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「させていただく」のルーツ

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。図書館に行けないので、溜まったコピー資料を整理しています。おもしろいのがいくつか出てきましたので、そのなかのひとつを紹介させていただきます

 国文学者・池田弥三郎の「敬語の生態」というコラム。正確な執筆年を調べ忘れたのですが、60年代のコラム集に収録されてるので、おそらく50年代くらいに書かれたものかと。池田の著作集にも収録されてるのか、ネットでは確認できませんでした。もしかしたら入手困難な作品かもしれません。埋もれさせるにはもったいないので、引用しておくことにします。

 池田の実家は銀座にある商家(天ぷら屋)だったそうです。店が休みの日には「本日休業仕り候(つかまつりそうろう)」と書かれたのれんを下げていたのだとか。いかにも老舗、って雰囲気ですね。

 休業仕り候には、余計な卑下がなくていい。客に対して、必要以上にこびていないところがいい。ところが、昭和初年ごろから、銀座の商家の門口に見かける休業の告示は、「させていただく」式のものが増えてきた。
 本日、休業させていただきます。
 本日、休ませていただきます。



 させていただくの表現が使われはじめたのは、この時期だったのでしょうか。でも池田はこの表現を嫌っていたらしく、かなり皮肉のスパイスを効かせて批判しています。そのくだりがおもしろいので、ちょっと長めに引用します。読んで腹を立てるか、笑うかは、あなた次第。

 させていただくというような、極度に自分を卑下した言い方は、かえって敬意を示すことからは遠くなると思うが、こういうところに、商人根性というものが露出しているわけなのだろう。
 ……中略……
 こういう言い方に有力に働きかけて世の中に流行させたのには、新興宗教の信徒的発想があるようだ。「感謝教」とでも言うべき低俗宗教では、俗耳に入りやすく、ものへの感謝を説く。たくあん切るのも国のためというが、それこそ日常の行住坐臥暑いにつけ寒いにつけ、ありがたがっていて、神様のおめぐみを感謝していなければならない。その気持ちを言葉の上に示したのが、させていただく式発想だ。酒を飲むのではない、神様に感謝しつつ飲ましていただくのである。日本の行なう戦争は「聖戦」であるからして、戦わしていただくのであり、弾をうたしていただいて、敵を殺させていただき、敵弾にあたらしていただいて、死なしていただくのである。

[ 2020/04/29 17:08 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)
プロフィール

Author:パオロ・マッツァリーノ
イタリア生まれの日本文化史研究家、戯作者。公式プロフィールにはイタリアン大学日本文化研究科卒とあるが、大学自体の存在が未確認。父は九州男児で国際スパイ(もしくは某ハンバーガーチェーンの店舗清掃員)、母はナポリの花売り娘、弟はフィレンツェ在住の家具職人のはずだが、本人はイタリア語で話しかけられるとなぜか聞こえないふりをするらしい。ジャズと立ち食いそばが好き。

パオロの著作
つっこみ力

読むワイドショー

思考の憑きもの

サラリーマン生態100年史

偽善のトリセツ

歴史の「普通」ってなんですか?

世間を渡る読書術

会社苦いかしょっぱいか

みんなの道徳解体新書

日本人のための怒りかた講座

エラい人にはウソがある

昔はよかった病

日本文化史

偽善のすすめ

13歳からの反社会学(文庫)

ザ・世のなか力

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日本列島プチ改造論(文庫)

パオロ・マッツァリーノの日本史漫談

コドモダマシ(文庫)

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続・反社会学講座(文庫)

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コドモダマシ

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反社会学の不埒な研究報告