こんにちは。パオロ・マッツァリーノです。本日は、みなさんとメディアリテラシーの練習をいたしましょう。
生活保護の不正受給問題で世間はかまびすしいようです。それにしてもあの片山さんって議員が、あんなにアタマの悪い人だったのかとわかって、かなりがっかりしました。
私は河本さんのやったことを擁護する気はありませんが、いくら有名人とその母親には一般人と同じプライバシーは適用されないからといって、あそこまで大々的に個人攻撃を仕掛けたんです。自分だって叩かれるだろうくらいのことは、想像がつきそうなもんですけどね。私のような無名の物書きが三流学者の批判をしただけでも、その学者のお友だちの学者たちから集中砲火をくらったりするんですから。有名政治家なら、なおさらでしょう。
それとも、自分はつねに百パー正しい、自分のいうことは国民全員が支持してくれるはずだ、とでもお考えだったのでしょうか。どんなに正しい意見にだって、スジの通らない理屈で脅迫まがいの批判をしてくるやつなんて、世の中にはごまんといますよ。
しかし、あげくの果てにテレビの生放送に出演し、千原せいじが夫の会社を潰すとテレビでいってた、と涙ながらに語るのを見て、私は考えを変えました。というか、ゾッとしました。片山さんはアタマが悪いのではなく、すべて計算ずくの悪意でやってるんじゃないかと。
だって常識で考えてくださいよ。一介の芸人でしかない千原せいじさんが、いったいどうやって、ダンナの会社をつぶせるんですか。ホリエモンとかなら、株の買収を仕掛けて乗っ取るとかも不可能ではないと思いますけど、あの千原せいじさんでしょ? 片山さんは発言の中で、千原さんのことを、河本さんと仲のいい同じ事務所のかたといってましたから、芸人であることをご存じなんです。見た目から経済ヤクザだとカンちがいしての発言ではないんです。
ユーチューブにその千原さんの発言部分があったんで見てみたら、私にはこう聞こえました。「ダンナさん、けっこうデカい会社潰してたんでしょ?」要するに、千原さんは生活保護問題とは無関係な悪口をつぶやいただけで、これもまあ、あんまりアタマがよろしいとは思いませんが、少なくとも、片山さんがいうような、ヤクザの脅迫まがいの発言でなかったことは、たしかです。
では片山さんはどのようにして千原発言を知ったのか。テレビではこういってました。新幹線の中でたまたま知らない人から、せいじがテレビでこんなこというてたで~と教えられたのだ、と。えっ、そんなだれともわからない人からの信用できない垂れこみ情報を鵜呑みにして、発言内容を確認もせず、テレビの生放送で涙を流しながら千原さんを脅迫者と決めつけ告発し、ご自分は被害者ヅラをしたのですか?
ご自分が忙しくて確認するヒマがなかったとしても、スタッフに調べさせるくらいのことはできたはずです。なのに、しなかった。なぜ、しなかったのですか。
そう考えていくと、こう結論を出さざるを得ません。片山さんに対して批判的な千原せいじさんをおとしめるために、そしていかにも自分が今回の問題を公にしたことで脅迫を受けている被害者であるかのような印象を広めるために、あえて千原さんの発言を確認しないまま、公共の電波を使って一方的な情報を流し、世間の支持を集めようと試みたのではないか。
仮に片山さんが、そんなことは知らなかったのだ、悪意はなかったのだ、と反論したとしても、ろくに事実確認もせぬまま千原さんを批判した事実は否定しようがありません。もし、新幹線車内で「テレビで野田総理が、あんたのダンナの会社潰してやるいうてたで~」と教えられたら、確認もせず、国会で野田総理を追及するのですか? その前に絶対、裏を取るはずです。そう考えると今回の件は、故意でなければあまりにも軽率。故意だったら信じられないほど悪質。そのいずれかということになります。
しかもそうなってくると、じゃあ河本さんの件に関しても、たいした事実確認もせず、だれかからの垂れこみ情報だけをもとに告発していたんじゃないの? あいつはクロだと決めつけて、確たる証拠もなく、見切り発車で批判したんじゃないの? 当然、そういう疑問が湧いてきます。
たまたま河本さんは自ら記者会見で謝罪しましたが、もし、自分にやましいところは一切ない、すべて合法だ、と突っぱねていたら、片山さんはそれを覆すだけの証拠をお持ちだったのでしょうか。その上での告発だったのでしょうか。
いずれにせよ、私は今回の件で片山さつきさんという人を、政治家としても知識人としても、まったく信用できなくなったと、申し上げておきます。故意かどうかにかかわらず、メディアを利用して、また、政治家という立場を利用して、卑怯なやり方で他人をおとしめていることはまちがいありませんから。
以上の私の意見に対して、不正受給をしてたかどうかが問題なのであって、告発の方法とかはどうでもいいんだよ! なんて批判する人がいたら、それこそなにもわかってない証拠です。物書きとして、ジャーナリストとして、情報に接して言論でそれを伝える者なら、その手法には関心を持たないといけないんです。今回の件で河本さんを批判するのは自由です。しかし、片山さんを公明正大な正義の人だと持ち上げてなんの疑問も抱かないのなら、その人には物書きの仕事に携わる上でのセンスがまったくありません。
メディアリテラシーを考える上でもっとも重要なのは、情報の出どころです。テレビなどでだれかがなにかを発言していたら、その情報はどこから入手したのだろう? とつねに考えるクセをつけてください。それだけでも、情報の真偽をかなり見極めることができますから。
[ 2012/05/27 23:12 ]
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