こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。
他人の病気や障害のことは、なかなかわからないものです。知らないことで誤解や偏見が起きることも、しばしばあるようです。
ということで、難聴の症状がどういうものなのか、あまり知られていないようだし、誤解もあるようなので、もう少し詳しく書いておくことにします。べつに同情や共感を求めてるわけではありません。知るということが大切ですから。
まず、私の場合は、十数年前に突然発症した突発性難聴です。もともと大きな音やうるさい音は苦手で、音楽を大音量で聴くこともなかったし、騒音のある環境で暮らしたり仕事したりもしてなかったので、原因は不明です。
症状としては、音が聞こえづらいのはもちろんですが、じつはそんな単純なものでもありません。
ずーっと耳鳴りがしてます。シャーッ、って感じの音が24時間365日ずっと鳴りっぱなしです。私のはそんなに大きな音ではなく、テレビを見てたりおもてを歩いてたりすると、まったく気にならなくなるレベル。静かな部屋にいて意識すれば聞こえるのですが、もう慣れました。
でもなかには、耳鳴りの音が大きくて苦しんでる人もたくさんいます。耳の中というか、アタマの中で鳴ってる音なので耳栓しても防げません。けっこう、ツラいと思いますよ。
そして、もっともよくある誤解が、「聞こえにくいのなら、騒音とか鳴ってても平気だよね?」というもの。
ベートーヴェンも難聴に悩んでいたことは有名です。去年だったか、ベートーヴェンについての海外ドキュメンタリー番組で、街が戦場になったとき、砲声などの音がうるさくて耐えられず、ベートーヴェンは地下室に避難していたというエピソードがありました。
これ、普通に考えるとヘンですよね。耳が聞こえないなら、大きな音がしても平気なんじゃないの? え、まさかベートーヴェンの難聴もウソ……?
そうじゃありません。たしかに難聴だと、小さい音が聞こえません。しかし、ある一定レベル以上の大きな音量になると、今度はものすごく歪んで聞こえます。
私は救急車などのサイレンが一番苦手です。道を歩いててサイレンが近づいてくると、難聴のほうの耳の穴を指でふさぎます。そうしないと、横を通過するときに「ピーポーピーポー」が「バリバリバリ!!」と聞こえ、顔をしかめることになるからです。
録音するときに入力レベルを上げすぎると音が割れてしまうのと似ています。
難聴の人がすべてそういう症状だとはかぎらないのですが、ベートーヴェンは私と近い症状だったのだろうと思われます。バーン、ドカーン、という大きな音がものすごく歪んで聞こえて気持ち悪かったから、地下室に避難したのでしょう。こういう事情を知らない人からは、「聞こえないのになんでうるさがるんだよ」と疑われてしまいかねません。
あと、陶器が割れたりぶつかったりする、カチャーンて鋭い音も、ものすごく気持ち悪い。そばで聞こえると、ウエッ! てなります。みなさんよく、黒板をひっかくキキーッって音が気持ち悪いといいますよね。私にとっては、陶器の割れる音も、あれと同じくらいの気持ち悪さなんです。
片方しか聞こえないことにより、音の方向がわからないというのも不便ですね。みなさん意識してませんけど、人間の脳は左右の耳から入る音の微妙な差を瞬時に計算して、音がどの方向から聞こえるのか判断してるんです。片方しか聞こえないと、どこで音が鳴ってるのかわからない。
以前、近所の狭い道を歩いてたら、後ろからチリンチリンって音が聞こえました。自転車が来たと思って脇によけたのに、まだチリンチリン鳴るんです。なんだよ、しつこいヤツだな、と振り返ると、自転車なんていないんです。周囲を見回したら、横の家の軒先で風鈴が鳴ってる音でした。
ホントだって。作り話じゃないですよ。片耳だとそれくらい、音の方向がわからないものなんです。
[ 2015/06/12 19:01 ]
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