こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。春ドラマはまだ序盤ですが、早くも私が選ぶ今期ベストの作品が確定しました。その作品は『しずかちゃんとパパ』。
というのはこの作品、一足早く3月にはじまったので、すでに全話放送が終了してるんです。今期ベストというか、今年のベスト作品になりうるくらいの素晴らしいドラマでした。
コーダってご存じですか。アカデミー賞を獲った『コーダあいのうた』で最近知ったかたが多いんじゃないかと思いますが、ろう者、聴覚障害者の家庭に生まれた、耳が聞こえるこどものことなんです。私はまだ映画を観てないので内容を詳しく知りませんが、コーダと親の関係というテーマは『しずかちゃんとパパ』と共通です。
私は以前からコーダと呼ばれる人たちがいることを知ってました。私は30代で突発性難聴を発症し、40代で片方の耳がほぼ聞こえなくなりました。聴覚障害は両耳とも聞こえない場合のみ認定されるので、私は聴覚障害ではなく、単に聞こえづらくて不便なだけの人なんだけど、まあそういう経験もあって、聴覚障害や手話に興味を持つようになりました。手話は普段使ってるわけじゃないので、勉強してもすぐに忘れちゃいますけどね。
ろう者同士で結婚した場合でも聴覚障害は必ずこどもに遺伝するとはかぎらないので、耳が聞こえるこどもが生まれることもあるわけです。その子は聞こえるけど、親とのコミュニケーションのために手話を身につけます。そして必然的に、ろうの親と周囲の人々との通訳としての役目を担わされます。たとえば親が病気になれば病院についていったりとか。でもそれが長年続くことで、コーダである子は家族に縛られてしまうこともあります。
『しずかちゃんとパパ』のしずか(吉岡里帆)はろうの父母の間に生まれたコーダです。母は早逝したので、写真館を経営する父(笑福亭鶴瓶)とずっと二人暮らしを続けてきました。
手話って手だけを使うものと思ってる人が多いのですが、表情で疑問形をあらわしたりするんで、手話を使う人は表情が大げさになりがちなんです。感情を顔に出さないのをよしとする傾向が強い日本人のなかには、大げさな表情をウザいと感じる人がいます。
しかもコーダは親の表情から気持ちを読み取る能力にも長けているので、同級生の気持ちも先読みして行動してしまうことがあるそうなんです。すると、なんなの、あの子、気が効くのをアピールしてるつもり? あざとい! みたいに悪意で解釈されてしまったり。
ドラマの序盤では、しずかがバイト先のファミレスでそういう誤解を受けて孤立しています。そこへ、商店街の再開発事業を計画する企業の担当者(中島裕翔)がやってきて……という感じなのですが、この担当者の青年も、まったく他人に遠慮や忖度をせず、ホンネだけで生きている超正直人間なので周囲から浮いてるんです。まっすぐすぎて生きづらい2人が出会って惹かれあうことで、しずかは初めて家を出ることを意識するのですが、ろうの父を一人残していけるのか悩みます。
いいセリフもたくさんありました。親がこどもにしてやれるのは旅支度だけ、とか、壁を乗り越えてはいけないと思うんです、壁の向こうにいきたいのなら他に道が必ずあるはずです、とか。
コーダについてだけでなく、父世代がこどもだったころは手話が禁止されていたことなども調べた上で、それらの要素を無理なく物語に落とし込んでいる脚本家の力量に感心しきりだったのですが、脚本家の蛭田直美さんってかた、知らなかったんです。調べたら『これは経費で落ちません!』を書いた人だそうで、あれもいい作品でした。あの続編の企画がキャストのスケジュールでお蔵入りになったとしばらく前に聞きました。もしかしたら続編の代わりにオリジナルを任されたのかな? 原作ものも上手いし、こんなスゴいオリジナルも書けるなんて、野木亜紀子さんのライバル出現か?! とドラマファンとしては今後に期待しすぎてワクワクが止まりません。
このほかに私が毎週観てるドラマは3本。
『ナンバMG5』はありえない世界観を実写化してるんだけど、バカバカしさと熱さがうまく噛み合って、マンガ以上にマンガです。服は着替えられても、金髪と黒髪をどうやって変えてんだ、とかいろいろつっこみながら楽しめます。ワイルドスピード森川(笑)もアホなヒロインを好演。その母親役がなぜか、にしおかすみこさん。にしおかさんがいま雑誌で連載してる壮絶な実家のコラムもおもしろいですよ。あれもそのうち映画かドラマになるんじゃない?
『正直不動産』はNHKでしかできない企画でしょう。不動産業界から大量のCMを出稿してもらってる民放では、不動産業界の汚い手口をバクロするドラマは放送できませんよねえ。
『元彼の遺言状』は、おもしろいのかつまらないのか、よくわからないミステリ。綾瀬はるかさんのファンだから私は観ますけど。
[ 2022/05/03 21:53 ]
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