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私の戦争観とひとつの提案

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。時期的なこともあるので、今回は私の戦争観をお話しします。
 私の戦争観は単純明快です。
 戦争を肯定する資格があるのは、二等兵として鉄砲担いで最前線で戦う覚悟のある者だけである。
 その覚悟がない人は戦争に反対しなきゃいけません。戦争を回避することにできるかぎり協力すべきです。自分が血を流して戦う気もないくせに戦争に賛成してるとしたら、その人は偽善者です。私の本を読んでくれてる人なら私が偽善を否定しないことをご存じでしょうけど、ここはあえて、日本のみなさんがイメージしやすい偽善者という悪口を使っておきます。

 むかしからモヤモヤしてたのですが、若いころは何もいわなかったのに40代、50代くらいになると急に強気の戦争肯定論を唱えはじめる人がいるような気がしてました。自分が戦争に行かなくて済む歳になったから戦争に賛成しはじめたのかな? と疑ってしまいます。
 むしろ、歳を取って自分がもう戦えないことを自覚したなら、戦争はやめようと止める側にまわるのがスジではないですか。自分は安全なところにいて若いもんに戦ってもらおうなんてムシが良すぎますよ。
 日本は平和ボケだ、ぬるま湯につかってる、などと紋切り型の批判をする人たちもむかしからいます。彼らにも本気度を示してもらいたいですね。そうやって檄を飛ばしておのれの強さを誇示する人たちには、いざとなったら自分が最前線で戦うことを志願すると誓約していただきたい。まず自分が行くから、みんなついてこい、っていうのならホンモノだと認めましょう。でも、さあお前ら行け、オレは銃後で見守ってやる、なんてのはダサすぎます。

 だいぶ前に読んだ本に書かれていたので詳細は忘れてしまいましたが、法哲学者の井上達夫さんが憲法9条削除論というのを提唱してました。護憲派も改憲派も矛盾だらけなのだから、いっそのこと憲法9条を削除してしまえというけっこう画期的な提案でした。国防は通常の法律でも運用できるから憲法で規定する必要はないとのこと。
 なるほどそれも一理あるかと感心したのですが、ただし井上さんは同時に、徴兵制の必要性も提案してたはずです。誤解のないよういっときますが、井上さんは極右ではありません。むしろかなり強烈なリベラル派の人です。
 ネット上の反応を見ると9条削除論には賛否両論ありました。ただ、賛否どちらの人も徴兵制の件には触れないようにしてました。
 その気持ちはわかります。誰だって自分が血を流して戦争するのはイヤです。強制的に戦争に狩り出されるなんてイヤだ、というのが正直な気持ちでしょう。私だってイヤです。
 だからみんな徴兵制の議論は避けたがるのですが、戦争を真剣に考えるとなれば、じつは避けて通れない問題なんですよね。戦争というのはある日突然、国民全員が暴力の当事者になることを強制される異常事態のことです。自分の意志と関係なく、暴力の加害者か被害者どちらかにならざるをえないという、きわめて不条理な状態、それが戦争です。だからこそ、こころの弱い人ほど恐怖に負けて、加害者になるほうを安易に選んでしまいがちです。

 徴兵制が嫌われる理由もわかります。それは徴兵制が不公正なシステムだからです。若い人から徴兵されます。老人や中高年は徴兵されるとしても後回しです。でも、地位も名誉も財産もあるのは一般的に年齢が高い人たちです。本来、失うものが多い人ほど、必死に戦っていろいろなものを守らねばならないはずです。家族も財産もない人には戦う理由がありません。なのに現実の戦争では、何も持たない若者が命を賭けて戦うことを強いられてきました。不合理ですね。

 そこで私は徴兵制の新たなシステムを提案します。そんなの実現不可能だとか不道徳だとか頭ごなしに否定せず、ひとつの可能性として、思考実験だと思って検討してみてください。
 中学や高校の授業で議論のテーマにするのはいかがでしょう。生徒たちだって、戦争の悲惨さみたいなテーマは、こすり倒されてて興味が湧かないでしょ。徴兵制のように具体的で、しかも日本ではタブー扱いのテーマのほうが、思考のしがいがあるというものです。

