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2017年のテレビ評

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。今年テレビを見てていちばんのナゾだったのが、CMとかで頻繁に使われるようになった、顔を近づけてきた人に「近いよ」っていうやつ。あれなんなの。まったくおもしろくないんだけど。

 10月のブログ記事で、この秋のテレビドラマは初回の印象では豊作だと書きました。そのときあげた5本のうち、途中でやめたのは『奥様は、取り扱い注意』のみ。あとの4本、『監獄のお姫さま』『先に生まれただけの僕』『コウノドリ』『刑事ゆがみ』はいずれも甲乙つけがたいくらいの出来でした。こんなに毎週ドラマが楽しみだったのはひさしぶりのこと。
 『刑事ゆがみ』は2話での失速を3話で取り戻しました。元相棒の寺脇康文さんを犯人役で起用し、事件が解決しても真相のやりきれない苦さが口に残る秀逸なストーリーで本家『相棒』に真っ向勝負。視聴率では負けたけど、内容では『相棒』を越えたんじゃないですか。続編希望。
 クドカンさんの作品には独特のおふざけテイストがありまして、舞台ではウケてもテレビだとひかれる傾向が強く、『監獄のお姫さま』も例外ではなかったのですが、そのノリを受け入れられる人たちにとっては、能書き不要のまちがいない傑作。
 『先に生まれただけの僕』は高嶋政伸さんの怪演と風間杜夫さんの快演が目立ちましたが、このドラマ、それ以外も先生役のキャストがすべてハマってたのがすごい。当て書きだったのかなあ?
 学校経営という切り口の斬新さだけでなく、ドラマの中身もしっかり具が詰まってました。高校を辞めてプロ棋士になりたいという生徒とどう向き合うか先生たちが悩む回が秀逸でした。ムリだやめろと頭ごなしに反対するのでなく、現実との折り合いをつける約束をさせた上で夢を追うことを応援するんですよ。
 『コウノドリ』の鴻鳥先生も、頭ごなしに医者の考えを押しつけず、患者の事情にできるかぎり寄り添う姿勢を見せてました。出生前診断で胎児に障害があると知った二組の夫婦。一方は産まないことを選び、もう一方は産む選択をするのですが、鴻鳥はどちらも否定することなく医者としてできるベストを尽くします。
 現実には、障害があるとわかると産まない人のほうがかなり多いらしいです。そういう人たちを批判する意図は全然ないんだけど、「かけがえのないいのち」って言葉はウソなんだなと思いました。いのちは選別できるんです。かけかえられるんです。それが現実である以上、選別は行われます。倫理的な理想論で責めても意味がない。
 以上の4本に『みをつくし料理帖』を加えたのが今年のテレビドラマベスト5です。

 バラエティは、こどもにおもねらなくていい夜11時台以降の深夜枠が断然おもしろい。以前から推していた『全力!脱力タイムズ』のおもしろさにも、ようやく世間のひとたちが気づいてくれたようですし。
 いま一番おすすめなのは、『激レアさんを連れてきた』ですね。激レアな体験をした人の話を聞くのですが、だんだん凄いのか凄くないのかよくわからなくなってくるという、不思議な感覚も深夜枠ならでは。
 あと、先日パイロット版で3回深夜に放送されただけなのでだれも見てないと思うけど、『千鳥の東京路地裏大クセ探訪』は、ぜひレギュラー化を望みます。私も東京に来て気づいたのですが、大通りから一歩裏道に入ると、ボロい長屋みたいなのがけっこう残ってて驚きます。番組での住人の話から、どうしてそんな地価の高いところに住めるのか、裏事情がうっすら汲み取れて興味深かったです。
[ 2017/12/28 18:48 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)

ざんねんなにんげん図鑑2017

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。年も押し詰まり、今年のベストなどを発表する時期になりました。私も毎年やってますが、今年はベストの前に、ワーストのほうから発表したいと思います。まずは膿を出してスッキリしてからということで。今年ガッカリさせられた「ざんねんなにんげん図鑑2017」。

 最初はやはりこの問題。そう簡単に風化させませんよ。「日野皓正、日馬富士と、暴力を擁護するひとたち」。
 何年か前に、プロの格闘家がシロウトにインネンつけられてボコボコに殴られるも一切反撃せず、大ケガをしたという事件がありました。被害に遭った格闘家は痛々しい姿で会見し、もし反撃をしたら相手はかえって逆上するだろうし、ヘタしたら殺してしまいかねないからガマンしたのだ、などといってました。
 おおげさかもしれないけれど、私は感動しました。本当の強さって、こういうことなんだろうな、と。こういうのこそ、道徳の教科書に載せるべきエピソードなんじゃないの? 三國連太郎さんが戦争に行ったとき、上官からどんなに殴られても銃を撃つことを拒否し続けたという話を聞いたときと同じくらいの衝撃を受けました。
 それに比べたら、日馬富士が恥ずかしいくらいに小物だとわかるでしょ。相撲界というタテ社会では格下の者は絶対抵抗してこないとわかってて、暴力をふるった卑怯者。殴り返してこないとわかってる少年を殴った日野も同様ですね。
 暴力をふるった時点で、自分の教育が機能しなかったことを認めたも同然なのに、自分の敗北に気づかず、これはしつけだ教育だと威張ってる残念なひとたち。

