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あらためて、ベーシックインカムをおすすめします(メンタリストにも)

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。社会が豊かになると、なぜか排除の空気が強まるのだよなあ。と嘆息してしまった、例のメンタリスト炎上発言問題。
 まあ、あの人にかぎらず、自分の払った税金が生活保護やホームレス支援に使われるのは不公平だと吐き捨てる人は少なからずいます。
 だから、ベーシックインカムをやろうよ、と前からいってるんですよ。ベーシックインカムならみんなが払ってみんながもらえる、これほど公平で合理的なシステムはありません。
 なのに、生活保護制度になんだかんだと難癖つける人たちは、なぜか合理的なベーシックインカムにも反対するんですよ。でもその反対理由というのは、
「竹中平蔵がベーシックインカムを支持してるから」
「維新がベーシックインカムを支持してるから」
 みたいなのばっかりなんです。それはベーシックインカムでなく竹中さんや維新が嫌いなだけでしょ。
 私だってベーシックインカム以外の維新の政策は支持できないけど、ベーシックインカムに関しては、右とか左とかの立場に関係なく支持者がいるんです。そこは超党派で協力できるはずです。日本の国民皆保険制度だって、左翼的な発想なのに自民党主導で成立したんですから。

 ベーシックインカムは貧困を予防できる可能性があるんです。貧困は、誰もがかかるかもしれない病、災害の一種です。自己責任だけで片付けられるものではありません。
 病気と災害は被害を受けてから治すこともできますが、予防できるなら、するにこしたことはないじゃないですか。病気だってこじらせてから苦しんで治療するより、予防したほうがラクでしょうし、長い目で見れば治療より予防のほうが安あがりです。

 メンタリストはたしか、ホームレスに同情するヤツはお前が救ってやれよ、みたいな暴言も吐いてましたね。
 救えますよ、ベーシックインカムをやれば。仮に毎月5万円を無条件で一生支給するとなるだけでも、少なくとも野宿はしなくて済むんじゃないですか。部屋を借りるなり、宿泊施設を利用するなりして働くことができます。

 貧乏人を支援するとやる気を失うって考えは間違いです。実際は逆で、支援されたほうがやる気が出るんです。
 先日NHKBSで放送された海外ドキュメンタリー『ウガンダ ベーシックインカム社会実験』も、そのことを証明してました。
 アフリカ・ウガンダのある村で、村人全員に2年間毎月お金を支給する社会実験が行われました(こどもは半額で、親に支給される)
 やっぱりこういうとき、女性のほうが強いですね。男たちは最初、そんなカネ、酒飲んでおしまいさ、なんて冷笑してますが、女性たちは家の修繕や増築に着手したり、牛や鶏を飼ったりと、すぐに具体的な行動を始めるんです。
 村人のなかには、返済義務のないカネなんて怪しい、オレは受け取らない、これはイルミナティの陰謀だ、カネをもらったら5年後に村人は死ぬ、なんていってるヤツがいました。ビックリです。陰謀論ってこんなところにまで浸透してるのか! 『週刊文春』によるとタマホームの社長も、コロナワクチンうつと5年後に死ぬと社員にいってたそうですが、「5年後に死ぬ」ってのが世界共通の陰謀論テンプレートなのかな。
 もらったカネで新たに畑を作ったりして成功する村人が続々出てくると、最初は乗り気でなかった人たちも次第にやる気を起こすようになります。
 印象的だったのは、学校の授業料をきちんと払えるようになったから、村のこどもたちはみんな制服を着て嬉しそうに学校に通ってるんだ、と誇らしげに熱弁する村人の姿。
 2年後に実験が終了するころには、村人たちの意識は変わり、自立できる人が増えていたのです。

 このケースだけでなく、世界中で行われた実験でも、ベーシックインカムを支給されて怠け者になる者はほとんどいなかったことが報告されてます。むしろベーシックインカムによって労働意欲が高まるプラス面の影響のほうが大きいのです。
 ベーシックインカムの実験の多くは成功しています。なのに反対派の人たちはそれを無視し、数少ない失敗例ばかりを強調します。なかには成功例の報告書を失敗したかのように改ざんした例もあることを、ブレグマンさんが『隷属なき道』で暴露しています。
 なんで、そこまでして、みんなが豊かになれる可能性をジャマしたがるんですかね。どうせうまくいかないさ、とシニカルに嗤う自分をカッコいいとカン違いしてるのかな。

 社会が豊かになるほど排除の空気が強まると最初にいいましたけど、生活保護が執拗に叩かれるようになったのも、日本社会が豊かになった1980年代からでした。最初は、ベンツ乗ってるヤクザが不正受給してるというような社会正義に則った批判だったのですが、じょじょに正義が暴走し、生活保護受給者はもれなく怠け者って偏見による批判が増えていきました。

