こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。こないだの『高校生クイズ』の第1問は、私の『13歳からの反社会学』を読んでれば正解できた問題でした。年間でもっとも出生数が多い日は何月何日か、って問題。他にも出生日にまつわる意外な事実を紹介してますので、知的好奇心旺盛な中高生なら、きっと私の本をおもしろがってくれると思います。
さて、夏ドラマですが、序盤でおすすめした3本、『ハコヅメ』『TOKYO MER』『シェフは名探偵』が最後までおもしろさをキープしたまま終わりました。
『ハコヅメ』は、物語の主軸となっていた事件の真相がちょっと弱い。あれならもっと早く逮捕できたんじゃないの。まあ、本格ミステリを目指した作品ではないので、よしとします。
主演2人に加えて、刑事課の三浦さん山田さん、そしてムロツヨシさん、この5人のコメディ演技センスが卓越してるため、表情の乏しい西野七瀬さんと標準語のセリフ回しがぎこちない千原せいじさんのヘタさが目立ってしまいました。
あれ、なんか悪口ばかりになってしまいましたけど、結論としては、シーズン2がぜひ観たい。それに尽きます。
『TOKYO MER』の最終回は、重いテーマを突きつけてきました。どんな人間であろうと、目の前の命を救うのが医師の務めである。たとえその患者が世界一憎いヤツだったとしても。
日本人の8割を占める死刑賛成派のみなさんは、喜多見医師の信念に胸を打たれませんか。極悪人の命を救う医療に税金を使うな、さっさと殺せばいいとおっしゃいます?
それより気になったのは、テロリストが喜多見医師を恨む理由がよくわからないこと。過去に自分の命を救ってくれた医師に復讐する? よのなかは不条理だと思い知らせる?
なんだか意味不明です。自分を殺そうとした者に復讐するならわかるけど、逆ではまるでスジが通らない。テロがテロらしくあるためにテロをやってるようにしか見えないんです。
これに限らず、最近のヒーローものなどでは、悪の動機がよくわからないことが多いんです。
最初にこの問題を意識したのは、2012年公開のバットマン映画『ダークナイトライジング』でした。悪役のベインがなぜ街を破壊するのか、理由がはっきりしない。彼の発言をまとめると、「リア充は死ね」みたいな感じ?
アベンジャーズシリーズの映画で、悪役サノスが全宇宙の半分の生命体を消滅させるって筋書きにも唖然としました。それ、なんの意味があるの? 狭い島国に人口が増えすぎて食糧や資源が足りない、っていうのならともかく、宇宙は広いよ。それをさらにスカスカにしてどうすんの。消費者を半分にしてしまったら、宇宙経済が破綻したりしないのかな。マーベルユニバースには経済学者がひとりもいないのでしょうか。
しばらく前にWOWOWで観た『僕のヒーローアカデミア』の劇場版。私は原作マンガもテレビアニメもまったく見たことがありません。にもかかわらず、作品の設定をすんなり理解できました。ヒーローもののツボを心得ている良作で、これならこどもにせがまれて映画館に連れて行った予備知識ゼロのお父さんでも居眠りせずに楽しめたことでしょう。
でも、これもやっぱり悪役たちの動機が意味不明。自分を虐げてきた世間に復讐したいわけ? そのために、世界は強者が支配すべきだとかいうもっともらしい理屈をひねり出してるのだけど、そんな世界で暮らしてあんたは何が楽しいの? と問いただしたくなります。
いまは悪を描きづらい時代です。ウソと悪口をネットで毎日垂れ流し、差別と暴力を人々にけしかけたトランプ元大統領なんて、一昔前のヒーロー映画なら、完全に悪のボスキャラです。ラストでヒーローの必殺技を受けて爆発するところで観客が拍手喝采するはずだったのに、いまの社会には、トランプをヒーロー視する者がたくさんいます。アメリカだけでなく日本にも。
仮に映画やドラマでトランプをモデルにした悪を登場させたら、トランプ支持派がブーブー文句をいうでしょう。悪も多様化してるため、万人に共通の悪を設定するのが難しくなりました。だから、万人相手のエンタメ作品では、悪の動機をぼかし、抽象化・記号化した悪を登場させることが増えたのかもしれませんね。
[ 2021/09/20 12:51 ]
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