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携帯料金よりネット料金を下げるべきでは

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。日本の携帯電話料金が世界的にも安くなったと政府が自慢げに発表したことを、先日ニュースが伝えてました。
 でも、いま日本に必要なのは携帯料金の値下げではなく、常時接続のインターネット料金の値下げのほうじゃないのですか。
 コロナ禍だから仕事も学校の授業もリモートでやれといわれても、家に容量無制限のネット環境がなければムリですよ。容量制限があると、「今月ギガがなくなったんで、もう授業受けられません」なんてことになっちゃいませんか。
 いま常時接続のネットを家にひくと、月4000~5000円かかります。この値段って、10年以上前からほとんど変わってない気がします。
 安い契約は、必ずといっていいほどヒモ付きです。他のサービスへの加入義務とセットになってたり、安いのは最初の数か月だけであとは高くなる2年契約しばりとか、そんなのばっかり。携帯料金では契約期間しばりが公正な競争を妨げると問題視されてきたのに、なぜネット料金では問題にならないのか。
 貧乏世帯にとって、月5000円は高すぎます。自宅でネットを自由に使えないと教育や仕事で確実に不利になる社会になってしまったのだから、すべてのひとが無料もしくは低料金でネットにアクセスできるようにする公的な支援が必要です。
 たとえば世帯年収に応じてネット料金を補助する制度みたいのを作るとか、国が早急に手を打たないと、格差が広がってしまいかねません。

 そんなことを考えたのは、『ニューヨーク公共図書館エクスリブリス』というドキュメンタリー映画を観たからです。私はWOWOWで観ましたが、DVDや他の動画配信もあると思います。
 ニューヨーク公共図書館は公共と名乗るものの民間、NPOが運営する図書館で、財源はニューヨーク市と民間からの寄付でまかなわれてます。
 なので寄付を集めるために、本を貸し出すだけでなく、さまざまな文化事業の発信拠点としての実績をアピールする必要があります。映画では、文化人の講演会やらセミナー、音楽の演奏会、地域の子どもたち向けの教育プログラムなど多彩な活動が紹介されてます。
 そのなかのひとつが、Wi-Fi端末の貸出です。20GBまで使えるものを、映画から判断するかぎりでは、無料で貸し出してるようです。どうやらこの図書館では本などの貸出もすべて無料ですが、延滞すると延滞料を取られるようです。Wi-Fi端末の貸出カウンターでは職員が、延滞料を精算してないひとには貸し出しできません、と説明してました。
 Wi-Fi端末の貸出も、地域文化への貢献方法のひとつですが、数が限られるでしょうから、図書館だけの対応ではネットを利用したい低所得者すべての希望に応えられません。やはり今後は、アメリカでも日本でも公的な支援が不可欠になるはずです。

 映画で紹介されていたその他の活動も興味深いものばかりでした。
 宗教嫌いで有名な科学者のドーキンスさんは、アメリカ人の2割は無宗教なのに、無宗教層の権利が守られていないと講演で訴えます。黒人文化セミナーの講師は、テキサス州が採用した歴史教科書では黒人が奴隷として強制的に連れてこられた事実が無視され、自分の意志で来た移民労働者のように説明されていると怒ってます。どこの国にも歴史教科書問題ってあるんですね。
 就職フェアなんてのまでやってます。現役の消防士などが壇上で自分たちの仕事の魅力をプレゼンしたあと、リクルート活動をするというもの。
 映画では、そうした活動と並行して、図書館運営スタッフが裏で会議を重ねる様子も映し出されます。
 そこでもデジタル化への対応が重要な議題となってます。この図書館ではすでに電子書籍の貸出をはじめているのですが、電子書籍の貸出予約が飛躍的に増加してるので、紙の本と電子本の購入割合をどうすべきか。
 利用者のリクエストに応えれば貸出が増えて図書館の利用実績を伸ばして寄付を集めやすくなるが、調査研究に必要な書籍を揃えるのも図書館の大切や役割だから、と悩みは尽きません。
[ 2021/05/28 10:03 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)

オリンピックを廃止してもいいんじゃないの?

