こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。この冬は珍しく5本もドラマを観てました。
私が選ぶ今期ベストは『罠の戦争』。以下、『女神の教室』『大病院占拠』『Get Ready!』『リバーサルオーケストラ』は順位なしの同率2位とさせてもらいます。
世間的には『ブラッシュアップライフ』の評価が高かったようですが、私は初回すら観てません。というのも、私は芸人としてのバカリズムさんは好きですが、バカリズムさんが脚本を書いたドラマや映画をこれまで一度もおもしろいと思ったことがないんです。なので今回完全スルーしたら、すごい評判。今後機会があったら観てみます。
私は昨年暮れに『銭の戦争』と『嘘の戦争』をTVerではじめて観て、ドハマリしました。そうして上がりまくった期待値のハードルを越えてきたのが、『罠の戦争』。
普通だったら、国会議員になり事件の真相を明らかにしたところで大団円を迎えそうなものなのに、心配になるくらい展開が早い。中盤で事件の真相をあきらかにしてしまってどうするのかと思ったら、終盤では、あれほど嫌っていた政治権力闘争に、主人公自身がのめり込み、どんどんイヤな人間になっていくんです。一筋縄でいかない、練り込まれた脚本に脱帽。
この脚本の後藤法子さんといい、前クール『エルピス』の渡辺あやさんといい、政治や社会の理不尽さに怒り心頭なご様子が作品からビシビシ伝わってきます。そういえばWOWOWでは野木亜紀子さんが沖縄の社会問題に斬り込んだ『フェンス』が始まりまして、これも初回から引き込まれました。社会派のエンターテインメントを書いてくれるのは女性脚本家だけですか。男性陣、どうした。
『女神の教室』は法科大学院を舞台とした教師と学生たちのドラマ。なんとなく行ってりゃ卒業できる大学と異なり、大卒後に通う法科大学院では、司法試験合格という結果を出さなきゃならないのでプレッシャーがケタ違い。最終回は卒業後の彼らが理想と現実の狭間で悩みながらも前に進もうとする姿を描いてました。あまり評判にならなかったのですが、とても良心的な秀作でしたよ。
『大病院占拠』は序盤、『ダイハード』パロディみたいな展開が不安だったのですが、物語が破綻しないように意外と丁寧に作り込まれていたし、何が正義なのかを考えさせる要素もあってエンターテインメントとしては合格点。
荒唐無稽な設定と堤幸彦さんの独特なおふざけ演出で賛否が分かれた『Get Ready!』ですが、それで敬遠してたならもったいない。手術不可能と余命宣告をされた患者たちがさまざまな理由で天才外科医の手術を受けるエピソードには秀逸なものがけっこうありました。娘を殺した犯人への復讐を遂げるまでの延命手術を願う父親とか、若年性アルツハイマーの妻を残して死にたくないために自身の病の手術を決断する夫とか、命と才能のどちらかを選ばなきゃならない芸術家とか。
『大病院占拠』と『Get Ready!』はどちらも設定自体が荒唐無稽だとの理由で、序盤で見切りをつけた人もいたようです。たしかに『大病院占拠』では病院を占拠する犯人グループがハイテクな鬼の面を被ってたり、日本で入手するのは困難な重火器や爆弾で武装しています。『Get Ready!』もお面を被るという設定被りは偶然としても、すべてが機械化された近未来的な手術室で、どんな複雑な手術でも執刀医と看護師のたった2人でこなしてしまいます。どちらも荒唐無稽な設定がいかにもマンガ的なので、私は最初、どちらもマンガ原作ものだろうと思いました。でも、どちらもオリジナル脚本でした。
近年、テレビドラマはマンガ原作に頼りすぎという批判があります。そうなったのは脚本家にはおもしろい設定のオリジナルは書けないという決めつけが局側にあったからじゃないですか。でも脚本家がこのレベルのオリジナル作品を書けることがわかったのだから、もうマンガ原作に頼らなくてもいいんじゃない? むしろ、どんどんオリジナルを書いてもらわないと、テレビドラマの可能性が開けませんよ。
『リバーサルオーケストラ』もマンガっぽいストーリーですが、これもオリジナル。この作品の門脇麦さんと『Get Ready!』の藤原竜也さんはクセ強めのキャラを演じて評価されてきた人なのに、今回は2人ともわりと普通の役柄でした。でもうまい役者は普通の人を演じても味があるんですね。
あと、チャイコフスキーの交響曲第5番の良さをこのドラマで知った人も多いのでは。私のおすすめはゲルギエフ指揮ウイーンフィルの演奏。ゲルギエフさんはプーチンの熱烈な支持者だったことで西側諸国での仕事を干されちゃってるみたいだけど、演奏自体の価値はそれとは関係ないので。
最後に、単発ドラマでぜひ紹介しておきたいのが、先日NHKのBS4Kで放送された『天使の耳 交通警察の夜』。東野圭吾さんの短編集を、前後編あわせて3時間くらいの作品にまとめたものです。前編だけだと、いくつかの事件の羅列でしかないのですが、後編で、すべてのエピソードがあるひとつの真相につながっているとわかって驚きます。この後編の見事な展開は、原作小説にはないオリジナルなんじゃないかな? まあ、いずれ通常のBSや地上波でも放送されると思うので、その日を楽しみにしててください。
[ 2023/03/29 20:00 ]
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