 私が提案する徴兵制は、年齢性別を問わず、所得と財産の多い者から順に徴兵し、最前線に最下級の兵士として送り込む、というものです。
 ただし、その徴兵の義務は、一度かぎり金銭で譲渡することを認めます。その義務を買い受けた者は必ず最前線で従軍しなければなりません。
 このやりかたなら、危険な任務に志願した者に対して多額の報酬が払われます。何も持たない若者にも戦う理由ができるのです。徴兵制と志願制を合わせ持つ仕組みといえましょう。
 財産の多い者から譲渡されることがわかっているのだから、譲渡金額は数億円、それ以上になるかもしれませんが、上限を設ける必要はないでしょう。自分の命と引き替えなのだから全財産を与えても安いと考える人がいてもおかしくありません。
 逆に、譲渡金額の最低限は決めておくべきです。財産や年収の何割以上みたいな感じで良いのではないかと。というのは、人道主義や自殺願望などを理由にタダで代わってあげますみたいな奇特な人が出てくると、その人たちはたぶん本気で戦わないので、このシステムの趣旨がぶれてしまうからです。
 自分のこどもや孫に譲ることも可能ですが、死ぬ可能性が高い最前線に配属されることを承知で、はたして譲るでしょうかね。どちらかというと他人に譲るのでは? どんな心理でどんな選択をするのか、それを考察するのも興味深い思考実験のひとつです。

 さまざまな不正が行われる余地がありますから、不正を防ぐために徴兵義務の譲渡を専門に担当する政府機関を作り、そこが一元的に管理する必要があると思います。
 誰が誰にいくらで譲渡したかを記録して、譲渡金もその機関がいったん預かります。すぐに大金を渡したら国外逃亡するかもしれないので、譲渡金は戦争終結後に渡すこととします。もし日本が戦争に負けたらその金が紙くずになるのだから、必死に戦う理由になります。逆にいうと、日本が戦争に負けると思ってる人は譲渡に応募しないでしょう。

 戦死した場合に譲渡金をどうするか。その規定がちょっと難しい。戦死したら譲渡金は没収されて国庫に入るってのも横暴ですよねぇ。でも普通に相続可能にしてしまうと、本人の希望ではなく、遺産目当ての誰かにそそのかされて、もしくは脅されて応募してくる可能性があります。
 たとえ本人の希望だったとしても、さっさと戦場で死んで、家族に大金をのこせればいいや、なんて考えで応募されるのもこのシステムの主旨に反します。私がこのシステムを提案するのは、応募者に最前線で死んでほしいからではありません。
 本来は、失うものが多い人たちが死ぬ気で最前線で戦うべき義務を、本当にやる気のある人に多額の報酬を支払って肩代わりしてもらうわけです。理不尽で不公平な要素が多い徴兵制を少しでも公正なものにする試みです。

 私の試案を叩き台にして、自分がこれなら納得できるといえる徴兵制度をみなさんも考えていただきたい。中高生などの若者がどういう意見を出すか、興味深いところです。さて、はたして納得できる案が思いつくでしょうか。
 おそらくそんな案は出ないでしょう。何をどれだけ考えても、結局、戦争は理不尽なものであるという結論に戻ってくるんです。戦争を合理的なものにすることは不可能だし、戦争で誰もがしあわせになるなんて、ありえません。それでも戦争をやりたがるヤツはいます。やりたいヤツだけでやればいいのに、そうはいきません。やりたがるヤツが始めたのに、やりたくない者までやらされる、それが戦争です。
[ 2023/08/15 20:30 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)

