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夏ドラマには驚かされっぱなしでした

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。最近、ドラマなどの展開や犯人を予想する考察がブームみたいですが、あんまりやりすぎると驚きが薄れて、楽しくなくなりますよ。
 私はミステリ小説を読むときや、ドラマ・映画を観るときには、ヘタに裏を読もうなどとせず、作者が用意した誘導の流れにあえて乗るようにしています。そのほうが、意外な真相を知ったときに素直に驚けるので、楽しさが増すんです。考察は、最後まで観終わってからすればいいじゃないですか。

 この夏のテレビドラマには驚かされっぱなしでした。まあなんといっても『VIVANT』ですよね。主人公の正体が明かされるところでは、のけぞりましたもん。あれは脚本家にダマされたというより、堺雅人さんにダマされたっ! て感じで。
 でもよく考えると、初回から真相のヒントはすべて提示されていたわけで、とてもフェアなダマしかたです。
 内藤陳さんのオススメに影響されて、謀略ものとかスパイものみたいないわゆる冒険小説にけっこうハマってた時期がありました。『VIVANT』のおもしろさは、あのころ読んでた、熱い男たちがクサいセリフをかましながら敵味方入り乱れて繰り広げる活劇を描く冒険小説の楽しさそのものなんですよ。

 『最高の教師』は初回で、これはいろいろ仕掛けてくるなと嬉しい予感しかしなかったので、さあ、考察しない私を驚かせてごらん、とノーガードで観てました。でもさすがに、主役級の芦田愛菜さんが途中退場するとは、予想だにしなかったです。
 熱いメッセージを投げかけてくる良心的な学園ドラマをそのまま出して受け入れられたのは昭和まで。いまどきの視聴者はドン引きしちゃうので、2周目の人生で犯人捜しみたいなぶっとんだ設定でくるんで提供しなきゃいけません。
 もしも今後、金八先生の続編が作られるとしたら、若き日の金八先生が現代にタイムトラベルして老いた金八とダブル金八で教育問題に立ち向かうなんて設定になるのかな。

 最初の印象が地味で、正直、期待してなかった『彼女たちの犯罪』ですが尻上がりにおもしろくなりました。女性刑事は小学生の子と二人暮らしで、最初親子だと思ってたら、途中からこどもがお姉ちゃんと呼ぶようになったので、あれ、年の離れた姉弟だったか、と思い直したら――まさかの仕掛けに驚きました。ミステリ小説の叙述トリックを見事に映像化してたのがスゴい。それだけでなく、劇中に散りばめられた数々の違和感をすべて回収し、納得のいく終わりかたをしてた点も高く評価します。

 NHKで放送された『しずかちゃんとパパ』は本来ならベストになってもおかしくない作品なのですが、私は以前BSで放送されたときに評価してるので、今回は除外しました。

 並み居る秀作群を抑えて私が今期のベストに選んだのは、『何曜日に生まれたの』です。
 おじさんである脚本の野島さんがムリして若者言葉を取り入れようとしてるのは、ご愛嬌。野島さんが描く、どこか奇妙な人間関係と世界観に惹かれました。
 脚本の意図なのか演出のせいなのか、会話のセリフの間というかノリというか、これもまた演劇的なようなマンガ的なような、ちょっとズレた感じが個性的。
 この奇妙なおもしろさがなかなか説明しづらいので、テレビ局側も困ったようで、ラブストーリーかミステリーか人間ドラマか社会派か先が読めない、と投げやりな宣伝をしてました。もちろんなかには、なんじゃこりゃ、わけわからんと脱落した人もいたでしょうね。
 高校時代の謎めいた事故をきっかけに、同級生たちからヒドい言葉を投げかけられて傷ついた主人公はずっと引きこもっていたのですが、10年ぶりに同級生たちと再会します。当初、敵意と悪意のベールに覆われていると思われた暗い世界が、誤解が解けていくにつれ、やさしい世界に変わっていくんです。
 彼らの誤解を解く手助けをする、ある意味探偵役でもあるラノベ作家もまた、重大な問題を抱えて生きてきた人で、彼に救われた主人公が、今度は彼を救おうと奮闘するのが後半の話の軸になっていきます。
 ストレスの9割は人間関係だが、人間関係の1割は素敵だというセリフがまさにこのドラマのテーマです。
 これね、お説教や楽観論ではなく、半世紀ほど生きてきた私も日々実感してることです。9割はおおげさかもしれないけど、おそらく野島さんの実感でもあるのだろうなと思います。
 以前私は、ひきこもりの人たちは人間を正しく見すぎているのだと評しました。たしかに他人と関わるとイヤなことばかり起きるような気がします。他人を信じて裏切られることも多いです。人間を正しく見ているほど、純粋であればあるほど、対人関係で悩み臆病になるのは当然といってもいい。悩まない人は、べつに悪い意味ではなく鈍感なんですよ。
 それでもたまにはいいこともあるし、たまにはいい人もいます。だから他人と関わることをあきらめないでほしい。そのことについては、また後日書きたいと思います。
[ 2023/10/12 20:15 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)

