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高畑さんの件で気になったこと

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。
 高畑さんの事件のことで気になったことをまとめておきます。
 まずおことわりですが、私は○○容疑者という呼びかたが嫌いなので、高畑さんと表記します。
 だからといって、高畑さんをかばってるわけじゃありません。彼には情状酌量の余地はなく、芸能界からの永久追放も当然だし、手口の悪質さを考えると、カタギの世界で生きる資格を失ったと思われてもしかたないでしょう。

 まずなにより気になるのは、強姦に対して甘い考えの人が意外と多いことです。殺人・強盗・強姦・放火は凶悪犯罪です。強姦は、不倫だの覚醒剤使用だのとは比べものにならないくらいの悪行です。被害者に計り知れない身体的・精神的・社会的苦痛を与えるのですから、テロにも匹敵する重罪です。
 高畑さんは、相手が職務として絶対に断れない状況を作り出した上で、行為に及んだわけです。どす黒い悪意に基づいた卑劣な犯行としかいいようがない。
 事件が報道された当初、性行為そのものに関しては未遂だった可能性を指摘する人がいましたが、その可能性はほぼなくなったと見ていいでしょう。もし未遂だったら、本人がとっくにそう供述してるはずなので。
 それに万が一、未遂だったとして、あなたは許せますか? 被害者を呼び出して力づくで襲ったというところまで実行しちゃったら、もうその時点で人間としてアウトです。そこまでやった人間があなたの職場の同僚で、未遂で示談になり職場復帰したら、以前と同じように接することができますか。おそらくムリですよね。

 一方で、お母さんの淳子さんを責める気にはなれません。
 今回の件は、親の育てかたやしつけとは、まったく無関係です。親が甘やかしたからだ、などとデタラメな教育論を無責任に広めるのはやめてください。
 過去に大学生が集団レイプをして逮捕された事件では、主犯の学生が、とてもマジメな父親に厳格なしつけをされて育ったことが報じられました。つまり、こどもを甘やかそうがキビシくしようが、犯罪者になるヤツはなるし、ならない人はなりません。あなたのお子さんが犯罪者でないのは、たまたま運がいいだけです。自分の育てかたが正しかったのだ、なんてうぬぼれないように。
 もしも犯罪者にならない「正しい育てかた」があるのなら、とっくのむかしにこの世から犯罪はなくなっているはずです。そうなってないことが、教育に正解が存在しないこと、教育に限界があることの証拠です。こどもは親だけでなく仲間や社会からも影響を受けて育つのだから、親の教育にはおのずと限界があります。
 私の主張に反論するのなら、ヘリクツや精神論でなく、親の育てかたと犯罪歴の関係性を証明する統計データを見せてください。

 もうひとつは例によって例のごとく、新たな日本のお家芸となりつつある謝罪会見、その不毛さです。高畑淳子さんクラスの俳優ならば「誠実さ」を演技することが可能だからよけいに無意味なんです。一流の役者なら自在に涙を流せることくらい、みなさんご存じですよね。
 誤解しないでください。私は淳子さんが演技をしていたと批判してるのではありません。演技なのか本心の吐露なのかは、誰にもわからないといってるんです。だから謝罪会見にはそもそも意味がない。
 この手の謝罪会見があると必ず「誠実さが見られた」などと、くだらない論評をするコメンテーターが出てきますけど、誠実さをどうやって判定してるの? 自分には人を見る目があるのだ、と自慢したいわけですか。
 じつは誠実さを装うのがもっとも上手なのは、サイコパスと呼ばれる人たちだといわれてます。彼らは、本心を隠して自分を他人によく見せることに、なんの罪悪感も抱きません。他人の前で、いいひとの演技をし続けることができるので、ほとんどの人がダマされるのだそうです。
 たいていの人がうまくウソをつけないのは、ウソをつくことや自分を偽ることに罪悪感を持っていて演技を続けられないからです。罪悪感がない者は、完璧に誠実な演技ができるんです。
 つまり、あなたが「誠実」だと思っている人は、本当に誠実な人か、とても演技がうまい人か、サイコパスか、いずれの可能性もあります。そして、どれに該当するのかほとんどの人には見抜けないのです。
 根本的な疑問なんですが、誠実に謝れば強姦は許されるのですか? 先ほどもいったように、強姦は極めて悪質な犯罪です。誠実に謝れば許されるなんて生やさしいもんじゃない。なんか最近目立って不愉快なのは、上手に謝ればなんでも許してもらえるとカンちがいしてる日本人が増えてること。

 最後にもうひとつ。加害者は「いいひと」だったという他人の証言も要注意です。親兄弟がそういってかばう気持ちはわかります。でも他人は加害者の一面を見てるだけなんで、いいひとかどうかなんてわかるはずがありません。
 安易な性善説は、危険な三段論法を発動しがちです。

加害者はいいひとだ。
  ↓
だからあんな犯罪をやるはずがない。
  ↓
きっと被害者になんらかの落ち度があったのだ。
(被害者にはめられたのだ。)

 このように、被害者へのバッシングに転じやすいので、加害者を「いいひと」だと決めてかかるのは極めて危険です。
 たとえいいひとであっても、悪いことをすれば裁かれる、という原則がなければ、刑法は存在理由を失います。
 ていうか「いいひと」は強姦なんてしないけどね。
[ 2016/08/31 08:38 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)
プロフィール

Author:パオロ・マッツァリーノ
イタリア生まれの日本文化史研究家、戯作者。公式プロフィールにはイタリアン大学日本文化研究科卒とあるが、大学自体の存在が未確認。父は九州男児で国際スパイ(もしくは某ハンバーガーチェーンの店舗清掃員)、母はナポリの花売り娘、弟はフィレンツェ在住の家具職人のはずだが、本人はイタリア語で話しかけられるとなぜか聞こえないふりをするらしい。ジャズと立ち食いそばが好き。

パオロの著作
つっこみ力

読むワイドショー

思考の憑きもの

サラリーマン生態100年史

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歴史の「普通」ってなんですか?

世間を渡る読書術

会社苦いかしょっぱいか

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