こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。今年のゴールデンウィーク、みなさんは、いかがお過ごしだったでしょうか(むなしすぎる質問)。
前回の「させていただく」のルーツに続き、コピー資料を整理するなかで出てきた秘蔵ネタ第2弾をお送りします。
今回は『週刊新潮』1958(昭和33)年3月10日号の「カラフト犬狂騒曲」。いまではタロ・ジロといえば美談、感動物語として有名です。南極越冬隊が天候不良で危険になり、急遽帰国したため、イヌを残してきた。翌年訪れると生きていたタロ・ジロと再会できた! というあれね。
だけど美談になったのは、イヌが生きていたとわかったあとのこと。南極にイヌを置き去りにしてきたと報道された直後には、おぞましいまでの罵詈雑言と脅迫の嵐が吹き荒れていた事実は、美談のジャマになるので歴史の闇に葬られました。
南極観測隊の本部があった文部省や、隊長宅、隊員宅には、「イヌ殺し!」と罵る電話が毎日何度もかかってきます。手紙、電報も山のように届くので、家族はノイローゼに。なお、まだこの時点ではイヌの名前は知られてないので、カラフト犬やイヌと呼ばれてます。
「リュックをおけばイヌは運べる、それだけでもイヌ殺しだ!」
「宗谷(観測船)と留守宅を爆破するぞ」
「カラフト犬を助けないとしたならば……日本の国威にドロをぬるつもりか!」
「イヌを帰さないんなら、隊長をクサリにつないどけ」
「電話を手にして笑っていた(隊長の)奥さんの写真をみて腹が立った。イヌはまだ残っている」
「私は放火常習犯ですが、イヌを殺したら、必ずお宅に放火する」
いやはや、なんともすさまじい。
個人情報保護があたりまえになった現代の若者はくびをひねってるかもしれませんが、当時はプライバシーの意識がまだ薄かったんです。電話帳に名前と住所を載せるのがあたりまえだったので、他人の住所などをわりと簡単に調べられました。
余談ですが、昭和30年代の漫画雑誌には、漫画家の住所が書いてあります。昭和40年代くらいまでに出版された本には、奥付に著者の住所が書いてあるものがたくさんあります。
そんなことして、ヘンなヤツが自宅に来ちゃったりしないのか? まあ、来たか来ないかといわれたら……来ました。作家がアブナいファンに襲われたなんて事件も起きてます。
そんなわけで南極越冬隊員の自宅にもヘンなひとがかなり来てたようですよ。週刊新潮の記事でも、記者が隊長の自宅を訪れて取材した帰りに、家の周りをうろうろしてた年輩の紳士に話を聞いてます。やはりイヌのことで抗議するつもりで来たのだとか。
「昨日も来たんですが、留守宅にうかがうのは失礼だと思ってこうして立っているのです」
毎日来てるってよ! 絶対ヤバいヤツだって。
ネットやSNSが人間性を劣化させたのではありません。人間の本性はむかしから変わってないんです。
[ 2020/05/06 17:55 ]
未分類 |
TB(-) |
CM(-)