fc2ブログ

反社会学講座ブログ

パオロ・マッツァリーノ公式ブログ
反社会学講座ブログ TOP > 2020年09月

期待どおりだった『半沢直樹』とその他ドラマ評

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。やはり『半沢直樹』は期待を裏切らなかった。前シーズンと同様に、原作2冊分を贅沢に使い濃縮したのが勝因だったことは間違いなし。前半のITベンチャーと証券会社の話がけっこう好きで、キャラに馴染みができたところであっさり前半が終了してしまい残念だなあと思ってたら、後半にもキープレーヤーとして登場してくれました。前半が後半の伏線になっているあたりもニクい作りですよねえ。
 すさまじい熱量で押し切ってしまったのは大正解。でも、あえてうがった見かたをするのなら、半沢がピンチになるたびに歌舞伎アベンジャーズの誰かが助けに来る展開ばかりなので、最後のほうになると、どうせまた誰かが助けてくれるんだろ、って思っちゃったところも、なきにしもあらず。
 一番の皮肉は、『半沢直樹』を痛快だと喜んでる視聴者の多くが、現実の世界では政治家の疑惑を突き上げようともせず、擁護・黙認してることですね。

 序盤で絶賛した『MIU404』も最後まで愉しめました。以前にもいいましたけど、犯罪ドラマには社会問題と向き合う姿勢が不可欠です。それがないと薄っぺらな犯罪ファンタジーになってしまいます。
 最終回で、これが2019年を舞台にしていたのだとあきらかになったときには、そう来たか! ってうなりました。というのは、緊急事態宣言のさなかにNHKで放送された、テレビの未来を考える番組に脚本家の野木さんがリモートで出演してて、コロナ禍をドラマはどう扱うべきか、迷いを口にしてたからです。フィクションだからまったく無視することもできるけど、それでいいんだろうか、と。
 なので私はその点にも注目して『MIU404』を見はじめまして、そうか結局、無視することにしたんだな、とずっと思ってたんです。だから最終回の種明かしで、そう来たか! 逃げずに設定に落とし込んだところに、野木さんの脚本家としての誠実さを感じました。
 ただ残念だったのは、ときどき話の流れが微妙に跳んで、「ん?」ってなったこと。これ、長年映画やドラマを観てきた者にはわかる、シーンがカットされてるときの違和感なんです。放送時間の関係で、脚本にはあったはずのシーンがちょいちょいカットされてたのでしょう。
 この点では、ネットフリックスみたいな時間制約のないメディアの自由度がうらやましい。たとえば『全裸監督』は各話の長さがまちまちで、10分以上も違います。テレビドラマではありえないでしょ。

 一方、コロナ禍を完全無視する選択をしたのが『親バカ青春白書』。全国の大学が閉鎖されてるときに、楽しいキャンパスライフを描くのは、暴挙なのか希望なのか。いずれにせよ、不運だったことだけはたしかです。
 私は福田雄一さんの作品は『アオイホノオ』だけが傑作で、それ以外はすべて駄作だと思ってます。映画もドラマも序盤だけ見て、またいつものスベリ芸か……とわかったところでやめてしまいます。
 しかし意外なことに、『親バカ』はなんとなく観てられたんです。どうやらスベリ芸の部分はカットしてネット限定公開にしたようで、放送分はわりと普通のドラマになってました。その結果、逆にいい話になりすぎて笑えないというジレンマ。
 正直、おもしろいとはいえなかったけど、日曜の夜はたいてい家でヒマしてるんで、なぜか毎週観ちゃうんです。
 永野芽郁さんの母親役が新垣結衣さん(若くして亡くなった設定で回想シーンのみの出演)だったのですが、ときどき永野さんが、ガッキーがよくやるのと同じ表情の作りかたをしてたんです。あれ偶然? それとも狙ってやった演出?

 序盤が良かった『私の家政夫ナギサさん』は、並みのレベルにおさまってしまいましたけど、結末はあれでよかったんですかね? 若い子とおじさんの夫婦って、アリなの? ナギサさんと同年代のおじさんである私としては、複雑です。現実には、絶対キモいといわれそうな気がするんだけど。

 最後に新ドラマですが、先日NHKBSではじまった『一億円のさようなら』は先の展開がまったく読めないので、期待大。
 平凡なサラリーマンの夫が、じつは妻が若いころに巨額の遺産を相続していながらずっと隠していた事実を知ってしまいます。で、1話のラストで妻は夫に1億円の現金を残して家を出てしまうのですが、夫婦はこのあとどうするのか、どうなるのか。ふたりが出会った頃の回想シーンはどうリンクしてくるのか。わくわくしますねえ。
[ 2020/09/28 20:44 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)

