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占い師と防犯アドバイザー

「結婚運を占ってほしいんですけど」
「では、てのひらを見せていただけますか……はい、わかりました。あなたの結婚は、遅いか早いか、どちらかです」
「そりゃそうだ」

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。これが占いの基本的仕組みです。矛盾していることを両方いうから、どっちに転んでも、ほら当たったでしょ、といい張ることができるのです。「あなたは恋愛に関しては大胆だけど、慎重な面もある」なんてな。
 あいかわらずテレビでは、防犯対策特集をやってます。どの番組も「日本の治安は悪化している!」「振り込め詐欺に歯止めがかからない!」と恐怖と不安を煽っているのですが、先日来、当ブログでお伝えしているように、この10年で日本の治安は大幅に改善されてるというのが事実です。歯止めはかかってます。
 なのに、なぜ不安を煽るようなマネをするのでしょう? もしも治安がよくなったことが日本国民にバレてしまうと、ホームセキュリティー関連の企業や防犯アドバイザーの仕事と収入が減ってしまうからですか? だとしたら、治安の悪化を煽るのも、いま流行りのステマの一種という解釈でよろしいのかな?

 ということで、防犯アドバイザーが書いた本を何冊か読んでみました。そのなかの一冊『泥棒はなぜ「公園に近い家」を狙うのか』。
 この本によると、庭の芝生がきれいに手入れされていると、金持ちと思われて泥棒に狙われるのだそうです。庭が雑草だらけだと、戸締まりなどがだらしない家だと思われて泥棒に狙われるとも書いてあります。どっちに転んでも、ですね。
 このほかに泥棒に狙われやすい家としてあげられているのが、公園のそば、線路沿い、幹線道路沿い、二世帯住宅、神社から2km以内、近くに新築マンションがある、受験生がいる家、自動販売機のそば、近くに商店街がある、洗濯物を干している……などなどなど。
 これだけ条件を列挙すれば、日本中のどの家も、必ずどれかに該当しますよ。
「奥さん、泥棒に狙われない家なんて、ないんですよ」
「そりゃそうだ」

 誤解しないでいただきたいのですが、私はこの本の内容がウソだといってるのではありません。たぶん、どの事例も実際にあったことなのでしょう。著者はたくさんの事例を集めたのでしょう。
 ただ、この本にかぎらず、似たような防犯本に共通する、決定的にダメな点があります。それぞれの条件の危険度、発生頻度を明記せず、多発多発と煽ってるところです。それがここ何十年かで1件だけの事例なのか、毎年数百件起きている事例なのか、そこがもっとも大事な点なのに書いてない。(そこは有料でアドバイスするってか?)
 深夜、2階の部屋で勉強してた受験生。階下で物音がしたから母親がまだ起きていると思い、夜食を作ってもらおうと下に降りたところ、鉢合わせした泥棒に刺された、なんて事例をあげて、受験生がいる家は泥棒に注意しなさいと警告してます。
 毎年、受験生は何十万人もいるはずですが、そのなかで毎年いったい何人が、泥棒に刺されてるんですか。
 今後、防犯対策の本を出版する人は、事例を列挙するだけでなく、それぞれの危険度を高・中・低みたいにざっくりとでもいいから明記すべきです。読者の恐怖心をむやみに煽って疑心暗鬼にさせるような商売を防犯アドバイザーたちが今後も続けるなら、消費生活センターや消費者庁が動いて、彼らに歯止めをかけるべきですね。
[ 2013/05/23 09:08 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)
プロフィール

Author:パオロ・マッツァリーノ
イタリア生まれの日本文化史研究家、戯作者。公式プロフィールにはイタリアン大学日本文化研究科卒とあるが、大学自体の存在が未確認。父は九州男児で国際スパイ(もしくは某ハンバーガーチェーンの店舗清掃員)、母はナポリの花売り娘、弟はフィレンツェ在住の家具職人のはずだが、本人はイタリア語で話しかけられるとなぜか聞こえないふりをするらしい。ジャズと立ち食いそばが好き。

パオロの著作
つっこみ力

読むワイドショー

思考の憑きもの

サラリーマン生態100年史

偽善のトリセツ

歴史の「普通」ってなんですか?

世間を渡る読書術

会社苦いかしょっぱいか

みんなの道徳解体新書

日本人のための怒りかた講座

エラい人にはウソがある

昔はよかった病

日本文化史

偽善のすすめ

13歳からの反社会学(文庫)

ザ・世のなか力

怒る!日本文化論

日本列島プチ改造論(文庫)

パオロ・マッツァリーノの日本史漫談

コドモダマシ(文庫)

13歳からの反社会学

続・反社会学講座(文庫)

日本列島プチ改造論

コドモダマシ

反社会学講座(文庫)

つっこみ力

反社会学の不埒な研究報告