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パオロ・マッツァリーノ公式ブログ
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テレビが買いだめパニックを煽ってるというけれど

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。ついこないだまで、絆、ふれあい、ワンチーム、公共心、大義、正義、助け合いなんてきれいごとを口にしてたひとたちが、他人のことなど考えず、不要なものまで買いまくる。人間の本性ってコワいですね。

 私はだいたい、2日か3日ごとにスーパーに買い物に行きます。6枚切の食パンを、毎朝2枚食べるので、食パンとともに他の食材を買うのが日常習慣になってます。
 異変に気づいたのは木曜日、26日のお昼前に近所のスーパーに行ったときのこと。見たことないほどの混雑で、レジにも長蛇の列。そばにいた店員さんに、今日なんでこんな混んでるんですか? とたずねたら、ゆうべ小池都知事が週末外出自粛のお願いをしたからじゃないか、と。今朝は開店前から店の前に行列ができていた、と聞いて、心底ビックリしました。
 私も前日の夜、テレビニュースで小池さんが週末外出自粛を要請してるのを見ましたよ。でもそこから、大変だ、食料品買いだめしなきゃ! という発想は1ミリも浮かびませんでした。てか、どういう論理の道筋をたどれば、自粛要請から買いだめにまでつながるの?
 だから木曜日になんの切迫感も危機感もなく、いつもどおりスーパーに行って、予想外の事態に驚いたんです。
 カップ麺みたいな日持ちのするものが売れるのはまだわかりますが、肉、米、食パンまですっからかん。スーパーで食パンが売り切れるなんて、普段はありえません。米とかパンとか一番基本的な食べものが買えないって、異常事態ですよ。
 日本人は災害などが起きても略奪行為などしない、とよくいわれますけど、必要もない分まで買ったヤツのために、本来自分が買おうとしてた分がなくなったのだと思うと、略奪されたような気持ちになりました。それは合法だから略奪ではない、とかつまんない正論をいわないように。
 合法なら何をしてもいいという理屈は、自分がよくないことをしてるという負い目があるからこそ、出てくるんです。そういうひとが自分を許すための免罪符です。
 だったら、自粛要請にも法的強制力はないのだから、無視して花見宴会をやるのも合法です。あなたそんなアナーキーなひと?

 不思議なのは、ネットを見てみると、買い占め・買いだめをしてるひとを批判するよりも、それを煽ってるとして、マスコミ(おもにテレビ)を批判する意見のほうが目立つこと。買いだめしてるひとをキビしく糾弾しないのは、きっと自分もやってるからなんでしょうね。
 まあ、それは邪推だとしても、テレビが報道で煽ってるという説には、大きな矛盾があるので、うなずけません。
 水曜日(25日)の夜、都知事の週末外出自粛要請がテレビで流されると、夜間営業をしてるスーパーには、早くもその夜から行列ができてたそうです。さっきいったように、うちの近所のスーパーでは、木曜朝の開店前から客が並んでたと店員さんがいってます。
 つまり、都内のスーパーに客が殺到した様子がテレビで流れる前から、すでに買いだめ行動は起きていたんです。

 さて、朝から客が殺到した木曜日ですが、私が見た午後6時台のテレビニュースは、都内スーパーの混雑騒動を報じてませんでした。仮に、他のチャンネルや、午後のワイドショーが報じてたとしましょう。もしそれが買いだめを煽ったのなら、金曜日はさらにパニックが激化したはずです。
 私は金曜の昼前に、昨日とはべつの近所のスーパーに足を運んでみました。こちらも普段から利用してるのですが、この日の客の入りは普段と変わらない程度に落ち着いてました。ただしあちこちの棚がスカスカだったので、この店にも、前日の木曜には客が押しかけたのだな、と推測できます。
 もし、テレビ報道が買いだめ行動を煽っているのなら、木曜の放送を見たひとたちが金曜日に殺到したはずです。でも実際には、テレビで報じられる前、木曜のほうが混乱はひどかったんです。
 やはり、買いだめパニックをテレビが報道することで煽って激化させているとする説は、事実と矛盾しています。

 だったら、SNSが煽ったとする見かたはどうなのか。これも現時点で断言するには材料が少なすぎるように思います。スーパーで多めに買い込んでる客には、高齢者も多いです。彼らがSNSに踊らされてるとは考えにくい。
 SNSがなかった時代、オイルショックのときにもトイレットペーパー買いだめ騒動が全国的に起きてますしね。そういったさまざまな事実を考慮に入れず、何か特定の要因だけを短絡的に犯人扱いするのは学問的ではないですね。
 SNSの買いだめに対する影響力は、いずれ、ネット利用のビッグデータにアクセスできる研究者たちが検証してくれるんじゃないかと期待してます。
[ 2020/03/29 13:34 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)

選ばず、こだわらず、対策を

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。先週、『病室で念仏を唱えないでください』の最終回で、母と妻が同時に溺れていたら、どちらを助けるかという仏教説話が使われてました。このジレンマを問われた高名なお坊さんは、「近いほうを助ける」と答えたのだそうな。
 私はすべての宗教を思想としてみてるので、信仰心はありません。寺社を訪れても拝んだり祈ったりしません。天罰神罰みたいなものを一切信じないけど、ご利益なんてのも一切期待してません。
 もちろん仏教の信者でもありませんが、宗教思想の中では仏教思想は一番おもしろいと評価してます。仏教といってもいろいろありまして、近いほうを助ける話は禅宗の説話みたいなので、他の宗派の僧侶は異を唱えるかもしれません。でも、この説話には仏教的なセンスがよく現れていると思います。
 要するに「選ばない」のが大事だと。仏教は「こだわる」ことを戒めるんです。どのいのちを救うかを選ぶことはこだわりであるし、救ういのちを選ぶ権利が自分にあると思うのは、自分が仏や神の立場に立とうとしてることになります。なんと傲慢な。
 しかも誰を救うか選ぶとなると、そこには必ず選別するための理由があるわけです。なんらかの理由によって選んでしまうと、理由に該当するしないによって不公平が生じます。選ばれるために理由や判定基準を操作すると、それは不正になります。