旧ツイッターのヘンな仕様変更

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。しばらく前から、パソコンのブラウザではツイッターアカウントにログインしないとツイッターを見ることすらできない状態が続いてました。
 これについてイーロン・マスクさんは、データを大量に収集されないための一時的な措置ですぐに元に戻すといってました。で、先日ついに、ログインしなくても見られるようになったのですが……
 なんかヘン。以前はツイートの新しい順に表示されてたのが、パソコンのブラウザでログインせずに見ると、いいねの多い過去のツイートから順に表示されるよう、仕様が変更されてしまったんです。
 アンドロイドのアプリだと、ログインせずとも以前のように最新順に見ることができます(私はapple製品は持ってないので確認できません)。なぜかパソコンのブラウザ版だけヘンな仕様にされてしまいました。ログインしないかぎり、この並び順は変更できないのです。
 この仕様変更によって、私のような個人が新刊発売情報などをツイッターで発信しても、アカウントを持ってない人には届かないようになってしまいました。

 いや、そんな個人のお知らせなんてどうでもいいんです。もっと問題なのは、自治体が災害情報の発信にツイッターを使えなくなってしまったことのほうです。
 ログインしなくても(ツイッターアカウントを持ってなくても)パソコンのブラウザで見れば最新のツイート順に表示されるという仕組みだったから、自治体はそれを利用して災害時に最新情報をツイッターで発信してきたわけです。
 でも、いいねの多い順に表示される仕様だと、過去の災害情報が先頭に表示されてしまいます。これでは誤情報が広まってしまうかもしれません。
 今日は8月6日ですが、沖縄地方には台風が接近して大変なことになってます。
 午後5時ごろに那覇市の防災アカウントをパソコンのブラウザで見てみました。ログインして見ると最新の情報順に表示されるのですが、ログインせずに見ると、2019年の台風情報が先頭に表示されてしまいます。

 ツイッターはこれまで、そのオープンな仕様によって公共財のように使われてきたのですが、マスクさんが閉じたシステムにしてしまったことで、独自の価値と魅力が失われてしまいました

 ほんっとに、マスクさんはろくなコトしねぇよな。あの人がツイッターを買収してからログイン必須になったり、閲覧数が制限されたり、差別や過激思想を広める連中のアカウントが復活したり、街路樹枯らしたり(あ、これは違うか)
 改良された点がひとつでもありますか。ないでしょ。過去のツイッター社も何度もツイッターの仕様を変更してきましたが、改良・改悪どちらもありました。マスクさんになってからはすべてが改悪です。改悪して利益を出すことなんて不可能なんじゃないの。まあ、よのなかには金持ちを無条件で崇拝する人が意外と多いので、そういう人たちはマスクさんの行為をすべて肯定するのでしょうけど。

 私はSNSをほとんど使わないしツイッターもたまにしか使わないけど、ここまでがっかりな改悪が続くと、べつのSNSへ乗り換えも考えちゃいます。一番まともそうなのはブルースカイなんだけど、まだ招待制なんですよね。
[ 2023/08/06 20:24 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)

春ドラマの最終評価と夏ドラマ序盤評

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。朝は6時ごろに起きて、テレビをつけてNHKのニュースを見ながら朝食の準備をするのが日課です。日曜だけはその時間、時代劇の再放送なんです。先週まで『雲霧仁左衛門3』だったのですが、今週から『雲霧仁左衛門5』が始まりました。なんで? と思って調べてみたら、『雲霧仁左衛門4』のキャストに永山絢斗の名が……。

 さて、春ドラマの最終評価と夏ドラマ序盤評です。
 まず春ドラマですが、最終的な評価は序盤と変わりまして、『風間公親 教場0』と『ラストマン』が同率1位、『日曜の夜ぐらいは……』と『波よ聞いてくれ』を同率3位にしました。

