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ケチな山賊とフェイクなキラーコンテンツ

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。前回のブログで、レジ袋の価値を認めるならカネを払って買い支えるのが当然で、有料化は正しいのだと説明しました。便利なものをタダで寄こせというのは強盗や山賊の理屈だと。
 案の定、私の説明を理解できず反発してるケチな山賊どもがいるようです。では、エコ批判のスーパースター武田邦彦さんが披露している昔話を紹介しましょう。
 レジ袋が普及しはじめた1970年前後のことだと思われますが、レジ袋の素材であるポリエチレン製造会社のひとが、「スーパーに行くと自分たちがあれほど苦労して作ったものがタダで配られているのを見ると悲しい」と武田さんに本音を漏らしたのだそうです。(「レジ袋」と「余り物」

 ほら、やはりメーカーのひとだって、自分たちが頑張って作った製品を消費者に買ってほしいと思ってたんですよ。
 日本のものづくりを守れとかいうけれど、ものづくりには、製品を買ってくれる末端の消費者の存在が欠かせません。消費者が製品を買うことが、生産者にとってどれほど励みになるか。
 これまでレジ袋はタダだったというのは厳密にいうと間違いです。これまでは商品の価格に転嫁されていて見えなかっただけ。レジ袋有料化はそれを見えるように、本来あるべき姿に戻したのだから、フェアなんです。
 しかもすでにレジ袋の大半は中国などからの輸入物です。レジ袋愛好家のみなさんが買い支えてあげないと、いずれ国内のレジ袋製造業は撤退し、すべて輸入になりますよ?

 さて、今回のメインはここからです。
「レジ袋は、本来捨てていた石油の余り物成分で作っているからエコなのだ。割りばしやおからのような廃物利用だからエコなのだ」という説。
 この説は、エコ批判論者の間では非常に人気のあるキラーコンテンツとなっていて、鵜呑みにして拡散してるひとが非常に多いんです。
 でも私はこれにフェイクのニオイを嗅ぎ取りました。ポリエチレンのレジ袋が普及したのは1970年代、原料はナフサです。余り物だとしても、全世界規模では莫大な量になったはず。大量のナフサをどこにどうやって捨てていたのだろう?
 で、探してみたのですが、60年代以前はナフサを捨てていたなんて証言は、まったく見つかりません。ヘンですねぇ。

 このキラーコンテンツの提唱者も武田邦彦さんだといわれてます。本当のところはどうなのか。じつはこれについても、先ほど紹介したネット記事で武田さんご本人が弁明をしています。
 60年代までは、ポリエチレンは用途が限られてたので、捨て値同然の安値で取引されていた。しかしいまではさまざまな用途があるので、まあまあのものになっている。
 武田さんの主張をまとめるとこんな感じです。捨てていたなんて自分はいってねえよ、とおっしゃりたいようです。武田さんは主張を微妙に曲げていいわけをすることが多いのですが、この記述を信用するのなら、ナフサやポリエチレンを捨てていたという説は、武田説を誤読したひとたちが広めたフェイクだということになります。
 いずれにせよ、ナフサが余りぎみだったというのは昔話です。いまではまあまあどころか、必要不可欠な素材となってます。
 日本ポリエチレン株式会社のサイトのトップページには、原料のナフサの価格高騰のため、ポリエチレンの出荷価格を値上げさせていただきますというお知らせがずらっと並んでいます。これだけ強気で値上げできるのは、需要がある証拠です。
 レジ袋の生産量や消費量の具体的なデータをなぜか業界団体は公表してくれません。なので業界団体が公表してるおおまかなデータからの推測になりますが、現在、ポリエチレン出荷量全体のなかでレジ袋として使われるのは、多く見積もっても、せいぜい数%じゃないでしょうか。他に使いみちが山ほどあるのだから、仮にレジ袋が全面禁止になったとしても、ナフサやポリエチレンが余って困るなんてことは、現在ではありえません。

 長年石油会社に勤務して現場を見てきた元技術者の財部さんが解説している記事がこちら。

レジ袋などのプラスチックは石油の余り物で作られている?

 レジ袋の原料のナフサは大量に輸入しているし、余ってるから捨てるなんてありえないし、廃棄する方法もない、と断言してます。やっぱりそうだよねえ。割りばしやおからとは全然違うんですよ。
 財部さんは現場経験にもとづいて、技術者らしい明快な論理でわかりやすく記事を書いてます。べつの記事では、現代の技術では、ナフサなど石油製品をどれくらい作るかは需要に応じて調整可能であり、ムダな余り物ができるなんてこともないと教えてくれます。レジ袋を削減すれば、それだけ原油の節約になるともいってます。
 なのに、ですよ。やはりというか、論点をずらしまくった批判コメントがついてますね。このかたは、レジ袋は余り物で作るからエコというフェイク説に「説得力」を感じて信じてしまったようです。
 詐欺にダマされるのは、詐欺師の言葉に説得力があるからです。発言内容に説得力があるかどうかと、発言内容が事実であるかどうかは、無関係です。往々にして、ウソのほうが説得力があるから困るのです。

 もうひとつ、最近人気のキラーコンテンツについての疑惑も検証しておきましょう。
「レジ袋は海洋漂着ゴミの0.3%しかないのだから、レジ袋削減は無意味だ」
 これを得意げに吹聴してるひとは、当然、その元になった調査結果に目を通したのでしょうね? え? 見てないんですか? 見てないのに鵜呑みにして拡散してるのですか? まあ、そんなことだろうと思いました。
 たぶん根拠となってるのは、この環境省の調査結果だと思います。
 ちょっと目を通してみましょうか。たしかに、海岸への漂着ゴミではレジ袋が少ないのですが、沖合の漂流ゴミではレジ袋の分布密度が高かった、とも書いてあります。ええ~聞いてないよ~。広い大海原に、目視でもわかるほどレジ袋が漂ってるって事実は、無視するには重大すぎます。
 この調査結果全体を読めば、海全体には大量のレジ袋が漂流しているが、海岸に漂着するのはそのうちのごく一部なのではないか、という解釈が成り立ちます。
 調査結果から漂着ゴミのデータだけを都合よくつまんで、レジ袋削減は無意味だと結論づけるのは情報操作、印象操作です。

 今回私は、ネット上の資料だけで検証しました。ということは、中高生でもやる気になれば私と同じ検証ができたはずです。なのに多くのオトナたちが、こんな簡単な検証すらせずに、フェイクな言説を疑うこともなく広めてるのはあきらかな知的怠慢です。
[ 2020/08/30 09:42 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)
プロフィール

Author:パオロ・マッツァリーノ
イタリア生まれの日本文化史研究家、戯作者。公式プロフィールにはイタリアン大学日本文化研究科卒とあるが、大学自体の存在が未確認。父は九州男児で国際スパイ(もしくは某ハンバーガーチェーンの店舗清掃員)、母はナポリの花売り娘、弟はフィレンツェ在住の家具職人のはずだが、本人はイタリア語で話しかけられるとなぜか聞こえないふりをするらしい。ジャズと立ち食いそばが好き。

パオロの著作
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歴史の「普通」ってなんですか?

世間を渡る読書術

会社苦いかしょっぱいか

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