こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。何を以て、良書とするか。その基準は人それぞれにいろいろあるでしょう。私がそのひとつとしてあげたいのは、読んだ後しばらくしてから「そういえばあの本にあんなこと書いてあったよな」と思い出すかどうか。それだけ深く本の内容が記憶に刻まれたという証拠ですから。
そんな一冊が、ウィリアム・マッカスキルさんの『〈効果的な利他主義〉宣言! 』(みすず書房)。だいぶ前に図書館で読んだので手元にはないのですが、ニュースなどを見てるときに、ふと思い出すことがあります。
本の主張を簡単にまとめると、「寄付をするなら、本当に相手にとって効果があるかどうかを確かめてからやれ」。寄付に限らず、ボランティア活動なんかもそうですが、相手のためになる、助けになると思って善意でやったことでも、それが相手に悪影響を与えることも現実にあるんです。だから、善意の行為は投げっぱなし、やりっぱなしで自己満足してはいけない。結果を客観的に検証するところまでやるべきだと。
私がこの本に共感できたのは、私の著書『偽善のトリセツ(単行本は『偽善のすすめ』)』の主張と重なるところがあるからです。
たとえ動機が偽善であったとしても、その行為がだれかの役に立ってるなら、それは有益な行為だと私は主張しました。大事なのは、誰かを救えた、だれかの役に立ったという結果だけであり、偽善かどうかなんて動機はどうでもいい。
マッカスキルさんは具体的な例で説明します。アフリカの貧しい地域に、こどもが遊んで回すと水を汲み上げられるような仕組みの井戸を作る運動が過去にあったそうです。おもしろいと評価した人たちからかなりの寄付が集まって設置されたのですが、実際にやってみると、こどもはすぐに飽きてしまい、結局オトナがしぶしぶ回すハメになり、普通の井戸より汲み上げるのが大変だとわかりました。善意の寄付が逆効果になってしまいました。
逆に、因果関係は完全に解明されてないけど、ものすごく役に立っている寄付もあります。貧しい国のこどもたちの教育を支援したい人たちは、本や教科書を寄付しようなどと考えがちですが、やってみると効果はあまりないのだそうです。
ところが、貧しい国のこどもたちの寄生虫を駆除する医療活動をやったところ、就学率と生活レベルが劇的に向上することが、あきらかになりました。
つまり、貧しい国の教育レベルを上げるなら、本の寄付よりも寄生虫駆除活動に寄付したほうが何十倍も効果があるんです。
目的と無関係に見えることであっても、効果があるのがあきらかなら、そちらに積極的に寄付したほうが、多くの人を救えるというのが著者の主張です。そのためにも、やはり寄付が効果をもたらしたかどうかの検証が重要になってきます。
もうひとつ、この本が印象に残ってる理由があります。「自分ひとりがやったからって社会を変えることなどできやしない」、って考えは間違っていると、マッカスキルさんはいうんです。
意外でしたね。現実的で合理的な判断を重視する人ほど、ひとりの力では何もできやしないみたいなシニカルな態度をとりがちな気がしますが、そうではなく、あなたが行動を起こすことには意味があるのだと、精神論でなく理詰めで説明してくれます。それを知りたいかたは、ぜひ本書を読んでみてください。
[ 2021/08/19 19:43 ]
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