたいだけど、ミステリドラマで快楽殺人鬼はもう使用禁止にしてほしい。ミステリってのは、犯罪の動機と方法を解明するところにおもしろさがあるのに、快楽殺人には動機が不要だから、それだけでおもしろさ半減。殺したいから殺しました、でいいのなら、なんでもありじゃん。物語の作りがものすごく安易になるんです。

 今期のベスト作品をドラマファンが選べば、おそらく満場一致で『凪のお暇』じゃないですか。今期どころか、年間ベストの目もあるかな? 1話より2話、3話とおもしろくなり、ずーっとそのレベルをキープしてましたからね。最終回だけ、ばたばたっとまとめてしまったのが残念ですが、これは原作が未完らしいので、しかたがないところか。
 最初は、人生リセットしたら周りがいいひとばかりだった、みたいなぬるい話かと思ってたら、けっこう人間と社会の闇の面もめくってみせて、純文学的な香りも漂ってました。前からいってるけど、黒木華さんは現代劇でも抜群なんだってわかったでしょ? といいつつ、『みをつくし料理帖』の続編を待ち焦がれてますけども。

 はじまる前の期待度が低かったのに大化けしたのが『ルパンの娘』。序盤の徹底したバカバカしさも特筆ものだったけど、それに慣らされたせいで、中盤からのありえない純愛物語をすんなり受け入れてしまうんですよねえ。してやられました。かといってマジメに流れることもなく、わけあり役者を投入したりとか、おふざけと笑いの本線からは最後までブレなかったことに拍手。

 もう一本、まったく注目されなかった秀作が、『これは経費で落ちません!』。殺人などは起きないけど、会社内で起きる謎や不正を経理の力で解き明かすという点で、これは広義のミステリです。探偵役ともいえるヒロインの経理部員は、謎をほっとけない性分。でも犯人を捜して詰め腹を切らせるのが目的ではなく、不正の正体をあきらかにすることで、みんなにとって最良の着地点を模索しようとする姿勢が、かっこいいんです。
 NHKのドラマでいつも感心するのは、キャスティングの良さね。民放みたいに視聴率のために芝居が下手な人気者をかき集めるのでなく、役ありきで、ハマるひとをあててくるんです。主演の多部さんはもちろん、恋人役のジャニーズの若手も好演。いつも地味な役柄が多い江口のりこさんが、ぐいぐい前に出る役をやってたのも楽しかったし、憎まれ役のベッキーさんとか、調子のいい東京03の角田さんとか、みんな上手くて、会社にこういうひといそうだよね、って納得しちゃう出来。
[ 2019/10/08 09:50 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)

バンクシー作品の真贋

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。覆面アーティストとして有名なバンクシーさんの絵が高値で落札されたとニュースで報じられました。そういえば、東京都にある防潮扉にも、バンクシーさんの作品らしきネズミの絵が描かれてたと話題になりましたよね。
 小池都知事は大はしゃぎで、作品が描かれた部分を外して保存するよう命じ、ゴールデンウイークには都庁で展示・公開までされたんです。
 でもあの東京のネズミの絵は、ほぼ間違いなくニセモノですね。だれかがバンクシーさんの作品を転写しただけでしょう。
 私がそう推論したのには、もちろん理由があります。

 理由その1。盗まれなかったから。
 バンクシーさんの作品には高額の値がつくことは、美術の専門家じゃない私でも知ってるのだから、プロの窃盗団にとっては常識でしょう。実際、パリの美術館の駐車場の案内板かなんかに書かれた作品は、盗難対策がなされていたにもかかわらず、早々に盗まれました。
 東京の防潮扉の絵は、10年くらい前からあったことが知られてたそうです。いまどき、金になるとわかれば蛇口でもエアコンの室外機でも盗まれるんですよ。あの絵が本物だったら、とっくのむかしに盗まれてたはずです。

