FC2ブログ

反社会学講座ブログ

パオロ・マッツァリーノ公式ブログ
反社会学講座ブログ TOP > 2021年02月
-別アーカイブ  [ 2021-02- ] 

渋沢栄一って、じつはこんな人

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。いよいよ渋沢栄一の大河ドラマがはじまるそうで。ま、私は観ませんけども。
 大河、苦手なんですよ。『麒麟』も最終回だけチェックしたんですけど、やっぱりあのゆったりしたテンポと間が体質に合わなくて。私が最後まで観た大河は三谷さんの2本だけ。クドカンさんのは、ピエールさんが消えるあたりでリタイアしました。べつにピエールさんとは関係なく、私が話に飽きてしまったタイミングがたまたま一緒だっただけです。

 それはさておき、私は2015年刊の『エラい人にはウソがある』で、こんなことを書いてます。

 [日本経済の礎を作った渋沢栄一は]お札の肖像としてこれ以上相応しい人はいないって感じもするのですが、なんでならないんでしょうね?

 そしたらその後なんと、本当にお札の肖像になることが決定しまして、財務省のかたが私の本を読んで検討してくれたのではないかと、勝手に思うことにしてますけども。
 『エラい人にはウソがある』は書名からは想像しにくいのですが、歴史社会学的に孔子と『論語』を検証することで、日本でいかに誤解されているかを解き明かした本です。
 そのなかで渋沢栄一についても1章を割いてます。文献もだいぶ読み漁りましたし、私は渋沢についてけっこう詳しいです。渋沢にも世間に広まった虚像と実像がありますので、大河スタート記念として、そのあたりの話をしておきます。

 まず、踏まえておいてほしいのは、渋沢が『論語』の精神でビジネスをしていたというのは、後付けの解釈にすぎないということ。
 渋沢は若いころから有名人だったので、スピーチや演説の内容が活字となってかなり残ってます。でもそれに目を通しても、孔子や『論語』の話はほとんどしてないんです。してるときも、うろ覚えの浅い話ばかりで、『論語』を読み込んでる感はまるでありません。渋沢が『論語』の話をするようになったのは、ビジネスの一線を退いたあとの晩年だけなんです。

 そもそも明治末期の『論語』リバイバルブームの仕掛け人は渋沢ではなく、第一生命創業者の矢野恒太でした。
 維新以来、『論語』なんてだれも読まなくなり、古本屋でもホコリをかぶってたのです。矢野は日露戦争後に突然ドハマリしました。つねに持ち歩いて読みたいけどデカい本しかないので面倒だ。そこで思いついたのが小型の『ポケット論語』。ないなら自分で作ってしまえ。話を持ち込まれた出版社が、そんな時代遅れの本は売れないから500部くらい刷りますかと進言したら、いや、5000部だ、と強気の矢野。
 で、売り出してみたら、昔を懐かしむ老人たちに刺さりまくって爆発的な大ヒット。金持ち老人がまとめ買いして部下や後輩に配ったりするもんで、40万部のベストセラーになりました。
 渋沢が『論語』の話をやたらとするようになったのは、そのブームのあとのことなんです。すでにそのとき渋沢は第一線から退いていたわけで、ビジネスに『論語』の精神が必要だなんて主張は、すべて後付けの理屈だったことがわかります。
 『論語講義』は渋沢の著書ということになってますが、本当の著者は二松学舎の尾立維孝であることが近年の研究であきらかにされてます。渋沢は執筆・編集をほぼ尾立におまかせだったので、実際にどこまで『論語』を理解してたのかは疑問です。
 それでも渋沢があんまり話すものだから、いつのまにか世間の人たちも矢野の功績を忘れ、『論語』といったら渋沢、みたいになってしまったんです。

 明治以降の財閥などが強引な手法で金儲けをすることも多かったなかで、渋沢のビジネスは比較的クリーンだったといってよいと思います。それは渋沢がもともといい人だったからです。若いころから、孤児院の運営から近所の火事見舞いまで非常に熱心で、それは売名や打算でできるレベルではありません。困った人を助けずにいられない性分だったのでしょう。
 それは『論語』とはなんの関係もありません。孔子は、貧しい人やこどもを助けよ、なんてひとこともいってませんから。もちろんビジネスとはまるで無縁の人でした。だからビジネスと孔子を結びつけるのは強引すぎます。
 どちらかというと、後の時代の孟子のほうが、孔子を勝手に利用した自己啓発ビジネスで大儲けした成功者といえます。孔子は生涯、世間から認められなかった不運な負け犬なんです。大臣になったという話は後の時代の創作です。
 誤解のないようにいっときますけど、私は孔子をスゴい人だと評価しています。戦乱のよのなかで、戦争を否定したんですから。『論語』のなかで孔子は戦争と死刑を否定してます。国家の予算がなければ、まず軍事費を減らせといってるくらいです。
 みんなが礼節を守って生きれば世のなか平和になるよ、って、それ平和な時代になら誰でもいえますよ。戦乱の最中にそれを主張したのが凄い。そのせいでヘタレな平和主義者だとバカにされたまま一生を終えたのですが。
 そんな孔子を死後にまつりあげて大成功したのが孟子です。いけすかないヤツですね。もしも古代中国にネットがあったら、サロンで荒稼ぎしてますね。

 さて、話を渋沢に戻します。渋沢は妾を何十人も囲ってたことでも有名です。奥さんがいるのに、自宅に妾を同居させてた時期もあるんですから、現代人の倫理観ではありえません。
 ただ、確証はないんだけど、妾を大勢持っていたのも社会貢献の一環だったような気がします。何十人もの妾をとっかえひっかえするほどの性豪とは思えないんで、おそらくホントの妾は数人で、あとはこどものいる未亡人とかを、妾という名目で援助してたんじゃないかと。渋沢の妾だってことにしておけば、近所の連中も邪険には扱えないでしょうから。

 もっと詳しく知りたいかたは、『エラい人にはウソがある』をぜひ読んでみてください。
 大河ドラマが渋沢の実像をどこまで描くのか、興味のあるところです。あ、私は観ませんけどね。
[ 2021/02/13 21:34 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)
プロフィール

Author:パオロ・マッツァリーノ
イタリア生まれの日本文化史研究家、戯作者。公式プロフィールにはイタリアン大学日本文化研究科卒とあるが、大学自体の存在が未確認。父は九州男児で国際スパイ(もしくは某ハンバーガーチェーンの店舗清掃員)、母はナポリの花売り娘、弟はフィレンツェ在住の家具職人のはずだが、本人はイタリア語で話しかけられるとなぜか聞こえないふりをするらしい。ジャズと立ち食いそばが好き。

パオロの著作
サラリーマン生態100年史

偽善のトリセツ

歴史の「普通」ってなんですか?

世間を渡る読書術

会社苦いかしょっぱいか

みんなの道徳解体新書

日本人のための怒りかた講座

エラい人にはウソがある

昔はよかった病

日本文化史

偽善のすすめ

13歳からの反社会学(文庫)

ザ・世のなか力

怒る!日本文化論

日本列島プチ改造論(文庫)

パオロ・マッツァリーノの日本史漫談

コドモダマシ(文庫)

13歳からの反社会学

続・反社会学講座(文庫)

日本列島プチ改造論

コドモダマシ

反社会学講座(文庫)

つっこみ力

反社会学の不埒な研究報告