こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。
なんでも、書籍で最初に江戸しぐさを批判したのは私ではないかとの指摘を受けまして、そういう栄誉に浴した(?)からには、読まないわけにいきません、江戸しぐさについて徹底検証した原田実さんの『江戸しぐさの正体』。
私が感じてた疑問や矛盾はほぼすべて突いてました。化けの皮を完全にはがしちゃいました。まあ、普通に考えればおかしいと思うよねえ。江戸しぐさを勧める人たちが江戸文化に無知すぎることはあきらかなんで。
江戸しぐさ信奉者たちからの反論――は期待するだけムダでしょう。どうせ、「諸説あります」と常套句でいい逃れをするのがオチ。どんなデタラメな説を持ち出しても、これは諸説あるうちのひとつだから、といえば許されると思ってる。さらに追及されると、もうひとつの切り札「信じる信じないはあなた次第」を出してきます。
そもそも歴史を科学とは思ってない人が多すぎるんです。信頼できる証拠によって論証されなければ歴史の真実とは認められないということがわかってない。自分の経験や信念に合致するかどうかで歴史の正しさを決めていいと思ってる人たちのせいで、歴史がどんどんオカルトになっていきます。
そのあたりの事情を論じているのが、高野陽太郎さんの『「集団主義」という錯覚』。新刊ではないのですが、最近読んで感心した一冊。
日本人は集団主義、欧米人は個人主義という通説にはなんの根拠もないってことをまとめた本です。じつはこれまで、さまざまな比較実験や調査が行われているんですが、日本人のほうが集団主義的であるという結果が出た調査はほとんどありません。欧米人と変わらない、あるいは、むしろ日本人のほうが個人主義的な面が強いという結論のものまであります。
いわれてみれば気づくのですが、日本人のほうが欧米人より個人主義的に見える例だってたくさんあるんです。西洋のスポーツには集団競技が多いけど、日本には相撲、剣道など個人競技が多い。西洋人は家族で皿や食器を共用するけど、日本人は自分専用の箸や茶碗を使う。
歴史的な例もあげられてます。明治から戦前までの日本でも、学校や会社、官庁などで個人や小集団による組織への抗議、反乱が多数起きていました。ところが、「日本人はもともと集団主義的で和を重んじてたのに、戦後アメリカの影響で個人主義が強くなって勝手な人が増えた」という通説を主張したい人は、過去の例を都合よく忘れてしまう。
通説を否定する理論に出会うと「通説は正しいのだが、調査や実験の結果にはあらわれてこないだけなのだ」とヘリクツをこねます。これでは、通説は永遠に反証できないことになってしまう、と高野さんは批判します。
他人が提出した証拠や論理は無視して、自分の直感を絶大に支持する人がいかに多いかってことですよ。自分の直感を絶対視して真実を判定するなら、なにも調べる必要もないし、なにも考える必要もない、論破する必要もない。これほどラクなことはありません。そうか。直感こそがバカの最終兵器なんですね。
[ 2014/10/06 20:23 ]
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