こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。お笑い芸人のキートンさんが、R-1の予選で落ちて、審査に対する不満を漏らしました。彼に対して「売れて見返せ」というコメントがありましたが、それはあまりにも無意味でバカげた助言です。
むかしから、悔しかったら売れて見返せ、みたいな紋切り型の助言はよく耳にしてきましたけど、そもそも売れて見返すって、なんなの? 具体的にどうやればいいんですか。
たとえばオードリーがM-1の決勝に出たとき、審査員の島田紳助さんは、オレは、これはない、みたいにすごい冷たい口調で全否定してました。いま、オードリーは売れました。紳助さんは消えました。だったらオードリーがヒルナンデスの生放送中に「紳助、ざまあみろ、バーカ」といえば、見返したことになるのですか?
東京03も紳助さんにヒドい仕打ちを受けました。彼らもけっこう売れたのだから、そろそろテレビで「紳助、ざまみろ、バーカ」といってもいい頃だと思うのですが、いかがでしょう?
仮にキートンさんがブレイクしたら、R-1予選で自分を落とした審査員を実名で批判して芸能界から追放すればよいってことですか?
もしも彼らがそういうことをしたら、みなさんは「よくやった! ついに売れて見返したな! おめでとう!」と称賛するのですか。そんなわけないですよね。むしろ人間性を疑います。
問題点は他にもあります。現実には努力しても売れない人がほとんどです。つまり、売れて見返すことができる確率自体がかなり低い。たとえ売れたとしても、時間がかかると、売れたときに見返すべき人がすでに死んでる可能性もあります。その場合どうしましょうかね。墓をぶち壊して見返してやりますか。
このように、売れて見返すという行為は非現実的で、実行すれば逆に人間性を疑われるリスクすらあります。それを安易に勧める人たちは、ご自分がいかに無意味でバカげた助言をしているのか理解してないのです。
さらにいわせてもらえば、売れて見返せという助言は、指摘された問題をなかったものとして、論点をすり替え、解決への道を閉ざしてしまう最悪の方法論なのです。
今回キートンさんは、R-1の予選の審査方法に問題があるのではないか、という異議申立てをしたのです。それは当然の権利を行使しただけのこと。何も間違ってません。
じつは私も一視聴者として、かねがね疑問を持ってました。M-1やR-1の予選は、誰がどうやって審査しているのだろう? それを知りたくて公式サイトなどを見ても書かれてないので、ブラックボックスです。
つまり現状では、予選の審査方法に問題がある可能性は否めないのです。なのにそれを検証しようともせず、異議申立てをしたキートンさんに売れて見返せとくだらない説教をして終わらせてしまうとしたら、問題の隠蔽と論点のすり替えです。
売れてなくても、エラくなくても、問題が存在することに気づいたら、それを指摘して改善を要求する権利はあります。エラくなるまで黙ってシステムに従えってのは、権威至上主義、権威盲従主義です。売れて見返せというひとたちは、民主主義の基本理念をわかってないのでしょうね。
[ 2019/02/04 21:03 ]
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