レジ袋有料化の本当の理由

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。私はこれまで一貫して、「それは根拠のある事実なのか」を追求してきました。その姿勢は『反社会学講座』以来ずっと変わってません。社会現象や文化と呼ばれるものが事実であるかどうかは、統計と歴史でしか確認できません。だから私はしつこく統計や歴史にこだわるのです。
 信じる信じない、などという愚か者のたわごとは、どうでもいい。重要なのは事実かどうか、それだけです。フェイクを信じてもそれが事実に変わることはないし、事実を信じなければ事実でなくなるわけでもない。
 フェイクを信じるのは個人の勝手ですが、フェイクで他人を批判・攻撃する行為は許されません。
 『反社会学講座』で最初に取りあげたのは少年犯罪のウソでした。「少年犯罪は増えている」というフェイクで少年法の罰則強化や道徳教育の強制に世論を誘導しようとする連中を許せなかったんです。
 私が最近レジ袋のことを話題にしてるのも、まったく同じ理屈です。レジ袋をタダでもらいたいというケチな欲望を正当化するために、フェイクを並べて他人を攻撃してる連中に腹が立つのです。

 レジ袋について改めて文献調査もしてみると、興味深い事実がたくさんわかってきました。
 レジ袋を辞退した客へポイント還元や現金値引きするサービスは10年くらい前にはじまったと思ってたのは私のカン違いで、早いところでは1990年ごろからやっていたようです。
 それはスーパーがエコに目覚めたから? そうではありません。理由はもっと現実的。レジ袋の値段が上がったからです。

 アラフィフ世代なら、レジ袋が普及する前に紙袋が使われていたことをギリギリおぼえているでしょう。アラフォー世代が物心ついたときには、ほぼレジ袋に切り替わっていたかもしれません。
 1970年代末から、紙袋が一斉にレジ袋に取って代わられます。以前は破けやすかったレジ袋の品質が向上したのと、大量生産で紙袋よりも安くなったのが理由でした。
 いまレジ袋のメーカーが、死活問題だ、とレジ袋有料化に反対してますが、70年代末には、同じことを紙袋業界が訴えてた事実は忘れられてます。年間200億枚ともいわれた市場を、根こそぎレジ袋業界に持っていかれたんです。紙袋業界には死活問題でした。
 紙袋業界は「紙は公害が出ない」「地球をキレイにする」などと、エコを強調してレジ袋への反撃を開始したことが、78年10月28日付の朝日新聞で報じられてます。ダイエーはポリエチレン袋と紙袋を両方用意して客に選択をまかせることにしましたが、結果はみなさんご存じのとおり。
 因果がめぐるとは、このことでしょうか。40年前に紙袋業界を窮地に追い込んだレジ袋業界が、今度は窮地に追い込まれているのです。

 そのレジ袋が、原材料の価格高騰を理由に、1988年ごろから値上がりしたのです。これで、レジ袋は石油の余り物で作るってのがウソだとわかりますね。余ってる原材料が高騰するはずがありません。
 安いから、それまで無料で客に提供できたのに、値段が上がれば、確実にスーパーの収益に響きます。とりわけ、安さで他店と競合してる店にとっては、消費税導入とのダブルパンチは深刻でした。そこで、経費削減のためにはじめたのが、レジ袋辞退者へのポイントサービスや有料化だったのです。
 1989年に、いち早くレジ袋有料化を断行したのがスーパーチェーンのオーケーでした。92年2月号の『暮しの手帖』によると、有料化によってレジ袋使用枚数を7割近く削減できたとのこと。それで客離れが起きることもなく、大多数の客が袋を持参していました。レジ袋が有料になっても品物が安く買えるほうがいいと考える客を取り込むのに成功したようです。

 レジ袋有料化に反対するひとたちは、レジ袋削減はエコじゃない、と批判しますが、エコかエコじゃないかはどうでもよかったんです。レジ袋の価格が上がったことが有料化のきっかけだったので、レジ袋の価格が大幅に下がらないかぎり、レジ袋が無料に戻る可能性は、ほぼないでしょう。
[ 2020/09/06 20:25 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)
プロフィール

Author:パオロ・マッツァリーノ
イタリア生まれの日本文化史研究家、戯作者。公式プロフィールにはイタリアン大学日本文化研究科卒とあるが、大学自体の存在が未確認。父は九州男児で国際スパイ(もしくは某ハンバーガーチェーンの店舗清掃員)、母はナポリの花売り娘、弟はフィレンツェ在住の家具職人のはずだが、本人はイタリア語で話しかけられるとなぜか聞こえないふりをするらしい。ジャズと立ち食いそばが好き。

パオロの著作
つっこみ力

読むワイドショー

思考の憑きもの

サラリーマン生態100年史

偽善のトリセツ

歴史の「普通」ってなんですか?

世間を渡る読書術

会社苦いかしょっぱいか

みんなの道徳解体新書

日本人のための怒りかた講座

エラい人にはウソがある

昔はよかった病

日本文化史

偽善のすすめ

13歳からの反社会学(文庫)

ザ・世のなか力

怒る!日本文化論

日本列島プチ改造論(文庫)

パオロ・マッツァリーノの日本史漫談

コドモダマシ(文庫)

13歳からの反社会学

続・反社会学講座(文庫)

日本列島プチ改造論

コドモダマシ

反社会学講座(文庫)

つっこみ力

反社会学の不埒な研究報告