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。オリンピック開催の是非をめぐる意見がわかれてますけども、オリンピックやスポーツが好きか嫌いかによって、意見がかなりわかれるのは当然のことです。
 スポーツ嫌いなヤツが勝手なことぬかすな、って意見は、普通のプロスポーツに関してなら通りますが、オリンピックの場合は莫大な国家予算を費やすのだから、日本で生活し税金を納めてる者全員に賛否を述べる権利があります。スポーツやオリンピックに興味のない者の意見を無視してはいけません。
 そんなわけで、スポーツにもオリンピックにもまったく興味のない私から、今回だけでなく、もうオリンピックそのものをやめる時期に来てるのではないかという大胆な提言をします。

 ちなみにですが、私はここ2年ほど、スポーツをまったく観てません。以前は少し観てました。アメフトのNFLとツールドフランスのテレビ中継です。
 ツールドフランスはチーム間の駆け引きのおもしろさはもちろんのこと、ヨーロッパの美しい風景も楽しみだったのですが、数年前に有料スポーツチャンネルが権利を独占して、NHKBSでの放送がなくなってから観てません。
 NFLは20年以上前から観てたのですが、ここ数年は退屈に思えてきて、ついに昨シーズンはスーパーボウルも観ませんでした。
 プロ野球選手で知ってるのは自分と同年代の桑田・清原くらいまでで、それ以降のひとはほとんど知りません。
 オリンピックとサッカーワールドカップのテレビ中継は一度も観たことがありません。
 ついに私の人生におけるスポーツ観戦の時間がゼロになりましたけど、何の苦痛もありません。自分にとってスポーツは、あってもなくてもどうでもいいものなのだと確認できました。

 ということで、オリンピック廃止論に戻りますが、いまや、世界陸上、世界水泳、世界卓球、サッカーワールドカップなど、それぞれの競技で世界大会をしょっちゅうやってますよね。だったらオリンピックまでやる必要あるの?
 それに、そもそもすべての競技を同時に同じ地域でやるのは不合理極まりない。それぞれの競技ごとに、選手がベストのパフォーマンスを発揮できる季節や地域があるはずなんだから、アスリートファーストを考えたら、バラバラにやるべきです。
 オリンピックを真夏にやるのは、観客が夏休みで来やすいという都合を考慮した、観客ファーストの考えかたです。だから真夏の日本でマラソンをやるなんて、殺人的苦行みたいなことにもなるわけだし。
 オリンピックは規模がデカくなりすぎたから、経済大国でしか開催できなくなってしまったし、大国ですら、カネと手間がかかりすぎるから立候補をしたがらないじゃないですか。競技別の世界大会なら、大規模な会場を何個も同時におさえたり建設したりする必要がなくなるから、小さな国でも開催できます。なんなら、ある競技に特化した競技場を整備して、毎回わが国でやりませんかと誘致したりとか、規模を小さくすることで、新たな可能性がいろいろと開けてくるんじゃないですか。

 国際協調、世界平和のためなんて理念はとっくのむかしに、絵に描いたもちになっちゃってます。早くも1950年代には、オリンピックが政治に振り回される状況が批判されてました。2016年に当ブログに書きましたけど(スポーツと国歌)、60、70年代には、オリンピックを政治と切り離すために、国旗・国歌の使用をやめようという議論をIOCが大真面目にやってました。しかし当時は、独立したばかりのアフリカ諸国が世界に存在を誇示したいからと、国旗・国歌の使用を強く主張したのです。
 でもさすがにもう、オリンピックで国の威信を示すなんて時代ではないでしょ。
 スポーツは、好きなひとが好きな種目をやって、好きなひとが観て楽しむ。そういうあたりまえの姿になってほしい。スポーツに興味のない者までむりやり引きこまないでくださいよ。
[ 2021/05/18 19:59 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)

関東大震災直後の東京を撮影した男

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。しばらく前にBSで放送された、戦前の記録映像を紹介する番組のなかで、関東大震災直後の東京の映像がありまして、隅田川に累々と死体が浮かぶ様子など、かなり凄惨な実態までも生々しく記録されていることにゾッとしました。これを撮影したのは白井茂というカメラマンで、当時のいきさつを本に書き残しているとのことだったので、読んでみました。
 『カメラと人生』という回顧録です。震災時のエピソードは短めですが、かなり具体的に記述されていて非常に興味深い記録となってます。この本、たぶん少部数しか刷ってないんじゃないでしょうか。公立図書館でもなかなか置いてないようなので、内容を要約しておきます。

