こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。こんなご時世だからこそぜひ読んでいただきたい良書を紹介します。木村幹さんの『日韓歴史認識問題とは何か』(ミネルヴァ書房)。
この本の特徴は、日韓両国の新聞など文献資料をきちんと踏まえ、根拠のある事実をまとめている点にあります。といわれて、そんなのはあたりまえじゃないかというひとは、まるでわかってません。そのあたりまえの作業をやらずに偏見を述べてるひとが圧倒的に多いのですから。
韓国を目の敵にしてる日本人のほとんどは、韓国語が読めません。日本を目の敵にしてる韓国人のほとんども、日本語が読めません。彼らはいったい何を根拠に互いを攻撃し合ってるのでしょう? 彼らが頼りにしてるのは、自国語だけの伝聞と報道です。相手の国民がどんなことを考え、どんな主張をしてるのかを、自分で確かめる能力のないひとたちが、根拠のあいまいな政治イデオロギーで誹謗中傷合戦を繰り広げてるわけです。
ていうかそもそも、ほとんどの日本人は韓国に興味がないし、ほとんどの韓国人は日本に興味がないんじゃないですか。互いに好きでも嫌いでもないはずなんだけど。
この本には、韓国の新聞など現地資料を研究してきたひとだからこそ知っている意外な事実がたくさん記されてるので、読めば多かれ少なかれ驚くはずです。
たとえば、1980年代初頭の朝鮮日報は、日本が北朝鮮に接近することをおそれ、日本はもっと右傾化すべきと主張していたそうです。それが数年後、日本の歴史教科書検定問題がかなり誤解されたカタチで韓国側に伝わったことで、急激に日本の右傾化を批判する流れに変わったとのこと。
ここだけ抜き出すと、この著者は保守信者の一味かなどと思われそうですが、そうではないでしょう。他国に関する情報は、歪んだ内容で報道されることが多く、それが国民に広まることで、偏見が強まってしまうおそれがあるという歴史的検証です。
こういうまっとうな研究によって、どこで行き違いが生じたのかをあきらかにできるんです。木村さんは客観的に歴史を解析してるだけなんです。国家間の歴史問題には、双方のさまざまな要因が絡み合ってます。それを解きほぐすのが学問です。
まともな読解力も資料調査能力もないくせにアタマがいいふりをしたい人間は、欠落した知性を政治的イデオロギーで手っ取り早く補おうとします。イデオロギーはお手軽な麻薬です。
朝鮮半島に関する研究をするひとたちは、事実を論じてるだけなのに、「日本帝国主義の信奉者」「韓国からの回し者」などと両方向の偏ったひとたちから誹謗中傷や脅迫を日常的に受けると書かれた序章を読むだけで気が滅入ります。脅迫に耐えかねて研究をやめるひともいるってんだから、おだやかじゃありません。
そういえば、門外漢である私みたいな者でも、妙な言い掛かりをつけられたことがあったなあ。『「昔はよかった」病』では関東大震災後の虐殺について自警団をかなりきびしく批判したつもりだったのですが、被害者は朝鮮人だけでなく日本人もかなり多かったと指摘した個所だけに反応して、なぜか私を虐殺否定論者だと決めつけるひとがいてビックリしました。
右にせよ左にせよ、政治イデオロギーでアタマが染まってるひととはまともな議論ができないから、ホント迷惑ですよね。
[ 2019/08/05 20:20 ]
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