 生活保護に関しては、マンガの『健康で文化的な最低限度の生活』を強くおすすめしておきます。テレビドラマもなかなか出来がよかったのにあまり評判になりませんでした。その後原作マンガを読んでみて、情報の濃さに感心しました。取材を重ねて、いい面も悪い面もしっかりと描いてるので、良心的で説得力があります。このマンガを読むだけでも、薄っぺらな偏見は払拭できると思います。
[ 2021/08/24 09:59 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)

おすすめ本『〈効果的な利他主義〉宣言! 』

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。何を以て、良書とするか。その基準は人それぞれにいろいろあるでしょう。私がそのひとつとしてあげたいのは、読んだ後しばらくしてから「そういえばあの本にあんなこと書いてあったよな」と思い出すかどうか。それだけ深く本の内容が記憶に刻まれたという証拠ですから。
 そんな一冊が、ウィリアム・マッカスキルさんの『〈効果的な利他主義〉宣言! 』(みすず書房)。だいぶ前に図書館で読んだので手元にはないのですが、ニュースなどを見てるときに、ふと思い出すことがあります。
 本の主張を簡単にまとめると、「寄付をするなら、本当に相手にとって効果があるかどうかを確かめてからやれ」。寄付に限らず、ボランティア活動なんかもそうですが、相手のためになる、助けになると思って善意でやったことでも、それが相手に悪影響を与えることも現実にあるんです。だから、善意の行為は投げっぱなし、やりっぱなしで自己満足してはいけない。結果を客観的に検証するところまでやるべきだと。
 私がこの本に共感できたのは、私の著書『偽善のトリセツ(単行本は『偽善のすすめ』)』の主張と重なるところがあるからです。
 たとえ動機が偽善であったとしても、その行為がだれかの役に立ってるなら、それは有益な行為だと私は主張しました。大事なのは、誰かを救えた、だれかの役に立ったという結果だけであり、偽善かどうかなんて動機はどうでもいい。

 マッカスキルさんは具体的な例で説明します。アフリカの貧しい地域に、こどもが遊んで回すと水を汲み上げられるような仕組みの井戸を作る運動が過去にあったそうです。おもしろいと評価した人たちからかなりの寄付が集まって設置されたのですが、実際にやってみると、こどもはすぐに飽きてしまい、結局オトナがしぶしぶ回すハメになり、普通の井戸より汲み上げるのが大変だとわかりました。善意の寄付が逆効果になってしまいました。
 逆に、因果関係は完全に解明されてないけど、ものすごく役に立っている寄付もあります。貧しい国のこどもたちの教育を支援したい人たちは、本や教科書を寄付しようなどと考えがちですが、やってみると効果はあまりないのだそうです。
 ところが、貧しい国のこどもたちの寄生虫を駆除する医療活動をやったところ、就学率と生活レベルが劇的に向上することが、あきらかになりました。
 つまり、貧しい国の教育レベルを上げるなら、本の寄付よりも寄生虫駆除活動に寄付したほうが何十倍も効果があるんです。
 目的と無関係に見えることであっても、効果があるのがあきらかなら、そちらに積極的に寄付したほうが、多くの人を救えるというのが著者の主張です。そのためにも、やはり寄付が効果をもたらしたかどうかの検証が重要になってきます。

 もうひとつ、この本が印象に残ってる理由があります。「自分ひとりがやったからって社会を変えることなどできやしない」、って考えは間違っていると、マッカスキルさんはいうんです。
 意外でしたね。現実的で合理的な判断を重視する人ほど、ひとりの力では何もできやしないみたいなシニカルな態度をとりがちな気がしますが、そうではなく、あなたが行動を起こすことには意味があるのだと、精神論でなく理詰めで説明してくれます。それを知りたいかたは、ぜひ本書を読んでみてください。
[ 2021/08/19 19:43 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)

3位決定戦不要論をもう少し詳しく説明します

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。わはは。古谷さん、いってくれますね。
「「感動の押し付けはたくさんだ」運動嫌いの私が東京五輪に感じる"排除の空気"」
 スポーツが嫌いなマイノリティのみなさん、スポーツ性善説にうんざりしてるみなさんは、記事を読んで溜飲を下げてみてはいかがでしょうか。

 この際だから私もいわせてもらいましょう。私がなにより不快に思うのは、スポーツ選手やスポーツファンに顕著な現状肯定主義です。彼らはスポーツのシステムやルールがどんなに不条理・不合理であっても、批判しないんです。いまのシステムは偉大な先人や先輩が作ってくださったものだから間違ってない、自分が努力してそれに適応すればいいのだ、システムを批判するのはワガママで無礼な行為である、と考えます。
 なので当然、ルールやシステムの不条理や不合理について深く考えるはずもなく、議論からも逃げます。「いろんな意見があるけれど、私は試合に感動できたからそれでいいで~す」みたいなまったく理屈の通らないことをいって議論を避け、問題そのものがなかったかのように振る舞います。

