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リスクについてのおすすめ本

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。
 ひさびさにおすすめ本をご紹介。ダン・ガードナーさんの『リスクにあなたは騙される』がハヤカワ文庫になって発売されました。
 5年前に単行本で出てたんですね。もっと早く読むべきでした。文庫の帯に池田信夫氏絶賛! の文字が見えることに若干の不安をおぼえますが、本の中身は素晴らしいので心配ご無用。池田さんは、学んだことをご自分の発言や執筆に活かせない不思議な人なんです。

 私は『新潮45』の連載「むかしはよかったね?」で、日本の社会は現在、歴史上もっとも安全で犯罪が少ない幸福な社会になってるのに、根拠のない不安におびえてる人が多すぎる、と書きました。そのことを過去の事例や報道、統計で示しても、よのなかはどんどん悪くなっている、犯罪は増えているという誤解はなくなりません。
 てっきり、そういうのは日本だけの現象、日本人の神経質な気性によるものなのだろうと思ってたのですが、ガードナーさんによれば、欧米諸国も似たような状況らしいのです。
 以前から欧米では、こどもが不審者に誘拐される事件が頻発しているといわれてますが、こどもの総人口を考慮に入れると、不審者に誘拐される確率は実際にはほとんどゼロに近いんです。こどもがプールで溺れ死ぬ確率よりもずーっと低い。なのに親たちは、すべての茂みに性倒錯者が潜んでいると思いこんでる。
 これ、まさにいまの日本と同じ状況ですね。日本はその欧米よりもさらに、こどもが犯罪に巻き込まれる確率が少ないのに、たまに事件が起きると、テレビが朝から晩まで興味本位で事件を報道しまくり、アホなコメンテーターが的外れな分析をして人々の不安を煽るんです。
 そうやって心配しているわりには、東京なんか、けっこう夜遅くに、電車で学習塾帰りの小学生を見かけます。有名私立中学に合格させようとなると、不審者に襲われるリスクは都合よく忘れられるみたいですね。
 日本では毎年何十人かこどもが殺されてますが、その犯人は9分9厘じつの親です。学校ではこどもたちに、不審者に注意しなさい、と不安を煽りますが、本当は、親に殺されないよう注意しなさいと教えなきゃいけません。

 ガードナーさんは、頭と腹、という表現で、人々が正しくリスクを評価できない仕組みを説明しています。つまり人はさまざまな危険を頭(理性)で考えず、腹(感情)で評価してしまうのだ、と。
 そういえばこないだ、文部科学省が、日本人の2人に1人がかかるガンについて、学校現場でこどもたちにどう教えるべきか検討しているってニュースをやってました。
 ええっ、2人に1人の確率でガンになるの? そんなに多いの? とビックリしますよね。この統計のカラクリも『リスクにあなたは……』が説明しています。
 2人に1人がガンになるというのは、すべての人が90歳くらいまで生きたと仮定した場合の数字なのだそうです。年齢が若ければ若いほど、ガンになる確率はぐっと下がります。逆に、すべての人が100歳まで生きるとしたら、ガンになる確率は100パーセントに近くなってしまうんです。
 ガンになる最大の要因は加齢・老化なんです。80、90歳くらいになれば、食生活や健康にいくら注意してても、ガンになってしまう可能性が高まるのですが、文部科学省はこどもたちにいったい何を教えたいんですかね?
[ 2014/07/30 08:52 ] おすすめ | TB(-) | CM(-)
プロフィール

Author:パオロ・マッツァリーノ
イタリア生まれの日本文化史研究家、戯作者。公式プロフィールにはイタリアン大学日本文化研究科卒とあるが、大学自体の存在が未確認。父は九州男児で国際スパイ(もしくは某ハンバーガーチェーンの店舗清掃員)、母はナポリの花売り娘、弟はフィレンツェ在住の家具職人のはずだが、本人はイタリア語で話しかけられるとなぜか聞こえないふりをするらしい。ジャズと立ち食いそばが好き。

パオロの著作
つっこみ力

読むワイドショー

思考の憑きもの

サラリーマン生態100年史

偽善のトリセツ

歴史の「普通」ってなんですか?

世間を渡る読書術

会社苦いかしょっぱいか

みんなの道徳解体新書

日本人のための怒りかた講座

エラい人にはウソがある

昔はよかった病

日本文化史

偽善のすすめ

13歳からの反社会学(文庫)

ザ・世のなか力

怒る!日本文化論

日本列島プチ改造論(文庫)

パオロ・マッツァリーノの日本史漫談

コドモダマシ(文庫)

13歳からの反社会学

続・反社会学講座(文庫)

日本列島プチ改造論

コドモダマシ

反社会学講座(文庫)

つっこみ力

反社会学の不埒な研究報告