 『風間公親 教場0』は人間ドラマとしての評価です。刑事たちを、それぞれに個人的な問題を抱えている、欠点のある弱い人間として描き、彼らにその問題と向き合い克服するよう仕向けていく風間は優れた教師です。
 風間と刑事たちの緊張感あふれるやりとりは見応えがあったのですが、各話の事件とトリックにいまいちなものが多いのが欠点。だから脚本の君塚さんも毎回の事件はあっさり片付けて、刑事たちの人間ドラマの部分をふくらましてました。
 トリックが現実的でないという批判には、すべて論理的に可能なトリックだからミステリとしてはフェアであるとの反論もありました。それに再反論しておきます。
 ミステリは基本的に活字、小説で味わうべきエンタメだと私は思ってます。活字を読んで脳内に作るイメージはあいまいなので、多少無理があるトリックでも許せてしまいます。でも映像化するとはっきりくっきりすべてが見えてしまうので、現実的でないトリックは、一気にウソ臭さが目立ってしまうのです。
 だからミステリを映像化する際は、論理的可能性だけでなく実現可能性も考慮しなければなりません。映像作品ではフェアであるかだけでなく、リアルであることが求められるのです。
 ちなみに過去の『このミステリがすごい』を確認したところ、単発ドラマの原作だった『教場』は年間2位の高評価でしたが、連ドラの原作『教場0』『教場X』は20位以下のランク外でした。

 『ラストマン』は最初から最後まで安定のおもしろさだったので文句はないけど、斬新さや意外性には欠けてました。てか、途中から捜査官の目が見えないって設定、どうでもよくなっちゃってない?

 『日曜の夜ぐらいは……』は思ってたのと全然違いました。初回の印象ではキツい展開を予想してたのですが、宝くじが当たって3人でカフェを始める平和なお話でした。岡田惠和さんとクドカンさんのドラマには、本当に悪いヤツは出てこなくて、悪いヤツもじつはけっこういいヤツでした、みたいなパターンが多いんですけど、今回もまさにそれ。

 序盤の印象が最後まで変わらなかったのが『波よ聞いてくれ』。エピソードが弱くて途中で飽きちゃう回もあったけど、これくらい個性的でトガってるドラマもあってほしい。大きなストーリーが進まないうちに終了したので、えっ、これで終わりなの? って感じでした。小芝さんがせっかく強烈なキャラを熱演してたのだから、続編作らないともったいないですよ。

 始まったばかりの夏ドラマを期待度の高い順に並べてみます。
『最高の教師』
『VIVANT』
『警部補ダイマジン』
『初恋、ざらり』
『シッコウ!!』
『彼女たちの犯罪』

 『最高の教師』は生半可な感動学園ドラマにケンカを売る気まんまんです。おそらく今後も、二転三転する仕掛けを用意してありそうで、期待大。
 国際的陰謀・国家的謀略の大風呂敷を広げている点で共通する『VIVANT』と『警部補ダイマジン』ですが、かたや金に糸目をつけない超大作、かたや低予算映画のノリ。この手の話は、謀略の全体像があきらかにされた時点で、おおーと感心するか、なんじゃそりゃとずっこけるかのどちらかですが、さあ、どちらに転ぶでしょうか。
 『初恋、ざらり』は主演の二人の演技がうますぎるんで観ちゃいますけど、けっこう重い話ですよ、これ。
 差し押さえをする執行官という職業の実態に驚いたのが『シッコウ!!』。給料はなくて完全歩合制という、バウンティハンターみたいな職業が日本にもあるんですね。たぶん原作では執行官の織田さんだけが主役なんでしょ。そこに犬好きの女性をムリヤリつけ足してダブル主演にしてるんですが、すべての差し押さえ案件で犬を登場させるのはムリがあるような。
 『彼女たちの犯罪』は、浮気された女と浮気した女、そして女性刑事の3人が組んで、なんらかの犯罪を実行したという話らしい……ってところで初回は終わり。続きを観ないと評価はできませんね。

 それと、以前BSで放送された『しずかちゃんとパパ』がようやく7月25日からNHKの地上波で放送されます。私が昨年観たドラマのなかでベストに選んだ作品なので、お見逃しなく。
[ 2023/07/23 17:59 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)

