こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。先日、横浜で女性が刃物で刺される強盗殺人未遂事件が起きました。テレビのニュースでは一様に、現場が商店街で、防犯カメラが何台も設置されていたのに、なぜ……? みたいな伝えかたをしてました。
なぜ、とはまた愚問ですね。答えはあきらかじゃないですか。防犯カメラでは犯罪は防げないってことですよ。事実からそう推論できないとしたら、それはあなたの思考にバイアスがかかっている証拠です。自分が信じたくないことは考えたくない、認めたくない。だから正解が見えなくなってしまう。霊験あらたかな「防犯カメラ様」のご利益にすがり、犯罪被害というケガレを祓いたいと願う、21世紀の新たな土俗信仰が、あなたの思考をくもらせてるんです。
逆にうかがいますけど、防犯カメラで犯罪が抑止できるという科学的な根拠はあるのですか? 警察署が、どこそこの町で防犯カメラを設置したら犯罪件数が減った、なんて発表をしてるのをときどき目にしますけど、それはほとんどの場合、単純な統計トリックです。種明かしをすると、カメラを設置する前から犯罪は減少傾向だっただけ。そもそも日本は毎年、犯罪件数最低記録を更新し続けてる安全な国であるのをお忘れですか。
あ、信者のみなさんのおっしゃりたいことはわかりますよ。カメラに撮られて捕まるのを恐れるから、犯罪を起こさなくなる! といいたいんでしょ?
それはなんの根拠もない希望的観測にすぎません。現実の犯罪者は防犯カメラに映ることを気にせず犯行に及ぶのです。
コンビニの防犯カメラ設置率が100%だと、誰もが知ってます。なのに、いまだに強盗が入るじゃないですか。ドライブレコーダーに記録されるかもしれないと知ってるのに、あおり運転をするやつは絶えません。こどもの誘拐事件でも、犯人がこどもと一緒に堂々と町を歩いてる姿が防犯カメラに記録されてたりします。
犯罪者の思考回路って、なんか不思議なんですよ。犯罪者は、防犯カメラがあるかもしれないから犯罪をやめよう、とは考えないんです。
防犯カメラ様のご利益にすがりたがる日本人がこれほどまでに増えたのは、イギリスの影響です。
世界に先駆けて、90年代からイギリスのロンドンは、防犯カメラを設置しまくりました。そのおかげで劇的に犯罪が減ったと喧伝されたことで、鵜呑みにした日本の自治体などが、2000年代からこぞって導入しはじめたのです。
しかしイギリスでも、その効果に疑問を呈する声はあがってました。大学教授のノリスさんは、カメラの管理会社や警察が主張した防犯効果の数字には科学的根拠がない、と指摘しています(『フォーサイト』2004年6月号)。
統計を確認すると、94年に比べ2004年の犯罪率はまったく下がってなかったし、犯罪の種類によっては逆に増えていたことがわかりました。効果の怪しいカメラの設置と維持に予算をつぎこみ、警察の予算や警官の人員を減らすのはかえって危険を招きかねないと教授は警告しました。
不幸なことに、それは現実になりました。防犯カメラ先進都市だったロンドンの犯罪発生率は上昇を続け、いまや殺人件数でニューヨークを上回る、治安の悪い都市になってしまいました。カメラに撮られてもいいように、フルフェイスのヘルメットをかぶり盗んだバイクに乗って犯行におよぶ強盗団が出現しました。大規模なテロが起きたこともまだ記憶に新しいでしょう。テロリストもまた、防犯カメラを気にしないんです。
こういう話を聞くとすぐに、ロンドンは移民が多いからだと妄想を語る差別主義者が湧いてきますが、ハズレです。ロンドン在住のブレイディさんのレポート(朝日新聞6月9日付)によると、ロンドン警視庁が、警察力の低下が犯罪増加の原因だと認めたとのこと。ロンドンの警察署や交番は過去8年くらいで半数以上が閉鎖されたそうです。そりゃ犯罪天国になるわな。
まあ、むかしからどこの国でも警察の腐敗や怠慢が問題になってきましたけど、少なくとも犯罪抑止という点では、防犯カメラよりは生身の警察官のほうがあてにできるようです。
[ 2018/11/16 20:17 ]
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