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ようやく始まった新ドラマ

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。ワンシーズン遅れて、ようやく新ドラマが出揃ってきました。

 まず先行したのが『MIU404』。いま一番信頼できる脚本家は野木さんだと、確信しましたね。ひとつ謝ります。以前私は『アンナチュラル』を3話くらいで観るのをやめて、出来すぎててつまらんと評したのですが、今年の正月に一気再放送で見直したら、後半になってもおもしろかったです。見切りをつけるのが早すぎました。
 で、『MIU404』ですが、社会問題と犯罪を絡めて、刑事ものの爽快感と同時に、真相のやりきれなさで若干の後味の悪さを残すあたりが、全盛期の『相棒』を彷彿とさせるレベルにまで迫ってます。
 エンターテインメントですから、必ずしも社会性を打ち出す必要はないのですが、社会の不条理や、社会問題に向き合う視点がない作品は、薄っぺらになりますよ。

 予想外の拾いものが、『私の家政夫ナギサさん』。ためしに原作のマンガをちょっと読んでみたら、ものすごい荒削りな作品で驚きました。ヒロインの会社の同僚なんか全然キャラが立ってないし、仕事の具体的な内容が描かれてないので、ヒロインがなんで落ち込んでるのかとか説明不足なんです。マンガは、コマの合間やコマに描かれてないことを読者が想像で補って読むものなのでそれでも許されるけど、そのままでは実写ドラマにはできません。
 だから逆に、この原作の可能性を見抜いて権利を取ったプロデューサーがスゴいなと。ドラマは脚本家がキャラや設定に具体性と現実感を大幅に加味してます。ナギサさんのキャラもたぶん大森南朋さんのイメージに合わせて調整したのでしょう。その辺の仕事がとてもうまくいってます。
 ただ、第1話に詰め込みすぎたせいか、2話から内容が薄くなってしまったのが気になるところ。中盤以降の巻き返しを期待します。

 そしてなんといっても真打ちが、『半沢直樹』。これは絶対コケさせないでしょう。作り込みや所作が重厚すぎて、もはや時代劇ですよ。
 銀行ってこんなヤなヤツばっかりいるの? って心配になるくらいにヤなヤツのオンパレード。監督がタランティーノさんだったら、ラストで全員、火炎放射器で焼き殺されます。
 ひとつわからんのは、猿之助さんが演じるキャラがなんでそこまで半沢を嫌ってるのかってこと。香川さんが演じる上司を半沢がおとしめたことへの報復とかいってるわりに、あっさり裏切ってるじゃん。だったらすでに半沢を追い込む動機が消滅してるよね?
 以前、会社の文化史をまとめた『会社苦いかしょっぱいか』で指摘したのですが、『半沢直樹』の視聴者の大半は、現実の会社では、半沢みたいに会社に楯突くひとの足をひっぱる側なんじゃないの? 「空気読めよ!」「会社とかよのなかってのは、そういうもんなんだよ!」みたいなこといって、上司にへつらい、会社の不正を見て見ぬフリしたり、顧客をダマしてカネをむしり取るようなことをしてるんじゃないの? そんなひとたちがテレビの前では半沢に肩入れしてるのが、なんとも不思議です。
[ 2020/07/26 19:33 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)
プロフィール

Author:パオロ・マッツァリーノ
イタリア生まれの日本文化史研究家、戯作者。公式プロフィールにはイタリアン大学日本文化研究科卒とあるが、大学自体の存在が未確認。父は九州男児で国際スパイ(もしくは某ハンバーガーチェーンの店舗清掃員)、母はナポリの花売り娘、弟はフィレンツェ在住の家具職人のはずだが、本人はイタリア語で話しかけられるとなぜか聞こえないふりをするらしい。ジャズと立ち食いそばが好き。

パオロの著作
つっこみ力

読むワイドショー

思考の憑きもの

サラリーマン生態100年史

偽善のトリセツ

歴史の「普通」ってなんですか?

世間を渡る読書術

会社苦いかしょっぱいか

みんなの道徳解体新書

日本人のための怒りかた講座

エラい人にはウソがある

昔はよかった病

日本文化史

偽善のすすめ

13歳からの反社会学(文庫)

ザ・世のなか力

怒る!日本文化論

日本列島プチ改造論(文庫)

パオロ・マッツァリーノの日本史漫談

コドモダマシ(文庫)

13歳からの反社会学

続・反社会学講座(文庫)

日本列島プチ改造論

コドモダマシ

反社会学講座(文庫)

つっこみ力

反社会学の不埒な研究報告