テレビ番組評:ストライキのドキュメンタリーと旧統一教会の手口解説

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。去年まではわりと池袋に近いところに10年近く住んでたので、池袋にはちょいちょい行ってました。東京の他の大きな街にはない穴場的な雰囲気が気にいってたんです。でも西武・東武デパートで買い物をしたことはほぼなかったです。
 その池袋西武で先月――いや、もう先々月になりますか、デパートとしては61年ぶりのストライキが行われました。
 西武の池袋店は黒字経営だそうですが、グループ全体ではかなり苦しいようで、経営側がデパートという業態に見切りをつけて売却したのです。買収した会社がデパートの3フロアをヨドバシカメラにする計画に反対する西武の従業員がストに踏み切ったのでした。
 西武グループがこじゃれた広告やCMを流しまくって消費文化を牽引していた絶頂期を知ってる世代の私としては、感慨深いものがあります。

 デパートに限らず、いまや日本ではストライキ自体が非常に珍しいものになりました。70年代には日本全国で年間5000件以上のストがあったのに、2022年には30件くらいしかなかったとのこと。
 私は50代ですけど、たしかにストライキって、こどもの頃にニュースで見た記憶しかないんですよね。日本で社会人になった90年代以降に、なんらかのストライキの影響を受けたおぼえがありません。
 先日もハリウッドでは脚本家や俳優組合がストをやってたように、欧米では空港や学校などがストで閉鎖されることがしばしば起こります。
 何かに抗議する権利を行使するのを当然だと考える欧米人と対照的に、現代の日本人は事なかれ主義と泣き寝入り文化が染みついてしまってるので、ストは世間を騒がせる迷惑行為、もしくは左翼の陰謀みたいな受け止めかたしかできないんです。

 そういう珍しさもあってか、テレビ各局がニュースで西武のストを報じてましたけど、外側から見えるストライキという現象をなぞってるだけなので、なにも伝わってくるものがありませんでした。たぶんみなさんもそうだったのでは。
 そんななか、9月15日にテレビ東京で放送された『ガイアの夜明け』。西武の組合に密着取材して、ストをやるかどうかの話しあいの段階から、投票を経て決行に至るまでの様子を撮影した貴重な記録です。
 ニュースだと外側から見た現象でしかなかったのが、人間中心のドキュメンタリー的な撮りかたをすると、中にいる人たちがどんな思いでストを決行するに至ったのかなど、生身の人間のさまざまな想いが伝わってきます。
 61年ぶりってことは、ストをやる側にも過去にストを経験した人が誰もいないわけですよ。労組の委員長も私とだいたい同い年くらい。西武一筋に勤めてきた人なので当然ストの経験なんかありません。みんなが手探りでストライキの実現まで漕ぎつけていく様子がわかり、いまの時代にストライキをやるとこんな感じになるのかと、とても興味深く観ました。
 こういうのはテレビという大きな組織でないとできない取材です。ユーチューバーが個人でストライキの模様を取材させてくれと申し入れてもムリでしょ。テレビっていう看板があるからできることもあるのだから、テレビはそのアドバンテージを最大限活用して価値のある番組を作っていくべきです。

 9月23日放送のNHK『危険なささやき』は、旧統一教会が新たな信者を勧誘・洗脳していく手口をドラマ仕立てで再現し、それがどんな心理テクニックにもとづいているのかを専門家が解説するという、なかなか攻めた番組でした。
 放送前に旧統一協会側から放送中止を求める抗議があったそうですが、某教団などとボカすことなく、旧統一教会と実名を出して放送を断行したNHKの姿勢をほめたいと思います。
 てか、放送するなという抗議はおかしいよね。だって旧統一教会は、自分たちの勧誘や宗教行為などに問題はないとかねがね主張してきたわけで、もし本当に自分らが正しいと思ってるのなら、むしろ手口を放送してもらえば自分たちの正しさの宣伝になると考えるはずです。放送するなと抗議したってことは、自分たちが悪いことをしてたと認めたも同然です。
 自分たちの正しさを一方的に主張して、批判を許さない旧統一教会の基本姿勢はやっぱり何も変わってないようです。変わりますとかいってたけど、変わるつもりはないのでしょう。もう、一刻も早く旧統一教会に解散命令を出すべきです。

 さて、傑作が目白押しだった夏ドラマですが、スタートが遅かった『何曜日に生まれたの』がまだ放送中なので、完結してから評価します。
[ 2023/10/02 11:53 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)
プロフィール

Author:パオロ・マッツァリーノ
イタリア生まれの日本文化史研究家、戯作者。公式プロフィールにはイタリアン大学日本文化研究科卒とあるが、大学自体の存在が未確認。父は九州男児で国際スパイ(もしくは某ハンバーガーチェーンの店舗清掃員)、母はナポリの花売り娘、弟はフィレンツェ在住の家具職人のはずだが、本人はイタリア語で話しかけられるとなぜか聞こえないふりをするらしい。ジャズと立ち食いそばが好き。

パオロの著作
つっこみ力

読むワイドショー

思考の憑きもの

サラリーマン生態100年史

偽善のトリセツ

歴史の「普通」ってなんですか?

世間を渡る読書術

会社苦いかしょっぱいか

みんなの道徳解体新書

日本人のための怒りかた講座

エラい人にはウソがある

昔はよかった病

日本文化史

偽善のすすめ

13歳からの反社会学(文庫)

ザ・世のなか力

怒る!日本文化論

日本列島プチ改造論(文庫)

パオロ・マッツァリーノの日本史漫談

コドモダマシ(文庫)

13歳からの反社会学

続・反社会学講座(文庫)

日本列島プチ改造論

コドモダマシ

反社会学講座(文庫)

つっこみ力

反社会学の不埒な研究報告