俺は俺より強いヤツを求め、日本中を旅し続けている武道家だ。時代遅れと笑うがいい。俺はそういう生きかたしかできない男なのだ。
そんな俺に天が味方してくれたのだろうか。今日、はじめて訪れたこの町の裏通りで、「極真カラテ」と書かれた看板を見つけたのだ。
躊躇なく、俺はその道場の扉を開けた。
「たのもう!」
「いらっしゃいませ」
穏やかな笑顔でカウンターの向こうに立つのは、カフェのマスターのような初老の男性。微塵も殺気が感じられない。俺のような道場破りを目の前にして、ここまで見事に平常心を保てるとは、この男、相当の使い手に違いない。
それより、なんだこの道場は。内装まで、まるっきりカフェのようではないか。
「何故、道場をカフェのごとく偽装しているのですか?」
「カフェのごとくじゃなくて、カフェなんですけども」
「笑止。看板に極真カラテと大書してあるではないかっ!」
「あれは、きわみまことちからラテ、です」
「……は?!」
「力うどん、ってご存じですか」
「お餅が乗ってるうどん」
「そこから発想を得て、カフェラテに焼き餅を浮かべた、ちからラテというオリジナルメニューを作ってみました。で、私の名前が極真と書いて、きわみ まことと申します。開発者である自分の名前をつけまして、きわみまことちからラテ。当店のおすすめです」
「いただこう」
……
「お待たせしました、きわみまことちからラテでございます」
「ううむ、深煎り豆が醸し出す強いアロマと苦み。それをやさしく包み込むミルクのクリーミーな泡と自然な甘さ……。こんな美味いラテは飲んだことがない。俺の負けだ……」
「おそれいります」
「だが、マスター!」
「なんでしょう?」
「餅は、余計だ!」
[ 2019/03/31 17:46 ]
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