 その日、白井はある劇団から撮影を依頼され、埼玉県の熊谷にいました。撮影前の昼食時に激しい揺れに見舞われました。東京からけっこう距離がある熊谷でも、ただごとではないとわかるほどの揺れだったみたいです。
 撮影が中止になったので熊谷駅に行くと、大宮方面から逃げてきたひとたちが口々に、大宮では堤防が切れて大水に襲われているとウワサしています。これを撮らねば、とカメラマン魂に火がついた白井は、人々の流れに逆行し、東京に近い大宮へと向かいます。
 しかし大宮に着いてみると、堤防が切れたというのはデマだったことがわかります。
 白井も流言飛語の伝わる早さに呆れてますけども、SNSなんかがなくても口コミだけであっという間に広まるのだから、ホントにデマは恐ろしい。
 大宮駅では、この先東京方面の汽車は不通であると告げられてしまいます。大宮の駅長が東京のほうをごらんなさいと指をさします。あの一面の入道雲みたいなのは、どうやら火災の煙ですよ。
 白井はタクシーで東京に隣接する川口までなんとかたどりつきます。その後、通りすがりのひとにカネを払って重い撮影機材を運ぶのを手伝ってもらったりして、徒歩で東京に到着、翌日から被災地東京の状況を映像に記録する作業に取りかかりました。
 死体の山の近くに立っていた警官に、後世のためにこの惨状を記録に残したいのです、と撮影許可を求めると、警官はよろしいと答えますが、そばの死体の山を見て、いうのです。この死体だけは撮らないでほしい、私の家族だから、と。

 川に浮かぶ死体や、川岸に積み重なった多くの焼死体などからも目をそらさず、心を鬼にして撮り続けていると、棒を持った十数人の男たちが、朝鮮人だ、殺してしまえ、と叫びながら白井のほうへ近づいてきます。

 いちおう説明しておきますが、白井は日本人です。関東大震災の直後、朝鮮人が暴動を起こしたり破壊工作をしているというデマが広まりました。実際にはそんな事例はなかったのに、デマを信じた連中が徒党を組んでうろつきまわり、だれかれ見境なくリンチを加える狂気の沙汰が東京中で頻発していたのです。

 するとそこへ先ほどの警官がやってきて、みんなの空気がどうも面白くない様子だから、ここは引き上げたほうがいい、と忠告します。
 白井はその場を立ち去るのですが、殺気だった男たちは、しつこくあとをついてくるではありませんか。いよいよ追いつかれる、と覚悟したとき、白井は数名の兵隊に取り囲まれて銃剣を突きつけられました。
 事情を説明すると兵隊たちは、通りかかった警察のトラックを停めて交渉してくれました。おかげで、白井はそれに乗って窮地を逃れることができたのです。
 しかし、ほっとしたのもつかのま、着いた警察署でなにかの容疑者と間違われたり、撮影フィルムを没収されそうになるなど災難が続きますが、結果的に撮影した映像はずいぶん売れて儲かったと、正直にふり返る白井なのでした。
[ 2021/05/03 20:19 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)
プロフィール

Author:パオロ・マッツァリーノ
イタリア生まれの日本文化史研究家、戯作者。公式プロフィールにはイタリアン大学日本文化研究科卒とあるが、大学自体の存在が未確認。父は九州男児で国際スパイ(もしくは某ハンバーガーチェーンの店舗清掃員)、母はナポリの花売り娘、弟はフィレンツェ在住の家具職人のはずだが、本人はイタリア語で話しかけられるとなぜか聞こえないふりをするらしい。ジャズと立ち食いそばが好き。

パオロの著作
つっこみ力

読むワイドショー

思考の憑きもの

サラリーマン生態100年史

偽善のトリセツ

歴史の「普通」ってなんですか?

世間を渡る読書術

会社苦いかしょっぱいか

みんなの道徳解体新書

日本人のための怒りかた講座

エラい人にはウソがある

昔はよかった病

日本文化史

偽善のすすめ

13歳からの反社会学(文庫)

ザ・世のなか力

怒る!日本文化論

日本列島プチ改造論(文庫)

パオロ・マッツァリーノの日本史漫談

コドモダマシ(文庫)

13歳からの反社会学

続・反社会学講座(文庫)

日本列島プチ改造論

コドモダマシ

反社会学講座(文庫)

つっこみ力

反社会学の不埒な研究報告