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修復できそうにない分断

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。社会の分断が叫ばれるようになって久しいのですが、一番やっかいなのは、根拠のない陰謀論や都市伝説を信じる者と、信じない者との分断であるように思えます。
 先日のアメリカ大統領選挙でもそれが如実に現れてました。トランプやその熱狂的支持者たちは、票が盗まれたなどと、たわごとをがなり立ててますが、具体的な根拠や証拠はまったく示されません。それこそが、都市伝説や陰謀論に共通する特徴です。
 ツイッター上で流れた主張なんて、ヒドかった。検索すると、トランプ票がバイデンの票に変換されるシステムが見つかった! なんて情報が拡散していて、最初はジョークのネタなのだろうと思いましたけど、違いますね。あいつら本気で信じてます。
 そんな便利なシステムがホントにあるのなら、トランプがまっ先に飛びついて、自分の票に変換しまくってたはずです。なにしろトランプは、自分が不利になる郵便投票を減らすために、ポストを撤去したり、郵便局を閉鎖したりといった卑怯な妨害工作を、おともだちの郵政長官と結託して実行してたんですから。
 ズル大王のトランプが、票を変換できる夢のようなシステムをスルーするはずがありません。それとも、トランプ票をバイデン票には変換できるのに、その逆はできないの? どんな原理のシステム?
 ちょっと考えるだけでも矛盾だらけで、これが都市伝説にすぎないことは明白なのに、日本人のなかにも、その都市伝説を真に受けてるひとたちがいるんだから困ったもんです。
 すると、陰謀論や都市伝説の信者はムキになって噛みついてきます。
「票を変換するシステムが絶対ないって証明できるのかよ!」
 そんなことをいってると、みなさんが大好きな安倍前総理からも叱られてしまいますよ。国会で野党議員に疑惑を追及され、「それは絶対ないと証明できるのですか」と質問された際に安倍さんは「ないことを証明するのは、悪魔の証明といいまして、不可能です」と苦笑しながら答弁してました。
 あるという証拠は、たったひとつでもあれば存在証明になります。しかし、ないという説明は何百回重ねたところで、あした「ある証拠」が出てくる可能性を否定できません。だからないことは永久に証明できないのです。

 これまでわれわれは、都市伝説や陰謀論、もっと広い意味ではオカルトや捏造歴史観も含め、根拠のない言説に寛容すぎたんじゃないでしょうか。その手の事柄を理路整然と真正面から否定すると、反論できない連中は、「なに、マジになってんだよ、遊びなんだから、楽しむぶんには、いいじゃねえか」と、おちゃらけてごまかします。
 こちらとしても、まあ、マジでないならかまわないけど……と追及の手を緩めてました。でも、あいつら本心では、かなり本気で信じてるんですよ。
 そんな連中がどうやら、気づいてしまったようなんです。政治という手段を使ってマジョリティになれば、自分らの妄想を真実にまつりあげ、批判してるヤツらを政治的圧力で黙らせることができるってことに。
 それが現実になってしまったのが、トランプ政権の4年間でした。
 自分が認めたくない事実は「フェイクニュースだ」と一蹴し、反論できずに追い込まれると「魔女狩りだぁ」と泣きごとをいう。その一方で、毎日ツイッターにでまかせと他人の悪口を書きこむ。そこには事実に基づいた論理思考なんてひとかけらもありません。だけど、政治の力を使うとそれを正当化できてしまうのです。
 こんな人間を熱烈に支持してた層と、陰謀論や都市伝説を信じる層が重なるんです。彼らがやっかいなのは、自分の間違いや負けを決して認めようとしない態度です。論破されてもなお、ヘリクツ・感情論・論点ずらしで反論し続けますが、その反論にも当然根拠はありません。

 コロナにも、当初は懐疑論がたくさん出てました。どんなことにも懐疑論は必要です。ただし、まともな思考力の持ち主なら、その後の経過を見ていれば、さすがにタダゴトではないな、と考え直したはず。自分が間違っていたことがわかったら、懐疑論は引っ込めなきゃいけません。間違いや負けを認めたくないからといって、懐疑論を唱え続けるのは反則です。
 トランプやその支持者はいまだにマスク着用を拒否してますが、彼らは自分の間違いを認めたくないだけです。そういうのは懐疑論とはいいません。タチの悪い意地っ張りです。
 私もじつはマスクが嫌いで、去年までは花粉症のヒドい時期以外にマスクをしたことなんてありませんでした。マスクの効果も疑問視してました。でも、日本で当初もっとも懸念されていた満員電車での大規模なクラスター感染が起きなかった事実を見れば、人混みでみんながマスクをすることで、かなりの予防効果が発揮できるのだと、認めざるを得ません。だから私も周囲にひとがいるところでは素直にマスクをします。べつに、考えを変えたことを恥だとかカッコ悪いだなんて思いません。

 しばらく前に、レジ袋はエコという説は都市伝説にすぎないし、有料化は経済学的な必然だったという話をしたときも、私はここに到るまでの経緯を数十年さかのぼって調べ、それを根拠に論証しました。それに対してまともな反論はひとつもなかったです。バカはおまえだ! みたいな悪口やら、事実関係を検証することもなく、自分のアタマの中で都合のいいヘリクツこねて反論したつもりになってるものばかり。
 一番笑ったのは、レジ袋の有料化は財産権の侵害だ! という主張。スゴい理屈ですよね。そのひとは、店の備品のレジ袋を自分の財産だと思ってるんですよ。
 これまでずっとそんな反応を山ほど見てきました。こちらがいくら苦労して事実を調べて論じても、都市伝説や陰謀論、オカルト、歴史捏造の信者を説得して考えを変えさせることはほぼムリなのだと、あきらめました。
 彼らはそもそも、自分は絶対正しいと信じていて、考えを変えるつもりがないんです。一度その手の怪しい理論に取り憑かれたひとは、おそらく死ぬまで変わらないのでしょう。彼らとの分断が埋まることはないと思います。
 それでも私は事実を調べて本を書くことをやめません。たとえ少数であっても、事実を知ることで自分の認識を変える用意があるひとたちに向けて、私は語り続けます。
 陰謀論者を治療するクスリはないけれど、まだ陰謀論やインチキ理論に取り憑かれてないひとたちに、事実にもとづいた思考をワクチンとして打つことならできるので。
[ 2020/11/20 20:05 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)
プロフィール

Author:パオロ・マッツァリーノ
イタリア生まれの日本文化史研究家、戯作者。公式プロフィールにはイタリアン大学日本文化研究科卒とあるが、大学自体の存在が未確認。父は九州男児で国際スパイ(もしくは某ハンバーガーチェーンの店舗清掃員)、母はナポリの花売り娘、弟はフィレンツェ在住の家具職人のはずだが、本人はイタリア語で話しかけられるとなぜか聞こえないふりをするらしい。ジャズと立ち食いそばが好き。

パオロの著作
偽善のトリセツ

歴史の「普通」ってなんですか?

世間を渡る読書術

会社苦いかしょっぱいか

みんなの道徳解体新書

日本人のための怒りかた講座

エラい人にはウソがある

昔はよかった病

日本文化史

偽善のすすめ

13歳からの反社会学(文庫)

ザ・世のなか力

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パオロ・マッツァリーノの日本史漫談

コドモダマシ(文庫)

13歳からの反社会学

続・反社会学講座(文庫)

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反社会学の不埒な研究報告