 理由その2。作品にテーマもメッセージ性もないから。
 作品を見れば容易にわかりますが、政治風刺や社会風刺を前面に出すのがバンクシーさんの作風です。そのメッセージは、反権力、反権威、反戦、平和主義といった、かなりリベラルなものばかりです。あえて、ストリートアート(落書き)という違法な手段を用いてるのも、反権力の立場を明確にするためでしょう。
 なので、もしも本当にバンクシーさんが日本で作品を残すとしたら、日本の保守層が不快感をおぼえるような作品になるはずです。あの防潮扉のネズミの絵に、なんのメッセージがありますか? なにもないですね。なんのメッセージもテーマも皮肉も諷刺もない、単なるかわいいイラストを、バンクシーさんがわざわざ日本に描きにくるわけがありません。

 私はバンクシーさんのファンですから、ぜひ日本に作品を描きに来てもらいたい。いまだったらきっと、日韓のいがみあいを風刺するような作品になるんじゃないですか。もしそんな作品が描かれたら、「そんな落書きを公金・税金を使って保存するな! すぐに消せ!」みたいな抗議の声が殺到するかもね。
[ 2019/10/04 19:25 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)

ジャズ・トゥナイト その後

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。今年2月16日付けのブログに、長年にわたりNHK-FMの『ジャズ・トゥナイト』のパーソナリティだった児山紀芳さんが亡くなったことを書きました。

参考記事:児山紀芳さんを偲んで

 児山さんより適任のジャズ評論家はいないのではと、このときの私は、番組の存続にすら悲観的でした。
 それから半年も経ってしまったのですが、その後どうなったか。4月から大友良英さんがパーソナリティを引き継ぎました。大友さんって誰よ? というかたでも、朝ドラ『あまちゃん』のテーマの作曲者だといえば、第一線で活躍中の音楽家だとわかっていただけるでしょう。
 大友さんはフリージャズ方面の活動をしてた経歴もあるそうで、そっちのコワい系(前衛的という意味ね)の選曲をするのだろうかと心配でした。しかしフタを開けるとうれしい誤算。新譜・旧譜・硬軟取り混ぜて、ベテランジャズファンも、ジャズを聴いてみたい一般人も楽しめる番組になってます。(毎月の最終週だけは別番組なので、聴いてみようと思ったかたはご注意を。)

 てか、この半年で私はすっかり大友さんのファンになってしまいました。有名ジャズミュージシャンを取りあげるときも、歴史的大名盤ばかりでなく、このアルバムのこの曲どうよ? とばかりに、スルーされがちな隠れ名曲を教えてくれます。
 最初に耳を惹かれたのは、カテリーナ・バレンテがギターの弾き語りで「四月の思い出」を歌い、そこにチェット・ベイカーがトランペットを重ねるデュオ。こんな素晴らしい演奏があったのかと驚き、購入意欲満々で音源を探したのですが、このふたりのデュオは2曲しか録音されてないと知ってがっかり。
 しかしその後も、番組を聴いたあとに何度中古CD屋を漁りに行ったことか。できれば大友さんに番組をずっと続けてもらいたいくらいですが、お忙しいかただと難しいかもしれませんね。一時期、児山さんはもうひとりのパーソナリティと一週交代でやっていたことがありました。その方式でもいいので、貴重なジャズ番組をなるべく長く続けてほしいものです。
[ 2019/09/23 21:01 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)

改名のワンチャンスがあってもいい

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。先日の『チコちゃん』でシュウマイの問題が出題されてて笑っちゃいました。シュウマイまでぶっ壊そうとしたあいつへのあてつけかな。
 あいつと同類じゃないかと誤解されるのは迷惑なので、はっきりさせておきます。じつは私も以前、NHKはニュースと天気予報以外をスクランブルしたらどうかと提案したことがあります。

参考記事:ホットコーヒー裁判の真相

 このブログ記事を読んでいただければおわかりになるはずですが、私はNHKに好意的です。私がぶっとばしたいのは、本当は見てるくせに、見てないから受信料は払わないとウソついてる連中です。

 さて、先週だったか、NHKの『クローズアップ現代』で改名についてやってました。最近は、トランスジェンダー関連や、親につけられたキラキラネームで生活に支障をきたしているなどの理由で改名するひとが多いのだとか。
 正式に改名するには裁判所に申し立てて、正当な理由が認めらなければなりません。ちょっと面倒です。でも、番組でもいってましたけど、江戸時代までの日本では、成人したときなどをきっかけに改名するのが一般的でした。明治時代に全国民を戸籍で管理するために、勝手に改名できないようにしたんです。