 コロナウィルス不況の対策がいろいろ検討されてますけども、いま行われてる対策はすべて、救う対象を選ぶものばかりです。だから、なんであいつらには補助金出すのに、オレらにはないんだ、あの業者には貸し付けするのにこっちには貸してくれないのか、みたいな不公平が生じます。
 減税ってのもおかしな話です。そもそも収入がなければ税金も払わないんですから、減税されても意味がない。消費税の減税も同じです。5%や3%減税されたからといって、先立つもの、お金がなければ買えません。
 だから、ある程度まとまった額の現金を、無条件で全員に配るってのが、いまの状況下では最良の対策です。誰を救うかを選んでるかぎり、ムダに時間だけが過ぎていくし、必ず不公平と不正が生じます。
 この期におよんでなお、困ってるひとだけに支給するべきだ、などと政治家や政府が「選ぶ」ことにこだわってるのは、不合理極まりない。
「ワタシは困ってるからお金ください」
「いや、あなたは困ってない。困ってることを証明せよ」
 みたいな不毛なやりとりを窓口で繰り返すつもりですか。
 現金を配っても貯蓄に回るなんて心配をしてるひとは、アタマだけでなく目も悪い。いますぐそこで、カネがなくて困ってるひとたちの姿が見えてないんですから。近いところから救わなきゃ、しょうがないでしょ。全員に一律で現金を給付すれば、困ってるひとは確実に助かります。余裕のあるひとが貯蓄しようが、どぶに捨てようが、寄付しようが、どうでもいいことです。好きにすればいい。
 病気でもひとは死ぬけど、貧乏でもひとは死にますよ。一刻も早く、選ばず、こだわらず、対策を講じるべきです。
[ 2020/03/26 16:51 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)

緊急時こそわかるベーシックインカムのありがたさ

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。いろんな施設が閉まっちゃったり、自粛、自粛で経済活動が停滞したりというこの混乱ぶり、なんだかんだいって、首都圏では東日本大震災以来のおおごとになりました。
 なにかにつけて日本人の道徳心を自慢するひとたちは、買い占め騒動に関しては外国も日本も同じだったことにがっかりしたことでしょう。買えなくて困ってるひとがいても自分さえよければいいのだ、ってエゴがすごい。ワンチームとかいう言葉が流行したのは、何年前のことでしたっけ?

 アメリカでも日本でも、政府が国民全員に現金を配ることを検討してるらしいのですが、だからさあ、前からいってるじゃん。ベーシックインカム(BI)やろうよって。
 突発的な緊急事態で収入が激減したときこそ、無条件で全員がもらえるBIのありがたさがわかります。こんなに公平で効果的な対策が他にありますか。なんで毛嫌いするひとたちがいるんでしょうね。
 バラマキには効果がないっていうけど、それは給付が一回ぽっきりだからです。死ぬまで毎月もらえるとなれば、バラマキでなく、画期的な社会保障です。
 つべこべいうひとのほとんどは、反対派の経済学者の言葉を鵜呑みにするだけで、自分で勉強しないんです。私のような経済シロウトにケチをつけるヒマがあるなら、専門家の書いた参考書を読んでくれと以前からお願いしております。

原田泰『ベーシック・インカム 国家は貧困問題を解決できるか』中公新書
ガイ・スタンディング『ベーシックインカムへの道』プレジデント社
ルトガー・ブレグマン『隷属なき道』文藝春秋

 ネットメディアのGIGAZINEは、海外の最新BI関連ニュースを積極的に取りあげてますので、記事を検索してみてください。

 私のブログでも過去記事で、おもに毛嫌いするひとたちの倫理や心理面について考察しております。

BIのすすめ
やっぱりやろうよ、ベーシックインカム
老後に2000万円不足? 解決法ありますけど

[ 2020/03/18 17:59 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)
プロフィール

Author:パオロ・マッツァリーノ
イタリア生まれの日本文化史研究家、戯作者。公式プロフィールにはイタリアン大学日本文化研究科卒とあるが、大学自体の存在が未確認。父は九州男児で国際スパイ(もしくは某ハンバーガーチェーンの店舗清掃員)、母はナポリの花売り娘、弟はフィレンツェ在住の家具職人のはずだが、本人はイタリア語で話しかけられるとなぜか聞こえないふりをするらしい。ジャズと立ち食いそばが好き。

パオロの著作
つっこみ力

読むワイドショー

思考の憑きもの

サラリーマン生態100年史

偽善のトリセツ

歴史の「普通」ってなんですか?

世間を渡る読書術

会社苦いかしょっぱいか

みんなの道徳解体新書

日本人のための怒りかた講座

エラい人にはウソがある

昔はよかった病

日本文化史

偽善のすすめ

13歳からの反社会学(文庫)

ザ・世のなか力

怒る!日本文化論

日本列島プチ改造論(文庫)

パオロ・マッツァリーノの日本史漫談

コドモダマシ(文庫)

13歳からの反社会学

続・反社会学講座(文庫)

日本列島プチ改造論

コドモダマシ

反社会学講座(文庫)

つっこみ力

反社会学の不埒な研究報告