旧統一教会問題を風化させないために

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。先週、7月3日から9日の週には、旧統一教会問題をあらためて検証する報道番組が地上波・BSで放送されました。旧統一教会に関しては、まだまだ現在進行中の問題がたくさんあります。終わったこととして風化させるわけにはいかないので、遅ればせながら、書き留めておきます。

 ちなみに私はおよそ1年前、当ブログで政治と宗教に関する問題を論じました。(無宗教な私から見た政治と宗教の問題

 かなり長い記事ですが、未読のかたはぜひ読んでください。本当に重要なことは140字では説明できません。140字の文章しか書けない人は、140字分の思考しかしてないんです。

 宗教と政治が癒着するのは非常に危険であるという私の懸念はいまでも変わりませんし、強まるばかりです。宗教的な価値観なら「私は信じない」と拒否できますが、議会で多数派を占める与党と宗教団体が組んで宗教的価値観を法律化したら、信者以外にも強制することができてしまうのです。これけっこう恐ろしい話です。信仰の自由とは、信仰しない自由、信仰を強制されない自由でもあるということを忘れてはいけません。
 もうひとつ問題なのは、信仰の自由は何よりも優先するとカン違いしてる人がいることです。信仰の自由はそんなに強い権利ではありません。個人の人権のほうが優先します。もし宗教団体が誰かの人権を侵害するような行為をしていたら、その宗教団体は法で罰せられなければならないのです。信仰だから何をやっても許されるなんて考えは、思い上がりもはなはだしい。

 1年前にはワイドショーが連日取りあげていた宗教と政治の問題ですが、そんなにネタが続くわけもなく、飽きっぽい視聴者に合わせてトーンダウンしていきました。
 私はこの1年、旧統一教会問題を扱った報道番組をなるべく見るようにしてきました。この問題の取材をもっとも粘り強く続けてきたのはTBSだったんじゃないでしょうか。先週は土曜夕方の『報道特集』で「検証第19弾」と銘打って放送してました。BSの『報道1930』でも旧統一教会問題を再検証してました。
 事件当初は不自然に報道が少ないと批判されたNHKも、現場の記者たちは地道に取材を続けていたようです。先日のTBS『報道1930』とNHKの特番はほぼ同時に旧統一教会総裁の韓国での発言を報じてました。日本で旧統一教会が批判されていることに業を煮やした総裁が、「岸田を教育しろ!」と吠えたのです。
 自民党の支持者でない私でさえ、他人を完全に見下したこの発言にはムカつきました。おまえ何様なんだ、と。
 私はエラそうなこといってイバってる人間が大嫌い。だから与野党問わず、エラそうにしてる政治家はみんな嫌いだし、根拠のないことをエラそうにしゃべってる教祖や坊主や占い師にも虫酸が走ります。
 TBS・NHKの両番組とも、日本での教団の動向や、自民党は教団と縁を切ると宣言したのに、地方議会では信者を公言する者が自民党議員として堂々と活動を続けているなどの実態を報じた上で、同じ疑問を投げかけてました。この1年で、旧統一教会は結局、何も変わってないんじゃないか。

 私でさえムカついているのだから、自民寄りの保守や右派はさぞかし「岸田を教育しろ」発言に怒り心頭のはず。そこで日曜の朝に放送されたフジテレビの『日曜報道THE PRIME』も見てみました。

