こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。それにしても鮮やかだったのは、ヒューマンステージというフリを自ら回収してオチをつけてくれた渡部さん。夫としては0点ですが、お笑い芸人としては満点です。
テレビを見ないかたには何のこっちゃって感じですか。『かりそめ天国』で有吉さんが、グルメ志向などが鼻につく渡部さんを毒舌でディスってまして、それに対して渡部さんが、俺はあいつよりヒューマンステージが高い、早く俺と同じヒューマンステージに上がってこい、みたいな反撃をする一連のやりとりがおもしろかったんです。
ヒューマンステージってのはたぶん英語にはない造語で、人間性のランクみたいな意味で渡部さんは使っていたのでしょう。そういう自己啓発的なうさん臭い言葉で自分を高めていた渡部さんが、スーパーゲススキャンダルで真っ逆さまにヒューマンステージを転落したのです。フリとオチの落差が激しいほど笑いも大きくなるという笑いの基本を見事に実践してみせたのだから、番組の視聴者は全員爆笑したことでしょう。
偶然にももう一組、この落差で笑いを取ってる河井夫妻というコンビがいるので、ご紹介しましょう。夫は数年前のテレビ取材で「クリーンな政治を目指す」と宣言し、妻は県議会で知事の不正疑惑を、蓮舫さんばりの舌鋒で批判してました。それがいまや、コンビ揃ってヒューマンステージを急降下してるんですから、このフリとオチの落差は、シロウトにしては出来すぎの名人芸です。
本気でお笑い芸人になろうとするひとと、本気で政治家になろうとするひとは、だいたいどっかおかしいんですよ。
ただ、お笑い芸人は、自分がおかしいことを多少なりとも自覚してるので、それを笑いに変えられます。自分を客観的に見られないひとには、お笑いはできないと思います。
でも政治家は、自分がおかしいとはイチミリも思ってないので、イジられたり笑われたりすると本気で怒り出します。
私はおかしいひとを否定してるのではありません。自分がおかしいことに気づかず、自分はまともで尊敬されるべき人間だと思って威張ってるヤツが嫌いなんです。そういうヤツが政治家にやたらと多いから、政治家は基本的にみんな嫌いです。エラそうにしてる政治家を尊敬して、政治批判をするなー! と味方してるヤツらも同類だから、もちろん嫌いです。
さて、もうひとつ私が気になったのは、渡部さんとの不倫関係を雑誌に売った相手の女性に対して、そいつも悪いと責める声がけっこうあったことです。
え、なんで? だってわれわれゲスな庶民は、なんだかんだいって、有名人のスキャンダルを心待ちにしてるじゃないですか。その期待に応えてくれたのだから、相手の女性を責めるどころか、ありがとう! と感謝するのがスジってもんです。六本木ヒルズ上空にブルーインパルスを飛ばしたいくらいです。
たれ込むのはルール違反だ、って理屈が笑えるのは、そもそも浮気がルール違反であることを棚に上げてるからです。それに、女も悪いと責めたところで、渡部さんの罪が半減するわけじゃないのにね。女が密告しようがしまいが、渡部さんが奥さんを裏切ったという事実には、なんの変わりもありません。誹謗中傷するのもやりすぎだけど、無理な理屈で擁護する連中も人間性がひしゃげてますね。
明治時代の新聞『萬朝報』が、著名人の妾がどこに何人いると暴露する連載記事を載せてから現在まで、マスメディアは数限りない浮気・不倫を報道してきました。それでも、浮気・不倫報道を禁止しよう、なんて、これまでだれもいわなかったじゃないですか。やはりみんな本心では、たれ込み・暴露記事を期待してるんです。
だから有名人なら、浮気すれば相手にたれ込まれる可能性があることは、全員が100パーセント覚悟してなきゃおかしいんです。過去の伝統・先人の失敗に学べば、バレる可能性が非常に高いし、失うものもデカいことが明白なのに、自分だけは大丈夫と思いこんでやってしまう人間の業。そのおもしろさに惹かれるのは、100年前のひとも現代人も同じです。
[ 2020/06/22 19:56 ]
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