 次は、「ベーシックインカム導入論を無視するひと」。私が経済関係のことをちょろっとでも書くと、すぐに反論・批判が寄せられるのですが、不思議なことに、私がベーシックインカム(以下BI)を支持したことに対する批判はまったくありませんでした。
 だからといって、彼らがBIを支持しているわけでもなさそうです。むしろ、気に入らないけど理論的に反論できないので無視してなんとかやりすごそうとしてる、そんなところでしょう。過去に雑誌などに載ったBI批判論にひととおり目を通したのですが、どれも論点ずらしのヘリクツばかり。BIに関しては、肯定論のほうが圧倒的に説得力があります。
 私は、明日からBIをはじめてもいいんじゃないか、くらいに思ってますが、自民党はまったくやる気がなさそうです。相変わらず、個々の問題ごとに所得などの基準で給付するかどうかを決める旧態依然たる福祉を増やすばかりで、将来破綻するリスクは無視して革命であるぞと自画自賛。
 抜本的な福祉改革であるBIを世界に先駆けて実施することこそが、本当の意味での革命なんですけどね。

 最後は、「ミサイル攻撃におびえて無意味な避難訓練をするひと」。暴力的な教育を擁護して強がってる連中が、ミサイルにびびりまくってるんだからねえ。
 危機管理に感情論は不要です。アタマを使って現実的に対処しなければいけないのです。北朝鮮からのミサイルは発射されて数分で日本に到達します。しかも国民に知らされるのも発射されて数分経ってから。そのわずかな時間でなにができます? 避難行動なんて無意味な気休めでしかありません。
 不思議でならないのですが、避難訓練をしてる人たちは自衛隊を信用してないのですか? 自衛隊のミサイル迎撃システムは、いま現在実行可能な、もっとも科学的で効果の高い対処法です。逆にいうと、それで迎撃できないタイプのミサイル攻撃を受けたら、われわれにできることはなにもありません。
 だからミサイルは自衛隊にまかせて、普段どおりの生活を続ければいいんです。避難訓練なんかしても、日本人をビビらせてやったぞ、と北朝鮮を喜ばせるだけ。
 どうしても心配なら、発射後に警告する無意味なJアラートをやめて、発射前に警告する「ミサイル予報」にしたらどうですか。
 政府は世界中からさまざまな情報を得て事前に準備をしています。だから、明日ミサイルが発射される確率は80パーセントです、みたいな予報ができるはずで、それを事前に発表し、どうするかは各自の判断にまかせればいい。でも、そういう情報公開を評価するひとよりも、予報がはずれたときに文句いうひとのほうが多いから、やらないのでしょうけど。
 日本にとっては地震のリスクのほうが、遙かに高いのですよ。ミサイルは外交努力などでも抑止できるけど、大地震は人間の力では止められません。いつかまた必ず来ます。ミサイルという目先の派手な問題に目を奪われて、震災の記憶が薄れ、地震への備えがおろそかになるほうが、よほど危険です。
[ 2017/12/14 18:55 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)
プロフィール

Author:パオロ・マッツァリーノ
イタリア生まれの日本文化史研究家、戯作者。公式プロフィールにはイタリアン大学日本文化研究科卒とあるが、大学自体の存在が未確認。父は九州男児で国際スパイ(もしくは某ハンバーガーチェーンの店舗清掃員)、母はナポリの花売り娘、弟はフィレンツェ在住の家具職人のはずだが、本人はイタリア語で話しかけられるとなぜか聞こえないふりをするらしい。ジャズと立ち食いそばが好き。

パオロの著作
つっこみ力

読むワイドショー

思考の憑きもの

サラリーマン生態100年史

偽善のトリセツ

歴史の「普通」ってなんですか?

世間を渡る読書術

会社苦いかしょっぱいか

みんなの道徳解体新書

日本人のための怒りかた講座

エラい人にはウソがある

昔はよかった病

日本文化史

偽善のすすめ

13歳からの反社会学(文庫)

ザ・世のなか力

怒る!日本文化論

日本列島プチ改造論(文庫)

パオロ・マッツァリーノの日本史漫談

コドモダマシ(文庫)

13歳からの反社会学

続・反社会学講座(文庫)

日本列島プチ改造論

コドモダマシ

反社会学講座(文庫)

つっこみ力

反社会学の不埒な研究報告