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『進撃の巨人』は熱狂を拒否する傑作

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。『鬼滅の刃』のアニメを初回だけ観てやめた私ですが、『進撃の巨人』には、ハマってます。シーズン3の後半が怒濤の展開だったので、続きがずっと気になってたのですが、ファイナルシーズンは期待を遙かに超えてました。原作コミックは読んでないので、これほどまでに戦争のおぞましさと哀しさを描く展開になるとは。
 なぜ『進撃の巨人』をもっと話題にしないのか、と世間に問いたいくらいです。

 その理由は、わかる気がします。『進撃の巨人』は熱狂を拒否する作品だからです。熱狂に不可欠なのは感情移入。正義と悪の戦いを描くエンタメ作品はほとんどの場合、主人公側が正義なので、観る側は安心して主人公に感情移入できるのです。
 『進撃』もシーズン3まではそういう要素がありましたけど、ファイナルでは、もうファンに媚びるのをやめたのかな、と思うくらい吹っ切れた感じです。キャラクターたちも少しオトナになり、見た目からして甘さやかわいらしさを排除してますし。
 放送が始まったころにネット上の感想を読んでみたら、ファイナルになって話がわからなくなったという意見がありました。そのひとは、近現代の世界史の授業をサボってたのではないですか。『進撃』のファイナルが現実の世界史をモチーフにしていることは、わかりやすすぎるくらいです。

 エレンたちを苦しめた巨人たちが、壁の外では被差別民族であるという現実。下級の巨人たちは消耗品の武器や盾として戦闘に投入され、まったく人間扱いされてません。そんな不条理な社会で名誉市民になれる唯一の道が巨人戦士の継承なので、軍国少年・少女たちは、手柄を立てて認められるべく、お国のために命を賭けて戦ってます。その姿もまた、痛々しい。人々は、会ったこともない敵を悪魔と呼んで憎みますが、その敵は、自分たちと同じ人間です。日本人を連想させる民族は、資源の獲得だけを目的にエレンたちに取り入ろうとするエコノミックアニマルとして描かれます。
 近現代の世界史をおおまかにでも知っている者なら、これらすべてが、現実の世界史の戯画であることにすぐ気づくはず。人類の黒歴史を連想させる文明批評的要素が、物語への熱狂を阻むのです。
 おそらく『進撃』の作者は、戦争の正義やら大義なんてものを信じていないのでしょう。どちらの側も、どの国も、正義にしないんです。その視線は、あくまで冷ややかです。
 物語の幕開けで無辜の被害者として登場したエレンが、ファイナルでは敵国に乗り込んで、民間人を大量虐殺する加害者となる。純朴な少年だったアルミンも、軍港を根こそぎ焼き払う。それは普通のエンタメなら、復讐を果たした爽快感につながるはずのシーンです。やったー、デススターを爆破したぞ! みたいな。
 でも『進撃』は、殺す側も殺される側も、鬼でも悪でもなく、知性と感情のある人間として描いてるので、観てて悲しくなるばかり。
 『進撃』は戦争を美化しません。戦争は復讐の無限連鎖でしかないし、戦争がもたらすのは不幸と哀しみだけ。何世代も前の人々がした戦争の結果が、なんの関係もない後の世代まで苦しめる不条理なもの。自由を求めて戦ってきたはずなのに、どうしてこうなってしまったのか。兵団のメンバーたちが苦悩する一方で、ますます戦争に熱狂し、のめり込んでいく国民たち。
 戦争と人間のおぞましさをエンタメ作品に盛り込もうとする姿勢はもっと評価されてもいいんじゃないですか。だからといってメッセージ性だけが浮くこともなく、オトナの鑑賞に耐える作品になってます。なにより『進撃』は、提示した謎を少しずつ回収しながら話を進めていくところがいいんです。海外ドラマで多いんだけど、謎を増やすばかりでなかなか回収しないのって腹立つよね。

 原作は近々完結するそうですが、ここまでくると、この作品がハッピーエンドになることは、まず、期待できません。だからといって、あまりに救いのない結末もエンタメとしてはどうかと思います。できれば、ひとすじの希望を残す終わりかたであってほしいな、と。
[ 2021/03/15 21:29 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)
プロフィール

Author:パオロ・マッツァリーノ
イタリア生まれの日本文化史研究家、戯作者。公式プロフィールにはイタリアン大学日本文化研究科卒とあるが、大学自体の存在が未確認。父は九州男児で国際スパイ(もしくは某ハンバーガーチェーンの店舗清掃員)、母はナポリの花売り娘、弟はフィレンツェ在住の家具職人のはずだが、本人はイタリア語で話しかけられるとなぜか聞こえないふりをするらしい。ジャズと立ち食いそばが好き。

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