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伝統こぼれ話(2)記事見出しは「伝統」だけど……

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。渋谷のハロウィン騒ぎでまた「ちかごろの若者は……」論が飛び交ったようですが、ちょうどよかった。私の新刊『歴史の「普通」ってなんですか?』でも若者のバカ騒ぎを取りあげてるんですよ。ちかごろでなく、戦前の話ですけどね。
 戦前の大学野球人気はかなりのもので、なかでも早慶戦が花形でした。早慶戦のあとは、興奮おさまらぬ両校の学生が、数百人で夜の銀座に繰り出し、泥酔して乱闘騒ぎを起こし警察出動、というのが恒例行事になってました。銀座のバーやレストランの常連だった作家の永井荷風は怒り心頭。ああいうバカどもを見てると、自分にこどもがいなくてよかったと思う、と日記に書いてます。

 このように、正しい歴史を楽しく学べる『歴史の「普通」ってなんですか?』。発売記念の「伝統こぼれ話」第2回――の前にひとつ、本の訂正を。
 29ページで、『反社会学講座』を書いたのが20年以上前となってますが、まだ20年もたってません。ネットで書きはじめたのが2001年ごろだったはずなので。手元にある元原稿を確認したら「20年近く前」になってました。なんで校正の段階で書き換えちゃったんだろ?

 ここからようやく本題のこぼれ話。今日ご紹介するのは、『新評』1970年10月号掲載のコラム「女と喫茶店とモダニズム ソフトドリンクがつくった洋風伝統の浅さ」です。筆者は加太こうじ。
 大正生まれの加太は、東京の盛り場に喫茶店が増えたのは、昭和10年ごろだったと振り返ります。このコラムが書かれた1970年には、上野・御徒町界隈だけでも、100軒を越える喫茶店があるとのことで、喫茶店文化全盛期だった様子がうかがえます。
 戦前は若い女性が喫茶店に行ったら、女のクセにとか不良だとかいわれたものだけど、いまや喫茶店の繁盛を支えているのは若い女性客である。日本人の生活が江戸時代以来のさまざまな様式からはなれて、えたいの知れない洋風になりつつある……
 という、偏見こみこみの印象論です。ただ、注目すべきは本文内容じゃありません。記事タイトルには「洋風伝統の浅さ」とありますが、記事本文で、加太は「伝統」という単語を一度も使ってないんです。
 一般のかたはご存じないかもしれませんが、雑誌などの記事タイトルは、編集者がつけるのが普通です。筆者が、どうしてもこのタイトルにしてくれと頼めば考慮してくれますが、決定権は編集部にあります。加太のコラムも編集者が内容を勘案して、「洋風伝統の浅さ」と見出しをつけたのでしょう。

 似たような事例は拙著『偽善のすすめ』でも紹介しました。『現代』83年9月号の「欽ちゃんよ、いい加減に偽善はやめてくれ」。立川談志さんがいつもの調子でさまざまな芸能人をめった切りにしてまして、24時間テレビに出てる萩本欽一さんも俎上に載せてます。でも談志さんは記事中で、偽善という言葉をまったく使ってません。当然ながら萩本さんに偽善をやめろなんていってないんです。
 談志さんの主張内容を正確に見出しにするなら「欽ちゃんを聖人にまつりあげるな」ってところでしょう。なのに見出しは「偽善はやめてくれ」。編集者の勝手な主観が入りすぎです。
 雑誌記事は見出しと内容が異なることが珍しくないので、見出しに釣られず、本文を読み解く力をつけてくださいね。
[ 2018/11/01 20:48 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)
プロフィール

Author:パオロ・マッツァリーノ
イタリア生まれの日本文化史研究家、戯作者。公式プロフィールにはイタリアン大学日本文化研究科卒とあるが、大学自体の存在が未確認。父は九州男児で国際スパイ(もしくは某ハンバーガーチェーンの店舗清掃員)、母はナポリの花売り娘、弟はフィレンツェ在住の家具職人のはずだが、本人はイタリア語で話しかけられるとなぜか聞こえないふりをするらしい。ジャズと立ち食いそばが好き。

パオロの著作
つっこみ力

読むワイドショー

思考の憑きもの

サラリーマン生態100年史

偽善のトリセツ

歴史の「普通」ってなんですか?

世間を渡る読書術

会社苦いかしょっぱいか

みんなの道徳解体新書

日本人のための怒りかた講座

エラい人にはウソがある

昔はよかった病

日本文化史

偽善のすすめ

13歳からの反社会学(文庫)

ザ・世のなか力

怒る!日本文化論

日本列島プチ改造論(文庫)

パオロ・マッツァリーノの日本史漫談

コドモダマシ(文庫)

13歳からの反社会学

続・反社会学講座(文庫)

日本列島プチ改造論

コドモダマシ

反社会学講座(文庫)

つっこみ力

反社会学の不埒な研究報告