こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。
忘れたころに少年凶悪犯罪が起きては、また根拠もなく少年凶悪犯罪の増加を叫ぶ人が出てくるって毎度毎度の展開には困ったもんです。
で、そのたびに私の『反社会学講座』が反論材料として言及されて新たな読者を獲得できるってのは、ありがたいと感謝すべきなのか、同じ議論を蒸し返し続ける日本人の学習能力のなさを嘆くべきなのか。
私は『反社会学講座』で、昭和18年前後に生まれた世代(現在70代前半)がもっとも凶悪だったと、統計から導かれるひとつの事実を示しました。
そのへんのことをもっと詳しく学問的に検証してる論文をみつけていたのですが、ずっと紹介しそびれてました。この機会に紹介しておきます。
中尾暢見さんの「激増する高齢者犯罪」(『専修人間科学論集』2014年3月)。この論文では、1940年から46年生まれをひとつのコーホート(世代)として追跡しています。彼らが少年だったとき少年犯罪が多かった、そして、この世代が成人した1966年以降、少年犯罪が激減した、というところまではすでにおなじみですね。
中尾さんは彼らのその後も分析してるんです。彼らが成人すると、今度は成人の犯罪が急増しました。91年から04年、彼らが中高年だった時代には、中高年の犯罪が増えてたというじゃありませんか。
そしていまや、彼らは高齢者となったわけですが、いま問題になっている高齢者犯罪の増加は、彼らが高齢者になる数年前からの傾向だったとのこと。ただし、彼らが高齢者の仲間入りをしてから犯罪増加に拍車がかかったことは否めません。
なんとまあ……。少年のときだけではなかったんですね。現在70代前半の世代には、他の世代よりもかなり高い割合で犯罪体質の人が含まれていることは、まちがいないようです。
さて。みなさんはこの事実をどう受け止めますか。
「ほらみろ、やっぱり未成年のときにキビシく罰しなかったから、そいつらはオトナになっても年寄りになっても、犯罪を繰り返すような人間になってしまったではないか!」
なるほど。その解釈なら、「過去の反省を踏まえ、いまの年寄りの轍を踏まぬよう、一刻も早く少年法をキビシくすべきだ!」と主張することもできますね。
でも、おおかたの人たちは、その主張に反論するのでは。
「いまの年寄りが全員犯罪者なわけじゃない、ほとんどの人はまともで、犯罪者はごく一部にすぎない」
ですよね。私もそう思うし、中尾さんの論文でもそこはきちんと釘を刺してます。念を押すなら、いまの若者世代はその老人たちよりももっとまともです。
もしも昭和30年代、凶悪少年犯罪が多発していた時期にいちはやく少年法がキビシく改正されていたら、はたして、その後の成人犯罪や現在の高齢者犯罪の増加は抑えられていたのでしょうか。
私はそこまで刑罰の抑止力を信じる気になれません。むろん、ある程度の抑止力はありますが根絶はできません。日本の犯罪発生率は諸外国に比べると、すでにかなり低くなっているので、「ある程度」と「根絶」の中間くらいになってると見るべきです。だからこれ以上罰を重くしても効果は出ないだろう、と。
それが証拠に、週刊誌やネットではだいぶ前から少年凶悪犯罪者の実名を晒すという、事実上の厳罰化を実行しているにもかかわらず、また事件は起きたじゃないですか。
などといいつつ、私は必ずしも少年犯罪の厳罰化に反対ではありません。それは被害者や被害者遺族の溜飲を下げるのには、多少なりとも役に立つからです。ただし厳罰化も実名報道も、これ以上の犯罪抑止効果は期待できませんよ、といってるんです。
過去の反省を今後の犯罪抑止に活かしたいのなら、脳科学者や犯罪学者や心理学者などが集まり、70代の人たちの脳や少年時代からの生活パターンなどを徹底的に調べ、なぜこの世代に犯罪者が多いのか、犯罪体質とそうでない人の違いはなにか、それを科学的に究明したらいい。そのほうがよっぽど前向きで役に立つ取り組みになるはずです。
[ 2015/03/09 21:20 ]
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