 近頃はテレビを見ない若い人が多いようなので、ご説明します。まず、30年以上続いているTBSの『サンデーモーニング』(サンモニ)という長寿番組があります。左派寄りと批判されることが多い番組ですが、私はこれ、中道左派くらいの立ち位置の番組だと思います。そんなに過激な左翼発言をしてる出演者なんて、いませんけどね。一番過激だったのは張本さんでしょ(笑)。スケボー競技のVTRを見て、こんなの誰でもできるじゃねえか、なんていったりとか。
 司会の関口宏さんは以前、自分はずっと真ん中のつもりでやってきたけど、これより左の番組が全部なくなってしまったので、いつのまにかこの番組が一番左にされてしまった、とジョークまじりにいってましたけど、なかなか的を射た指摘です。
 右派ポピュリストたちにとっては右派を公言してる人だけが仲間なんです。それ以外は中道も含め、真ん中より左にいる人すべてを左派とひとくくりにして攻撃してきます。
 そこでフジテレビが、『サンモニ』の対抗馬として真裏の時間帯にぶつけてきた右派特化番組が、『日曜報道THE PRIME』なのです。
 しかしその期待に反して『日曜報道THE PRIME』は誰も見てません。なぜなら、右派の人たちもみんな、イチャモンをつけるために『サンデーモーニング』を見るからです。
 実際、視聴率にもそれは如実に表れていて、ネットに上がってる世帯視聴率ランキングでは『サンモニ』が安定して10%を越える数字を出してるのに対し、『日曜報道』はいつもランク外なので数字がわかりません。
 『サンデーモーニング』がなんだかんだいって30年以上も長続きしてるのは、支持者もアンチも違った愉しみかたができる番組だからです。『日曜報道THE PRIME』は右派の人すら見向きもしないほどクソつまんないんです。

 でもさすがに「岸田を教育しろ」などという不遜極まりない発言があった直後です。右派の論者ばかりが出演する『日曜報道』は旧統一教会にどんな鉄槌をくだすであろうかと、怖いもの見たさで誰も見ない番組にわざわざチャンネルを合わせました。
 この日は安倍さんの業績を手放しで誉め称えまくる追悼特集でした。しかし1時間20分の番組中、安倍さんの死の原因となった旧統一教会問題に触れたのはたったの4分だけで、しかも「岸田を教育しろ」発言については完全スルー。それどころか司会の橋下徹さんは、やっきになって旧統一教会問題と安倍さんの死を切り離そうと、論点がむちゃくちゃな宗教性善説を唱えてました。
 日和った連中が旧統一教会憎し、の感情で批判してるだけだ! などとわめいてるんです。人間や社会に対し、この人はその程度の理解しかないのか、と唖然としました。
 憎し、なんて一時(いっとき)の感情論だけで批判してるわけがない。この1年間の報道で、旧統一教会がしてきた違法行為や悪行が暴露されたのに、橋下さんは報道を何も見てないんですかね。
 家庭を大切にとかきれいごとをいってる教団が、高額献金で家庭と家族の人生を破壊してきたことで、宗教二世の人たちがどれだけ苦しんできたか。その被害を訴えた大勢の声は橋下さんの耳にはまったく届いてないようです。それは憎しみのひとことで片付けられるような浅い問題ではありません。
 日本の信者から巻き上げた高額献金が北朝鮮の資金にもなってるのは外交や国防にも影響を及ぼしかねない問題だし、組織的な養子縁組あっせんもきわめて違法性が高いとされてます。教団のほうこそLGBT憎し、で彼らの権利を阻害するために、まったく根拠のないエセ科学で同性愛者などを危険人物扱いし、地方の自民党議員に取り入って、LGBTの権利を認める条例の制定を妨害しています。自分らの特殊な家族観、人間観を信仰の自由を盾に正当化してる一方で、他人の家族観は政治の力で排除しようとするのは、あまりにも身勝手です。教団のこうした行動が次々にあきらかになったいま、とてもじゃないけど宗教性善説では擁護できません。
 人権侵害や違法行為をまったく批判しようとしない橋下さんみたいなおよび腰の態度を「日和ってる」というのです。

 番組には櫻井よしこさんも出演してましたけど、マスコミは旧統一教会ばかりを批判してるが、なぜ創価学会を批判しないのだ、とこちらも論点をずらして問題をぼかしてるだけ。創価学会に批判の矛先を向けたところで、旧統一教会の罪や疑惑が消えるわけではありません。
 だいいち、それをいうなら、政治に口を出すすべての宗教を批判しなきゃいけません。旧統一教会も創価学会も神社本庁も幸福の科学も、櫻井さんはすべて同列に批判できるのでしょうか。私は無宗教者だから政治に口を出す宗教をすべて批判できますが、櫻井さんにはムリそうな感じがしますけどね。

