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ネットフリックスを2か月観た感想

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。2か月ばかりプリペイドでネットフリックスを視聴してみました。おもしろそうな作品はひととおりチェックしたので退会。また観たい作品がたまったら再入会しようかなと。ていうかこれ、毎月入り続けるメリットあるの?
 私はおもにテレビにつないだPS4で観ましたが、視聴ソフトの出来がいいんです。操作にイラつくこともなく、スタッフロールみたいなところをスキップできるのも便利でした。

 おもしろかった作品ベスト5。

第1位『全裸監督』
 複数の脚本家がチーム作業で書いたと聞いて、ビックリしました。それにしては最初から最後まできちんとまとまってます。万人に受けることを強いられる地上波ドラマでは不可能な表現とテーマに挑んで見事に成功した例として、今後のエンターテインメントの指針になるかもしれません。
 役者陣もみんな好演でしたが、私が感心したのは、一番まともそうでいて、じつは強烈な変態性を隠し持っているという難しい役柄を演じた玉山鉄二さん。

第2位は同率で『マネーショート』と『最後の追跡』
 この2本、観たかったのになぜかWOWOWで放送されなかったんです(私が見逃しただけかな?)。互いに全然無関係の作品なんだけど、同じテーマでつながってます。
 『マネーショート』はリーマンショックの内幕を描いた社会派ブラックコメディ。金融業界のあまりにも腐りきった裏側を見せつけられるので、ブラックすぎて笑顔が凍りつくことでしょう。群像劇はそれぞれの出演時間が短いので役者としてはうまみがないのですが、スティーブ・カレルさんやブラッド・ピットさんやクリスチャン・ベールさんといった一流どころがこぞって出演したのは、みんなこの経済の現実に強い憤りをおぼえていたからでは。
 『最後の追跡』は銀行強盗を繰り返す兄弟と、それを追う引退間近のレンジャー(保安官みたいなひと)が頭脳戦を繰り広げる犯罪アクションとしても秀作なのですが、兄弟の犯罪が、リーマンショックのときに非情なやりかたで庶民からカネをむしり取って自分らは生き延びた銀行への復讐になってることで、社会派の要素が加わります。
 アメリカの大統領選で、左派のサンダースさんが熱狂的に支持されたり、ウォール街が激しく非難されてることが、多くの日本人には理解できてないんじゃないですか。この2本の映画を観れば、その背景が少しはわかるはず。

第4位『リラックマとカオルさん』
 らしくないチョイス? ただかわいいとか癒しとかだけでなく、部屋を追い出されたリラックマがホームレスと河原で釣りをしたり、カオルさんがイケメン配送員に会いたくて通販にハマり借金したりと、シュールや闇がまぶされている点を評価しました。
 脚本家を調べたら、なんと荻上直子さん(監督はべつのひと)。正直いうと私は荻上さんの監督作品は苦手で、最後まで観たことないんです。異常にあんこの少ないアンパンみたいな映画でしょ。おいしいあんこにたどりつくまで味気ないパン生地をたらふく食わされるから途中でイヤになる。でも『リラックマとカオルさん』は1話が10分足らずなんで、ムダな余白がなく、おいしい薄皮ミニアンパンでした。

第5位『氷菓』
 普段あまり観ないアニメも何本か観てみました。ちまたで人気の『鬼滅の刃』は、まったくハマらず。CGアニメの『ULTRAMAN』は昭和のウルトラマンシリーズを再構築した設定が、元ネタを知ってる世代には懐かしくて新しい。ただ、あれモーションキャプチャーなの? 人物の動きがへろへろと気味悪いんですけど。
 いままで言及しなかったんですが、去年の京アニの事件。あれ、すごく悲しくてね。私はアニメファンでもないし、調べてみたら京アニの作品で観たのは映画の『聲の形』だけでした。だから思い入れはなにもありません。だけど、あそこで働いてたのは、ただアニメが好きでアニメを作りたくて仕事をしてたひとたちでしょ。なんで死ななきゃならんのかと考えると、たとえ面識のないひとたちであっても、やりきれなくて。
 そんなわけで、ネットフリックスオリジナルではないのですが、京アニ作品のなかから、日常系ミステリというジャンルに惹かれて『氷菓』を観ることに。
 わあ、甘酸っぺぇ。これ実写映画で広瀬アリスさんがやってなかった? 映画は観てないけど、そのイメージでもっとオトナびたものを想像してたら、アニメは思いっきり中高生向けの青春恋愛学園ミステリでした。
 ストーリーはともかくとしても、アニメ作品としての質の高さは、おじさんの私にもわかります。ちゃんとそれぞれのキャラが描き分けられてるし。
 あたりまえだろっていうかもしれないけど、これたぶん「アニメ観ないひとあるある」で、たまに予備知識なしでアニメを観ると、キャラがみんな同じ顔に見えるときあるのよ。これ目と髪の色が違うだけなんじゃね? みたいな。白黒にしたら区別つかねんじゃね? みたいな。
 人物以外にも、喫茶店の内装や食器類とか、背景の細部まで手を抜いてないのも伝わってきました。こういう仕事をするひとたちが一気にいなくなってしまったのかと思うと、ますます残念でなりません。
[ 2020/04/22 17:21 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)
プロフィール

Author:パオロ・マッツァリーノ
イタリア生まれの日本文化史研究家、戯作者。公式プロフィールにはイタリアン大学日本文化研究科卒とあるが、大学自体の存在が未確認。父は九州男児で国際スパイ(もしくは某ハンバーガーチェーンの店舗清掃員)、母はナポリの花売り娘、弟はフィレンツェ在住の家具職人のはずだが、本人はイタリア語で話しかけられるとなぜか聞こえないふりをするらしい。ジャズと立ち食いそばが好き。

パオロの著作
つっこみ力

読むワイドショー

思考の憑きもの

サラリーマン生態100年史

偽善のトリセツ

歴史の「普通」ってなんですか?

世間を渡る読書術

会社苦いかしょっぱいか

みんなの道徳解体新書

日本人のための怒りかた講座

エラい人にはウソがある

昔はよかった病

日本文化史

偽善のすすめ

13歳からの反社会学(文庫)

ザ・世のなか力

怒る!日本文化論

日本列島プチ改造論(文庫)

パオロ・マッツァリーノの日本史漫談

コドモダマシ(文庫)

13歳からの反社会学

続・反社会学講座(文庫)

日本列島プチ改造論

コドモダマシ

反社会学講座(文庫)

つっこみ力

反社会学の不埒な研究報告