 みなさんが日本の伝統、常識と思ってる社会慣習の多くは、じつは明治時代にむりやり作られたものだったりするんです。日本の歴史文化に無知なくせに保守を自称してる政治家とかは、戦後の日本社会は伝統的な家族観を破壊した、などと難じますが、日本の伝統的な家族観を最初に破壊したのは明治政府です。
 本来の日本人は、生涯に何度も結婚・離婚を繰り返すのが普通でした。捨て子や親のない子を養子にするのも、とても簡単にできました。そういった、縛りの少ない多様性こそが伝統的な庶民の家族観だったのに、戸籍で管理されるようになって届け出が厳密化され、自由な伝統が失われたのです。

 で、改名に関してなんですが、私からひとつ法改正のご提案。成人――今度から18歳ですか、その歳になったときに、無条件で名前を一度変える権利がもらえるってことにしてはどうでしょう。
 名前ってのは、自分の承諾なしに勝手に親につけられてしまうものです。だったら、オトナになったら自分の意志で変える権利があって当然でしょう。その権利を行使するかどうかは、自由です。何歳のときに行使してもかまいません。2度目の改名からは、これまで通り裁判所の審理を必要とする方式にすれば、やたらと変えられることはありません。
 マイナンバー制度ができたのだから、名前を変えても行政手続き上の支障はとくにないはずです。18歳までガマンすれば改名できるとなれば、キラキラネームや性別関連で悩んでる若者も希望が持てるのではないですか。もちろん逆に、キラキラネームに変えることも可能です。自分の責任でやるのなら、文句は出ません。

 最近の日本の親が名付けに凝るのは、少子化のせいでもあります。拙著『誰も調べなかった日本文化史』に書いたのですが、戦前の日本では、一郎は思いのほか少なくて、三郎のほうがやたらと多かったんです。長男次男あたりまでは名前を考えたけど、3人目ともなるとめんどくさくなり、三郎でいいや、って感じになったのではないかと。

 改名という日本の伝統文化の復活を期待してます。わくわくしますね。
[ 2019/09/07 20:26 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)

見応えがあった、この夏の戦争関連テレビ番組

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。ひとむかし前までは、毎年8月に放送される戦争関連のテレビ番組といえば、戦争の悲惨さというお題目を感傷的に訴えるものばかりという印象でした。
 でも最近は作り手の意識が変わってきたようです。忘れられた事実を掘り起こして伝えようとする、文化史的に価値のある番組が増えてきたのは好ましい。とくに今年は見応えのあるものが多かったです。

 NHKの『あちこちのすずさん』は、『この世界の片隅に』で描かれたような戦時下の庶民生活体験談を一般から募集して紹介する企画。
 私は『この世界の片隅に』の原作マンガに感銘を受けて、アニメ化される前から推してました。それまでの戦時下の生活を伝える物語は、抑圧された窮乏状態をみんなで必死に耐えました、欲しがりません勝つまでは! みたいな暗い世情を描くものがほとんどでした。ところが『この世界の……』では、戦時下でも庶民が笑ってます。日常に喜怒哀楽が存在してるんです。
 考えてみればそれがあたりまえで、国民全員が一丸となってお国のために耐えていた、なんてきれいごとにこそムリがあるんです。戦争中は国民全員が我欲を捨てて道徳的に生きてたなんて思わせるのは、歴史の捏造ですよ。以前ブログに書いたように、空襲の際に火事場泥棒してたヤツとか、不道徳な日本人もたくさんいたのが事実だし。
 番組では、戦時下でも禁止されるギリギリまでパーマをあててたり、こっそりおしゃれをしてた女性がたくさんいたという証言が寄せられてました。みんな非国民だったよ、みたいに自嘲する証言もありました。私はそれを全然けしからんとは思いません。むしろ、その人間らしさが頼もしい。人間らしさを残してた者が非国民と呼ばれたのなら、国民になるには、人間性を失わなきゃいけないってことですわな。