 でも、やはりなんといっても腹が立ったのは橋下さんの態度・発言です。被害に遭ってる人たちや苦しんでいる人たちの存在を平気で無視できるだなんて、この人、なんで弁護士になろうと思ったんだろう。あんな調子で毎週やってるのなら、そりゃあ『日曜報道』なんて誰も見なくなりますよ。

 私は安倍さんの人間性は三流、政治家としては二流だと思ってました。でもだからといって、銃撃した犯人に同情はしません。あの犯人は逆恨みで殺したのですから、それは完全に彼が償うべき罪です。減刑を嘆願する動きには賛成できません。
 ただし、あの事件の背景に旧統一教会の反社会的ともいえる極端な教義や活動実態が存在し、犯人を異常な行動へと突き動かしたのも、否定できない事実です。だから安倍さんの死に旧統一教会は何の責任もない、なんて宗教性善説も受け入れがたい。
 多くの人の人権を侵害してきた旧統一教会は、やはり解散させるべきです。解散命令を出すというのは、宗教法人としての優遇措置を受けられなくするというだけの罰であり、それによって宗教活動が禁じられるわけではありません。信仰の自由を奪うことにはならないので、解散命令は適切な処分だと考えます。
[ 2023/07/14 13:41 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)

『レコード芸術』の休刊と新時代のクラシック入門スタイル

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。図書館で『レコード芸術』の最終号を読んできました。
 『レコード芸術』は戦後まもなくの創刊以来、およそ70年にわたってクラシック音楽のレコード・CDの新譜情報やレビューなどを載せてきた老舗雑誌でした。といってもクラシックを聴かない人たちにとってはまったく縁のない雑誌だったことでしょう。
 ただ、歴史の長い雑誌ですから、数か月前に突如休刊が発表されると、新聞各紙で報じられました。

 私は10代のころは洋楽、20代からはもっぱらジャズを聴いてきました。クラシックのおもしろさがわかるようになったのは、ようやく40歳過ぎてからで、それ以来、クラシックの新譜情報に関しては『レコード芸術』にほぼ依存してました。
 でも買ったことは一度もありません。毎月図書館で読んで、興味のある新譜をメモっておき、iTunes StoreやSpotifyで試聴、気にいったものはCDやiTunesで購入、というのが習慣になってたんです。
 コロナ禍で図書館の利用が制限されたころ、auブックパスの雑誌読み放題で『レコード芸術』が読めると知って利用するようになりました。家で読めるので便利だったのに、去年の12月号を最後に『レコード芸術』が読み放題から突如消えたんです。
 がっかりしてブックパスを解約。また図書館で読む習慣に戻った矢先の休刊発表。そうか、去年末にはもう休刊が決まってたんだな、とそのとき悟った次第。

 私としては2010年にジャズCDの情報誌『スイングジャーナル』が休刊したときのほうがショックでしたね。『スイングジャーナル』は毎月買ってましたから。こちらも創刊は『レコード芸術』と同時期の老舗雑誌だったのですが、一足先に力尽きたのでした。
 ジャズもクラシックも音楽界では斜陽ジャンルなのでしょう。ファンは減る一方って気がします。『レコード芸術』はよくここまで持ちこたえたものです。

 そもそもCD自体が売れなくなってきた時代です。サブスクで新譜も旧譜も全部聴けちゃうだなんて、なんかもう、暴力的な革命ですよね。
 私もSpotifyを使ってみて愕然としました。これまで何十年、CDをコツコツ買い集めて自分だけのライブラリを作ってきた努力はなんだったのか、と。ジャズもロックもクラシックも、ほぼ全部Spotifyで聴けるじゃん。そりゃあ、CDショップもCDレンタルも廃業するわなぁ。

