こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。近ごろは芸能人がテレビで政治家の悪口をいうとネットでムチャクチャ叩かれるのが恒例になっちゃいました。私は見てなかったけど、先日も選挙特番で太田さんが自民党の政治家に悪口をいって叩かれてたようですね。
では、むかしはどうだったのか。1965(昭和40)年10月、『佐藤総理を囲んで』の収録の模様を覗いてみましょう。これは民放各局の共同製作で隔月ペースで放送されていた、当時の総理・佐藤栄作と各界の著名人が語らう番組です。
この日のゲストは俳優の森繁久彌とラジオパーソナリティの秋山ちえ子。
秋山「近ごろの青少年は政治家になり手がないといいますね」
森繁「それは理由がある。だいたい、政治家になる連中は少し知能指数が低いのじゃないか。選挙になるとたすきを肩からかけてペコペコ『お願いします。お願いします』だ。だから当選すると急にイバリたがるんだな」
秋山「あれはよほど勇気がないとできないでしょうね」
佐藤「私はタスキはかけたことはないが、たしかに政治家なんてのは、キミ、どこか狂ってないとできないと思うね」
森繁「いゃあ、役者もそうかも知れませんな」
秋山「ほんとに、お気の毒です」
(出典:波野拓郎『知られざる放送』)
現役総理の目の前で、政治家は知能指数が低いだなんて、森繁のストレートすぎる悪口にビックリしますけど、佐藤栄作がそれに怒ることなく、政治家なんてのはどこか狂ってるとブラックな悪ノリで返してることにも驚きます。意外と器の大きい人だったんですね。さすがノーベル平和賞、ってまあ、それは受賞理由じゃないでしょうけど。
それに比べて最近の政治家の器の小さいこと。ちょっとでも悪口いわれるとすぐに怒り出すし、返しもつまらない。その支持者たちも、芸能人の政治批判にやたら敏感で、すぐにネットでギャーギャー怒ります。
それにしても、こんな過激な対談がホントに放送されたの? いまの常識だとそう思いますよね。じつはこの部分、収録に立ち会っていた橋本官房長官が現場でテレビ局のスタッフに強く要請したことにより、放送時にカットされました。
総理本人が悪口を何も気にしてないし、絶妙な返しまでして盛り上げてくれたのに、なんで官房長官が独断で放送局に圧力をかけてカットさせるんですか。
放送でカットされた個所がなんで再現できるんだ? と疑り深いかたがさっそくケチをつけてきそうです。
この番組は民放各社の共同製作で、各テレビ・ラジオ局が同じ番組を放送することになってました。なのでテレビ局はみんな自主的にカットしたバージョンを放送したのですが、協定を守らないヤツらがいたんです。ラジオ局の文化放送とラジオ関東だけは、この部分をカットせずそのまま放送したのだとか。総理本人からの要請ではないので、カットする義務はないという判断で。やるねえ。そのおかげで、政治圧力で放送内容がカットされたことがバレましたし、記録が残ってるんです。
[ 2021/11/02 20:43 ]
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