 首都圏ではフジテレビで放送された、テレビ新広島制作の、原爆ドームという名称がいつから使われるようになったのかを検証していく番組も、文化史的な興味をそそられる秀作でした。
 終戦直後は、原爆被害を伝えようとする活字メディアがGHQによって徹底的に検閲・削除されてたことは想像の範囲内でしたけど、原爆という言葉を使うことが許されず、「原爆」は「平和」に置きかえられたっていう、ブラックジョークみたいな事実には呆れました。広島市民のあいだでは原爆ドームという呼び名がじょじょに使われるようになってたけど、それが活字になって広まったのは日本が主権を回復してからのことだったようです。

 Eテレでは原爆をテーマにした幻の映画『ひろしま』が放送されました。私はこの作品の存在すら知りませんでした。過去にテレビで放送されたことあったのかな? 製作当時、アメリカに忖度して映画館で上映されなかったいわくつきの作品だけに、もし地上波初放送だったとしたら快挙です。
 とはいえ、もしも映画本編だけの放送だったら、なんだまた一昔前の反戦映画か、とスルーしてたと思います。今回、本編に先立って、映画製作から公開、現在までの経緯を取材したドキュメンタリーが放送されました。これとセットで見ることで、とても興味深い歴史文化番組となったのです。

 先にいっときますが、この映画はとくに主役らしき者がいない群像劇です。原爆投下から7年か8年経った中学校の教室のシーンからはじまり、投下日の回想シーンに移っていく構成になってますが、基本的にエピソードの寄せ集めなので、ストーリー性を求めるとがっかりします。でもストーリーってのは、感動を増幅するためのウソですから。
 まだなまなましい記憶やトラウマがあっただろう時期に、数万人の市民が協力・出演したというのが凄い。でも原爆投下後の実態を目撃・体験したひとたちがエキストラをやってるから、芝居自体はうまくなくても、得体のしれないリアリズムが画面から漂ってきて、ぞっとします。
 冒頭の中学校のシーンでは生徒のひとりが、いつ原爆症が発症するかと脅えて生きてるのに、原爆を鼻にかけてるだの、原爆に甘えてるだのと批判される、と怒りをぶちまけます。
 ああ、日本人の心性は変わってませんね。被害者や弱者は謙虚にしてなきゃいけない、自分から救済を求めるのはずうずうしい、みたいなひねくれた道徳観がむかしから日本にはあるんです。じゃあ謙虚にしてたら助けてくれるのかというと、弱者を助けるのは偽善だとか、被害に遭ったほうにも責任があるとかヘリクツ並べて、結局なにもしない。

 古い作品だけどリマスターされていて、画像は非常に鮮明でした。ドキュメンタリーでは、リマスター作業を担当したのがアメリカの会社だったことを伝えてました。アメリカ人が、こういう文化的に意義のある作品は残さなきゃいけないと手をあげてくれたのに、日本ではこの作品が忘れられてるってのが、なんとも皮肉です。
[ 2019/08/28 08:21 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)
プロフィール

Author:パオロ・マッツァリーノ
イタリア生まれの日本文化史研究家、戯作者。公式プロフィールにはイタリアン大学日本文化研究科卒とあるが、大学自体の存在が未確認。父は九州男児で国際スパイ(もしくは某ハンバーガーチェーンの店舗清掃員)、母はナポリの花売り娘、弟はフィレンツェ在住の家具職人のはずだが、本人はイタリア語で話しかけられるとなぜか聞こえないふりをするらしい。ジャズと立ち食いそばが好き。

パオロの著作
偽善のトリセツ

歴史の「普通」ってなんですか?

世間を渡る読書術

会社苦いかしょっぱいか

みんなの道徳解体新書

日本人のための怒りかた講座

エラい人にはウソがある

昔はよかった病

日本文化史

偽善のすすめ

13歳からの反社会学(文庫)

ザ・世のなか力

怒る!日本文化論

日本列島プチ改造論(文庫)

パオロ・マッツァリーノの日本史漫談

コドモダマシ(文庫)

13歳からの反社会学

続・反社会学講座(文庫)

日本列島プチ改造論

コドモダマシ

反社会学講座(文庫)

つっこみ力

反社会学の不埒な研究報告