 さて、今後はクラシックの新譜情報をどうやって知るかが悩みどころ。クラシックファンが書いてるブログを検索して読んでみると、途方に暮れてるかたもけっこういらっしゃるようで。
 『レコード芸術』は国内盤レビューよりも、海外盤の新譜紹介ページを楽しみにしてた人が多かったんじゃないでしょうか。ジャズでもクラシックでも、ホントにおもしろいのは輸入盤なんですよね。
 ジャズの場合、『スイングジャーナル』亡き後も、ディスクユニオンなどのCD輸入販売店が熱心に海外盤新譜情報をネットで流してくれてるのでおおいに助かってます。
 でもクラシックには、そういう日本のサイトやショップが見当たりません。クラシックに詳しいマニアはどこから情報を仕入れてるのだろうとブログなどを探したら、イギリスのprestomusicというショップが紹介されてました。覗いてみるとたしかにかなり詳しい情報とレビューが満載なので、しばらくはここを頼りにしてみようかと思います。

 さて、これからクラシックを聴いてみようと思ってる奇特な人がいたら、迷わずSpotifyなどのサブスクをおすすめします。他のサブスクを利用したことがないので比較はできませんが、Spotifyにはクラシックの名盤といわれるものも新譜も、ほとんど揃ってます。
 たとえば、ベートーヴェンの「運命」の冒頭だけをさまざまな指揮者のバージョンで聴き比べるなんて贅沢な楽しみかたも、サブスクなら簡単にできてしまいます。

 ガイドブックとしておすすめしたいのが、『新時代の名曲名盤500+100』(音楽之友社)というムック。これは『レコード芸術』の恒例企画として、5年ごとぐらいに改訂されてきたクラシックの名盤CDガイドです。
 今年初めに改訂版が出たばかりですが、名盤の選定委員の平均年齢を下げたことで内容も刷新されました。以前は1950~70年代に録音された巨匠指揮者の古臭い演奏をありがたがる年寄り批評家の意見が幅をきかせてたのですが、選者が若くなったことで、今世紀に入ってから録音された名盤がランキングの上位を占めるようになったんです。
 過去の巨匠の演奏って、古臭くてつまらないと、ずっと思ってました。私は楽器も演奏できないし、クラシック音楽の理論についてもまったくの無知なシロウトです。だからどこがどうつまらないのか説明はできないのですが、最近の演奏のほうが聴いてて楽しいんです。この新たなランキングを見て、自分の感覚は間違ってなかったのだと嬉しくなりました。

 このムックを参考にして、サブスクで片っ端から聴いてみるというのが、それこそ新時代にふさわしいクラシック入門スタイルではないかと思います。
 『レコード芸術』は休刊になったけど、『名曲名盤500』の5年ごとの改訂は、今後も続けていただけませんかね、音楽之友社さん。
[ 2023/06/22 20:30 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)
プロフィール

Author:パオロ・マッツァリーノ
イタリア生まれの日本文化史研究家、戯作者。公式プロフィールにはイタリアン大学日本文化研究科卒とあるが、大学自体の存在が未確認。父は九州男児で国際スパイ(もしくは某ハンバーガーチェーンの店舗清掃員)、母はナポリの花売り娘、弟はフィレンツェ在住の家具職人のはずだが、本人はイタリア語で話しかけられるとなぜか聞こえないふりをするらしい。ジャズと立ち食いそばが好き。

パオロの著作
つっこみ力

読むワイドショー

思考の憑きもの

サラリーマン生態100年史

偽善のトリセツ

歴史の「普通」ってなんですか?

世間を渡る読書術

会社苦いかしょっぱいか

みんなの道徳解体新書

日本人のための怒りかた講座

エラい人にはウソがある

昔はよかった病

日本文化史

偽善のすすめ

13歳からの反社会学(文庫)

ザ・世のなか力

怒る!日本文化論

日本列島プチ改造論(文庫)

パオロ・マッツァリーノの日本史漫談

コドモダマシ(文庫)

13歳からの反社会学

続・反社会学講座(文庫)

日本列島プチ改造論

コドモダマシ

反社会学講座(文庫)

つっこみ力

反社会学の不埒な研究報告