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秋ドラマと冬ドラマの感想

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。23年秋ドラマの感想を書きそびれていたので、24年冬ドラマの感想と一緒に書いておきます。
 まずは、それぞれの順位表から。

秋ドラマ
1『ゆりあ先生の赤い糸』
2『セクシー田中さん』
3『時をかけるな、恋人たち』
4『あたりのキッチン!』

冬ドラマ
1『舟を編む』
2『春になったら』
3『正直不動産2』
4『不適切にもほどがある!』

 秋ドラマのことを書きそびれたのは、『セクシー田中さん』の件があって、いろいろと調べたり考えたりしていたからです。
 途中までは、間違いなく秋ドラマのベスト候補でした。普段は地味で目立たず自己肯定感の低い田中さんが、舞台でベリーダンスをするときには別人のように妖艶さをふりまいて観客を魅了する。この2面性を見事に演じわけた木南晴夏さんを観た人は誰もが、この役を演じるのはこの人以外ありえないと思ったことでしょう。ストーリーやそれぞれのキャラの描きかたにも、ベタすぎない非凡なものが随所に感じられ、毎週の放送が楽しみでした。
 しかし、その好調さをかき消すかのような、ラスト2話の大失速によって、なんとも評価の難しい作品になってしまいました。
 そうなった経緯については原作者の芦原さんがブログで説明した上で自分の非も認めており、私はその誠実な態度に感心しました。そういうことをきちんと説明する人って案外少ないんです。こういう誠実な人だから、マンガできっと素晴らしいエンディングを描いてくれるに違いないと、マンガの完結を心待ちにしていたら――その直後に事態は急転直下、芦原さんの自殺という信じがたい結末を迎えてしまいました。

 私が憂慮してるのは、今回の件を受けて「原作改変は絶対悪」とする原作原理主義みたいな極端な考えが強まってしまったことです。
 この問題についてはもっと調べた上で、いずれ著書などで取りあげるつもりですが、とりあえず、実写は原作に忠実でなければならないという考えかたは間違いだとだけ、いっておきます。そもそも小説とマンガと実写作品(映画・ドラマ)はそれぞれ表現方法が根本的に異なる芸術なのだから、原作を何も改変せずに実写化することは不可能です。
 長年映画やドラマを観てきた私にとっては、原作と実写作品の内容が違うのはいつものことであり、原作と実写作品は別物だと割り切った上で愉しむことにしてきました。
 たぶん2010年前後からだと思いますが、原作レイプという言葉で象徴されるような、原作原理主義というか、原作の改変を許さない風潮が出てきたことに、私は危険なものを感じてたんです。
 原作に忠実だけどおもしろくない作品もあるし、原作を大幅に改変して傑作になった作品も多々あります。つまり、原作に忠実かどうかで作品を評価するのは無意味であって、あくまで、最終的な実写作品の出来だけで評価すべきです。
 どこまで改変を認めるかについての決まりなんてものはないし、原作者によって許容範囲が異なりますから、そこは作品ごとに原作者と実写版の脚本家、監督が話しあって決めるしかありません。
 ところが、たしか脚本家の野木亜紀子さんもツイートしてましたけど、脚本家が作品について原作者と話したくても、その機会を設けてくれないのだそうです。過去に実写化でもめた例について調べても、脚本家だけでなく原作者側からも同様の不満が上がってまして、どうもテレビ局でなく、出版社が脚本家と原作者の接触をジャマしてるような印象を受けます。
 芦原さんの自殺が衝撃的だったせいで、テレビ局に対する感情的な批判ばかりがあふれましたけど、原作者と脚本家との意思疎通を図ろうとせず、勝手に話を進める出版社の態度もかなり問題です。

 またいつものように話が長くなってしまいました。秋ドラマの総評に戻ります。
 『セクシー田中さん』はラストのヒドさで評価を下げてもなお、良い作品だったことは間違いないので、2位にしました。
 私が1位に選んだのは、多様性の時代の家族像を描いた『ゆりあ先生の赤い糸』です。ゆりあの夫が突然病気で意識のない寝たきり状態になってしまいます。それをきっかけに、夫に年下の男性の恋人と、女性の愛人と隠し子(?)がいることが発覚し、夫を自宅で介護するために彼らと同居生活をするという、はちゃめちゃな設定で、最初はコメディかと思いました。でも真面目でよく考えられたドラマなんです。きれいごとばかりでなく、互いがぶつかり合うなかで理解し合い、悩みながら、それぞれの道を選択していく骨太なストーリーで見応えがありました。