 あいにく、私はよのなかの不合理や不条理が大嫌いなんでね、見過ごすことはできません。これまでにさまざまな不条理・不合理を批判しました。だけど私は批判するだけでなく、こうしたらどうだろう、と具体的な改良案・改善案もたくさん提示してきました。
 先日ツイッターに書いたのは、3位決定戦の不合理。オリンピックに限らず、3位決定戦ってやる必要ないんじゃないの? 負けたほうは2度負けた上に何も得られない屈辱地獄を味わうのだし、勝ったとて3位の銅メダルじゃそれほど嬉しくなかろう、と。だから準決勝の敗者両方に銅メダルをやれば、それで済む話じゃないかと。
 私としてはとても合理的な提案だと思うのですが、やはりスポーツファンからの反論がありました。自分は1試合でも多く見たい、選手は3位でも嬉しいはずだ、などといってますが、それって全部、観客側の意見でしかありませんよね。

 日本語でネットをざっと検索するだけでも、テニスやサッカーなどの世界的アスリートが3位決定戦不要論を主張してることがわかります。英語で検索すればもっと見つかるはずです。
 彼らがあげる理由はやはり、負ける屈辱と、3位はさほどありがたくないというもの。
 でしょうね。むかしから世界レベルの選手たちは、「優勝以外は意味がない」「1位以外はすべて敗者だ」みたいな発言をしてきたじゃないですか。スポーツ嫌いの私でさえ何度も耳にしてますよ。
 だいぶ前の五輪で銀メダルを獲った水泳の田島さんは「金がいいですぅ」と冗談めかしてホンネをもらしてました。卓球の伊藤美誠さんは以前のインタビューで「優勝以外はみんな負け」と答えてます。トップクラスの選手ほど、内心、3位では満足してないはずです。

 そこで私はもうひとつツイッターで妥協案を提案しました。3位決定戦をやるかどうかを、準決勝で敗退した両選手(チーム)が話しあって決めるというアイデアです。3位決定戦をやらずに、両者とも銅メダルをもらうか、あるいは、3位決定戦をやって勝ったほうだけが銅メダルをもらうか、選手自身が選ぶのはどうですか、と。
 当然これにも疑問の声があがりました。やるやらないで意見が割れたらどうするのか、と。
 割れますかね? もし、あなたなら3位決定戦やりますか? 私なら迷うことなく両方銅メダルのほうを選ぶなあ。この選択肢があれば、たぶんほとんどの選手が両方銅メダルを選ぶんじゃないですか。相手が両方銅メダルでいいといってるのに、いや、オレは3位決定戦をやるんだ、と我を張るヤツって、かなり性格悪いですよ。

 私がこのアイデアを思いついたのは、走り高跳びの決勝でなかなか決着がつかず、両選手が協議の上、2人とも金メダル、同率1位を選択したという事例をニュースで見たからです。
 そういう規定があることにビックリしました。ともに1位で互いの健闘を称えあう。最高のオリンピック精神です。「感動をありがとう!」というなら、これこそが相応しい。
 金メダルでさえ、同率1位を選択できるんです。だったら銅メダルなんてなおさら奪い合う価値はありません。両方とも銅メダルを持ち帰って、よし、次回はもっと上を目指すぞ、でいいじゃない。持ち帰ったメダルは、ヘンなおじさんに囓られないよう気をつけてください。
[ 2021/08/09 20:19 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)
プロフィール

Author:パオロ・マッツァリーノ
イタリア生まれの日本文化史研究家、戯作者。公式プロフィールにはイタリアン大学日本文化研究科卒とあるが、大学自体の存在が未確認。父は九州男児で国際スパイ(もしくは某ハンバーガーチェーンの店舗清掃員)、母はナポリの花売り娘、弟はフィレンツェ在住の家具職人のはずだが、本人はイタリア語で話しかけられるとなぜか聞こえないふりをするらしい。ジャズと立ち食いそばが好き。

パオロの著作
つっこみ力

読むワイドショー

思考の憑きもの

サラリーマン生態100年史

偽善のトリセツ

歴史の「普通」ってなんですか?

世間を渡る読書術

会社苦いかしょっぱいか

みんなの道徳解体新書

日本人のための怒りかた講座

エラい人にはウソがある

昔はよかった病

日本文化史

偽善のすすめ

13歳からの反社会学(文庫)

ザ・世のなか力

怒る!日本文化論

日本列島プチ改造論(文庫)

パオロ・マッツァリーノの日本史漫談

コドモダマシ(文庫)

13歳からの反社会学

続・反社会学講座(文庫)

日本列島プチ改造論

コドモダマシ

反社会学講座(文庫)

つっこみ力

反社会学の不埒な研究報告