こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。遅ればせながら、2018年のよかった本・ドラマ・映画をまとめました。
『暴力の人類史』(スティーブン・ピンカー 青土社)
これ、数年前に翻訳版が出たとき、図書館でずっと貸出中だったんで、そのまま忘れてました。急に思い出して読んでみたところ、迷うことなく必読図書として推薦できる名著でした。
いま現在の世界が人類史上もっとも暴力や殺人が少ない時代である事実を、大量の資料から証明しています。イギリスで、14世紀と20世紀で殺人件数はどのくらい違うと思いますかとアンケートをとったところ、案の定20世紀のほうが増えたと思う人が多かったそう。でも史料から導き出された正解は、95パーセントの減少。「この衝撃的な事実は、のどかな過去と退廃した現在というステレオタイプをことごとく裏切る」。
どうやら「昔はよかった」病は日本だけでなく、世界中に蔓延してるようです。
さらに興味を惹かれたのは、暴力や殺人が激減しても、決してゼロにはならない理由に関する検証と考察。その理由を本書は「道徳性と正義の過剰」にあるとしています。
法学者ドナルド・ブラックさんいわく、「私たちが犯罪と呼ぶもののほとんどは、加害者の視点から見れば正義の追及だ」。
強盗目的など、いわゆる「悪」の殺人は全体の1割程度しかありません。殺人犯のほとんどは、自分が相手から許しがたい辱めや不利益を被ったことへの制裁・復讐として殺人を犯しているのです。殺人犯にとっては自分こそが真の被害者なのです。だから、自らが正義の死刑執行人となって罪深き加害者に鉄槌をくだす権利があると考えます。むろんそれは加害者の一方的な正義にすぎず、被害者側から見れば、加害者が自分の暴力行為を正当化したヘリクツでしかありません。
正義や道徳には殺人や暴力を思いとどまらせる効果もたしかにあります。しかしそれと同時に、正義や道徳は殺人や暴力を生む原因でもあるし、殺人や暴力を正当化する理由としても使われています。正義や道徳を盲信する人たちは、その事実から目を背けているのです。
『昭和元禄落語心中』(NHKテレビドラマ)
原作マンガの評価が高かったので、おそらく実写化のオファーも殺到してたのではないでしょうか。結果的に、もっとも幸福なカタチでの実写化だったと思います。
NHKのドラマは、視聴率が取れそうな役者をムリヤリねじ込んだりせず、作品のイメージを最大限活かせるキャスティングを優先してるところに好感が持てます。
岡田将生さんをはじめ、役者陣もみな適材適所でハマってましたし、盤石な脚本・演出で、情の濃い話を紡ぎあげました。10回ほどの連ドラなのに、大河ドラマを1年間観たかのような満足感。
『ビジランテ』(邦画)
ここ数年、映画館で映画を観てません。ほとんどWOWOWに頼ってるので、劇場公開から1年遅れの評価となります。で、2018年に観たなかでのベストが『ビジランテ』。
指摘する人も多かったようですが、つじつまの合わないところもあるんです。でも、それはこの作品の評価を下げる理由にはなりません。なぜならこの映画が目指したのは謎解きミステリーではないから。この映画の主題は「地方都市の気持ち悪さ」なんです。
おそらく監督も地方都市の気持ち悪さに気づいていて、いつか描いてやろうと企画を温めていたのでしょう。なにもないけど平和な住宅地、という見せかけのイメージの裏で、政治家と開発業者とヤクザがデカいツラして牛耳っている。善良な小市民たちはそうした巨悪には目をつぶる一方で、見せかけの平和を守るために防犯パトロールという名の自警団活動(ビジランテは自警団の意味)にいそしむが、彼らの正義は排他性と独善で汚れている……。
そういう気持ち悪さを意識してない人たちがこの映画を観ると、おのれの醜さを鏡で見せられたようで不快になるんです。認めたくないんです。秀作でありながら一般人からの評価が意外と低かったり、あまり話題にならなかったのは、そのあたりに理由がありそうです。
2018年の残念だったこと
池袋の中華料理店『黒龍門』の閉店。ここの麻婆炒飯は、かかってる麻婆が山椒の効いた本格派。めちゃくちゃうまいB級グルメって感じで気にいってました。2018年の夏は暑すぎて、辛いもの食べて汗かくことすらイヤだったんでしばらく足が遠のいてました。秋になってから久々に行ったら、すでに店はなく……。
[ 2019/01/07 21:34 ]
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