こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。前回に引き続き2019年回顧、今回は本。
私はここ10年くらい、古新聞古雑誌ばかり読んでます。もちろん近現代庶民史の調査のためですが、これがまた、おもしろいので、結果として新刊書をあまり読まなくなってしまいました。それで自分の新刊を買ってね、というのもちょっと心苦しいのですが、売れてくれないと食いっぱぐれてしまいますので。
本は発売後3年経つと文庫になって買いやすくなることもあるし、図書館でも貸出ラッシュが落ち着いて借りやすくなります。そういうわけで、3年、4年遅れくらいで新刊を読むことが多いんです。
発売時の書評、あるいは知り合いのおすすめなどで気になった本を普段からメモしておきまして、3年後くらいに読みはじめます。でもそのころには、どこでその本の評判を聞いたのか、忘れてるんですね。なので逆に、先入観のない新鮮な気持ちで読めます。
『浮遊霊ブラジル』津村記久子
この作家さんの作品は初見です。そこはかとなく漂うユーモアだけに注目するとエンタメ小説に思われそうですが、ときおり指先で内臓を押してくるような意地の悪さが、紛れもなく純文学。
「給水塔と亀」なんて、平易な言葉だけで書かれているし、ものすごく短くて、たいした事件も起きないのに、小説を一篇読んだという確実な満足感が残ります。
私が好きなのは「地獄」。死んで地獄に堕ちた主人公と友人が、いろんなやりかたで殺され続ける罰を受けるかと思えば、鬼のしょうもない恋愛相談に延々つきあわされるという地味にツラそうな罰を受けたりする話。
『反知性主義』森本あんり
これは2015年刊だから4年経ってました。反知性主義という言葉が近年よく使われますが、本来は、キリスト教関連の宗教用語だったというのは意外でした。
むかしは、神父や牧師は全員大卒者にかぎられていて、教養と権威のある者しか説教ができなかったんです。これが知性主義。それに反発して、学歴はないけどしゃべりの達者な人間が、教会ではないところで演説し、話のおもしろさでスター伝道師へとのし上がっていったりするのが、反知性主義。
神がアメリカを祝福するのは契約上の義務だとアメリカ人は考えているそうです。現代のアメリカ人にとって、神と自分はもはや上下関係でなく、対等な立場のビジネスパートナーでしかないってことみたいです。
『多数決を疑う』坂井豊貴
バカが政治で攻めてくる。そんな風潮は選挙制度に問題があるからじゃないかと調べたなかで、おもしろかった一冊。
選挙は、方式によって当選者が全然違ってくるということを理論的に検証しているのですが、その個所は理解するのにちょっとアタマを使います。
政治家は民意という言葉をよく使うけど、結局のところ、選挙制度に上手く乗っかって勝っただけなんじゃないか。それを民意と呼べるのか。
選挙ではどんなに投票率が低くても成立してしまうのに、住民投票のときだけ、投票率50%以下なら開票もしないなんてやりかたが、なぜまかり通るのか
憲法改正は、議員の3分の2が賛成すれば、国民投票は過半数でいいというのはおかしいじゃないか。国民投票も3分の2の賛成を必要とすべきではないのか。
などなど、選挙制度にはさまざまな問題があるのに、そういうもんだと思っちゃってるのは、やっぱりマズいよねえ。
[ 2019/12/30 22:03 ]
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