こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。本や映画やマンガなどに関して、私はわりと他人のおすすめをあてにするほうです。自力だけでおもしろいものを探し当てるなんてムリですからね。
おすすめ作品で興味を惹かれたものがあれば、とりあえず読んでみる、観てみる。それでおもしろければ、めっけものだし、つまらなかったとしても、べつにがっかりはしません。
読者のかたがメールやツイッターなどでおすすめしてくれた本も、へー、そんなのあるんだ、と思ったものは図書館で読んでます。先日も読者のおすすめ本のなかから『文武両道、日本になし』と『妻たちの企業戦争』を読みました。『文武両道……』は、文武両道をきちんと実践してるのは日本でなく海外のほうで、日本はスポーツバカを作ってるだけじゃないか、みたいな指摘が小気味よい。
『妻たちの……』はまだ1章しか読めてないのですが、出だしの「美人妻ばかりが住む団地がある」というくだりからして不穏な気配に満ち満ちてます。フィクションではなく、昭和時代のルポなのですが、読んでいくとほぼホラーです。
その団地というのはある大手商社の社宅なので、住んでるのは全員、男性社員とその家族。男性社員はみんな仕事が忙しすぎて社内結婚をする人が多かったため、会社は女性社員を戦力としてではなく、最初から男性社員の花嫁候補として顔で選んで採用してました。だからこの団地には美人妻ばかりが住んでたんです。
そこへ新たに越してきた夫婦の奥さんは、珍しく社外で知り合って結婚した人。よそ者である彼女が社宅で遭遇する超ヒエラルキー社会。会社での夫の地位がそのまま団地内の妻たちの地位になっているのです。コワいよー! これ、出版当時ドラマ化とかされなかったのかね。
ついでなんで、レビューに関して思うところをお話ししておきます。私はエンターテインメントの批評、レビューは基本的にほめるだけでいいと考えてます。自分が気にいったものを他人におすすめして、おもしろさを誰かとわかちあいたい、それがレビューを書く自然なモチベーションです。
なので自分もブログではなるべく、おもしろかった本やドラマや映画だけを紹介するように心掛けてます。つまらないものはスルーでいい。
政治や社会システムは、不合理不条理を批判して圧力をかけることで改善されてきました。だからスルーせずにどんどん辛口批判をしなきゃいけません。でも、どうしようもないエンタメ作品をメッタクソにやっつけたところで、作者がいい作品を作るようになるかというと微妙です。やる気をなくすだけかもしれません。
これつまらないから観るな読むな、と他人に命令する権利なんかないですし。きみもこの作品を観て、私が感じたつまらなさを追体験してみたまえ、って不毛な共感を求めて他人の時間を奪うのもどうかと思いますよ。
時間のムダという意味でいえば、そもそも私は本でも映画でも、つまらないなと感じた時点でやめちゃいます。で、その作品については何も語らない。それが精神衛生上もっともいいやりかたです。つまらない作品に最後までつきあったあげくに、批判レビューまで書いても、二重三重にイヤな気分を増幅するだけじゃないですか。
[ 2021/10/12 17:49 ]
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