 過去にタイムスリップする物語を書く作家や脚本家が必ず直面する、辻褄あわせの高い壁。それを逆手にとって、仕事で辻褄あわせをするのが得意なヒロインがタイムパトロールにスカウトされて、恋と時空の辻褄あわせに奔走するコメディにしたのが、『時をかけるな、恋人たち』。アイデアの勝利です。
 冬ドラマの『不適切にもほどがある!』もタイムスリップものでしたが、こちらは辻褄あわせに関してはけっこう甘く、これで大丈夫か? と不安になる点がいくつもありました。でもクドカンさんの脚本は、ディテールが面白すぎるので、ストーリーやプロットに多少ボロがあっても許せちゃうのが困ったところ。
 一部で絶賛されてましたけど、私の評価はそこまでじゃなくて、冬ドラマの4位でした。というのは、八嶋無双の回とか、父娘の運命があきらかになる回とかは滅法おもしろかったのですが、いまいちな回も多かったので。
 単に過去を美化するのでなく、昭和にも令和にも、いい面も悪い面もあるという結論に着地したのは良かったのですが、現実社会の分断や対立は、寛容になろうとか、話しあおうとかいうメッセージで解決できる段階を越えてしまったのではないかという気もします。まあ、私とて希望を捨てたわけじゃないから、このデタラメな時代に向けて、本やブログで主張を発信し続けてるのですが。

 秋ドラマ4位は『あたりのキッチン!』。コミュ障のヒロインが料理で他人と心を通わせていくお話。各話のエピソードが大げさすぎない、いい話ばかりで、地味なんだけど不思議と記憶に残る作品でした。
 冬ドラマの『厨房のアリス』も似たようなコンセプトだったのですが、こちらはしょぼいミステリ要素を強調してしまったことで、何を描きたいのかよくわからない作品になってしまいました。ミステリ風味に味付けすればなんでも美味くなるってもんじゃないのよ。

 冬ドラマの1位に推すのは、まだNHKBSで放送中だけど『舟を編む』。これ、あまりにもおもしろすぎるので、邪道ですが最終回を待たずして、1位決定。
 じつは私、映画の『舟を編む』は序盤だけ観てつまらなかったので、そこでやめてしまいました。なのでドラマ版も観るつもりはなかったのですが、放送直前に、脚本が蛭田直美さんだと知って、とりあえず初回を観てみたら大当たり。危うくスルーするところでした。
 でも、こんな話だったっけ? 不思議に思って調べたら、原作小説の後半部分を、女性編集者・岸辺みどりを主役にしてのドラマ化だそうです。どうりで映画の序盤と全然違うわけだ。
 原作後半からのスタートですが、岸辺と編集部員らのやりとりのなかで、それまでの経緯が説明ゼリフにならぬよう自然に言及されているので、原作も映画も未見の人でもすんなり物語に入っていけます。このへんの手際の良さが、脚本の蛭田さんのただものでないところ。
 日本語の奥深さと、辞書づくりに情熱を燃やす人間たちのドラマが見事に溶けあったストーリーに毎回、やられっぱなしです。「あきらめる」に3つも意味があるなんて、知りませんでした。
 池田エライザさんの芝居は決して悪くはないのですが、もうひとつ光るところがあれば、なお、いいのになあと思うのは欲張りでしょうか。編集部の主任であるひょうひょうとした馬締を演じてる野田洋次郎さんという役者を私は初めて見たのですが、RADWIMPSのボーカルの人なんですね。私はミュージックビデオやテレビの音楽番組をまったく見ないので、曲は知っててもミュージシャンの顔を知らないことが多いんです。

 冬ドラマ2位は『春になったら』。もちろん脚本はあて書きだったんでしょうけど、木梨さんがべつの木梨さんを演じてるような独特なおもしろさがありました。もし木梨さんが芸人になってなかったら、こんな人生だったかもしれないと思えるような。
 画面の中にいるのは、まごうことなき木梨さんなんです。それでも浮いた感じがせず、ドラマとして成立してたのは、娘役の奈緒さんが完璧な演技で木梨さんの芝居を受けていたからです。親子の会話での絶妙なテンポや間合いといい、微妙な表情の変化だけでこころの内面を表現してしまうところといい、この人、天才じゃないの。
 みんなで手巻き寿司を食べるシーンで、木梨さんの「巻いて巻いて~」のセリフに笑えた人は、とんねるず世代。

 冬ドラマ3位は『正直不動産2』。前作で感じた新鮮さは減ったものの、サギまがいのやりかたが横行する不動産業界の闇を暴く続編としては、じゅうぶんな出来。今回特筆すべきは、新たに主人公のライバルとなった神木を演じたディーン・フジオカさん。どんな違法な手段を使ってでも不動産を売りまくるバケモノのような不動産営業マンを演じるディーンさんの、一切の人間的感情を捨てた目が怖すぎる。
[ 2024/04/14 17:44 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)
プロフィール

Author:パオロ・マッツァリーノ
イタリア生まれの日本文化史研究家、戯作者。公式プロフィールにはイタリアン大学日本文化研究科卒とあるが、大学自体の存在が未確認。父は九州男児で国際スパイ(もしくは某ハンバーガーチェーンの店舗清掃員)、母はナポリの花売り娘、弟はフィレンツェ在住の家具職人のはずだが、本人はイタリア語で話しかけられるとなぜか聞こえないふりをするらしい。ジャズと立ち食いそばが好き。

パオロの著作
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読むワイドショー

思考の憑きもの

サラリーマン生態100年史

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歴史の「普通」ってなんですか?

世間を渡る読書術

会社苦いかしょっぱいか

みんなの道徳解体新書

日本人のための怒りかた講座

エラい人にはウソがある

昔はよかった病

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ザ・世のなか力

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13歳からの反社会学

続・反社会学講座(文庫)

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